62.

 少しでも怪人への改造を防ぐために、私たちは大規模な作戦を行うことになった。

 その名も桜島さくらじま作戦。

 結陽ゆうひの情報によると桜島に”5”の拠点があるらしい。そこに乗り込み、壊滅させようという作戦だ。

 詳しい作戦内容はこれから決める。


「まずは日時ね。なるべく早い方が良いけど」

「早めに決めてもらえるなら有給申請します」

「私も。いざとなれば仕事辞められるので問題ないです」


 青木さんと凛華りんかさんはスケジュール帳を開きながら返答した。黄川きがわさんもスマホを開き、問題ないと言った。緑山さんも本業が支部の職員だから問題ないそうだ。

 あとは私たちか……。


「学校は休んで良いんだよね?」

「担任の先生としては休んで欲しくないなぁ」

透子とうこだって結局休むんじゃん」

「私は良いんだよ、有給消化だし」


 こんなところで学校に行けと言われても困る。私と結陽だって桜島作戦に参加したい。


「もう既に四日休んでるんだし、良くない?」

「良くない。出席日数足りなくなるよ」

「別に高校卒業出来なくても……」

「絶対だめ」


 透子は頑なに譲らない。教師としての信念なのか、親代わりとしての熱意なのか。何が透子をそうさせるのか私には分からなかった。


「ええ……じゃあどうするのさ。まさか……私たち抜きで作戦を決行するとか言わないよね?」

「それはないよ。凛華の回復が間に合うか分からない状況で戦力を削ぐようなことはしない」

「じゃあ……」

「土日にしよう」

「……は?」


 そんな運動会の日程を決めるみたいな……。

 さすがにこんな緩い空気、みんな呆れているかと思った。ゆっくりと周りを見渡すと……。


「良いっすね。どちらかと言えば土曜日が嬉しいですね、俺は」

「土日祝日が休みなので助かります」


 思いのほか好評だった。黄川さんはサービス業だし、渋るかと思われたがシフト制らしく、逆に都合が良いそうだ。


「え。じゃあ本当に……?」

「今週末の土曜日にしよう。前日には移動したいところだけど、どう?」

「日付が変わるまでに着けば良いですか?」

「そうね……前日の金曜日中に現地集合。交通費はこのカードを使って」


 透子は懐から小さな封筒を人数分取り出した。中身は……クレジットカード?


「全て支部の経費で落ちるから。交通費も食費も、全部このカードで支払うこと」

「領収書は?」

「いらない。ちゃんと履歴が残るし、使った分が全て経費になるから」


 そんなカード、初めて見た。今まで支部のお金で何かをするなんてなかったから、変な感じだ。厳密には私たちの給料も武器の維持費も、全て支部のお金だけど。

 こんなふうに目に見える形で渡されたのは初めてだった。


「……あれ?」


 いつまで経っても私たちの分のカードが回ってこない。催促するように透子に視線を向けたが封筒が手渡されることはなかった。


「ねえ、私のは?」

「春と結陽は私と一緒に行くでしょ? 私が預かっておくよ」

「えー」

「大事なカードなんだから私が持つよ」


 他のメンバーは自分で持つというのに。……なんだか私だけ、子ども扱いだ。

 そりゃ私はまだ高校生だし、他のメンバーと比べて子供なのは間違いない。だけど、子ども扱いされるのは面白くない。

 不満そうな顔をしてみるものの、効果はない。透子は顔色一つ変えずに話を進めた。


「泊る場所も交通手段も任せるけど、常識の範囲内でお願いね。馬鹿みたいに高いホテルとかは禁止で」

「はーい」

「了解っす」


 全員が頷いたのを見届けてから、次の話題へと移る。


「宿泊場所は鹿児島港の近くにしてね。翌朝、フェリーで島に向かうから」

「……ふぇりー?」


 結陽が不思議そうな顔でこちらを見た。バスも知らないくらいだし、フェリーも聞いたことがないのだろう。


「船のことだよ。鹿児島港から海を渡って行くんだって」

「ふーん……?」


 理解したのか、していないのか。その返事だけでは分からなかったが、どうせ私たちは三人で一緒だ。行けば分かるさ。


「事務的な話はここまでにして、結社の話をしよう」


 瞬間、修学旅行みたいな和やかな雰囲気は消え去った。結社、と聞くと嫌でも空気が凍ってしまう。


「結陽。桜島には結社のアジトがあるんだよね?」

「そう。”5”のアジトがある。山の中にね」

「山の中……?」


 桜島には行ったことがないからあまり詳しくない。けど、確か噴火したことで有名じゃなかったっけ……。そんな危ないところにアジトが?


「火山のどこかに秘密の入り口があるらしい。私も実際に行ったことはないけど……。きっと行けば分かるよ。私なら……分かる気がする」

「火山って……最近はもう噴火してないの?」

「そんなことはないよ。ほら、ニュースに載ってる。むしろ最近は火山活動が活発で困ってるくらいみたいだよ」


 凛華さんがスマホを見せてくれた。結陽と二人で食い入るようにスマホの画面を見つめる。そのサイトには確かに火山活動が活発になっていると書かれていた。


「……これ”5”の仕業だと思うよ」


 ぽつりと結陽が呟いた。

 透子も緑山さんも、その情報は掴んでいなかったらしく、目を見開いて驚いている。


「どこかで聞いた気がする。火山帯を爆発させようとする作戦を実行中だって」

「なんでそんなこと……!」


 理解できない。なんでそんなことをするのか。火山帯を爆発させて、結社に何のメリットがあるって言うんだ。


「桜島には良くないものがあるらしい」

「……どういうこと?」

「結社にとって致命的な、何かが眠っているらしい。だから爆発させて全てなかったことにしようとしているんだ」


 結社にとって致命的ということは、爆発する前に私たちが回収すれば強力な武器になるのではないだろうか。

 同じことを考えていた透子はそれを口にする。


「桜島作戦はアジト壊滅とその何かの回収だね。ここを押さえれば残りの戦車ルークとの戦いも有利に進められるでしょ」

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