マジャパヒト王国の資料……第11話エピソード6の分

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マジャパヒト王国……巨大な海上交易圏

 マジャパヒト王国が影響力を持った地域は、現在のインドネシア共和国とマレーシア、一部フィリピンに到るまで広大な範囲です。

「デーシャワルナナ」によると、直接支配はしないものの「保護国」とする国々がいくつも記載されています。スマトラ島の24の町、カリマンタンの23の町、マレー半島の6の町、ジャワ島以東の22の島々が「分をわきまえ従順」とされています。

 一方で「友好国」とされる国々が、タイ、アユタヤ、ナコンシータマラート、マルタバン(ビルマ南部)、ラージョプラ、シンハナガリー、チャンパー、カンボジア、ベトナム。

 これらを見るに、マジャパヒト王国は中国〜マラッカ海峡〜インド〜マラッカ海峡〜ジャワ海〜バンダ海までの広大な海上交易ネットワークを組み込んでいたことがわかります。

バリ島以東の島々、マルク諸島やスラウェシ島は丁字やナツメグ、メースといった香辛料の産地。ジャワ島はこれらの島々を抑えて二次集積地としての地位を確立し、蘇木、金剛子(数珠の原料となる木の実)、白檀香、丁字、ナツメグ、ニクズク、メース、胡椒、鋼、亀甲、タイマイなどが特産物としてジャワ島から輸出され、中国からは陶磁器、麝香、綿布、ビーズといったものが輸入されました。

明朝との関係

 1368年に明朝が成立すると、マジャパヒト王国はすぐに朝貢使節団を派遣。引き続き中国との関係維持を目指しました。朝貢貿易がいかにマジャパヒト王国にとって利益が大きかったかを物語っています。

 ラージャサナガラ王の時代、王都には東西二つの王宮があり、西には母トリブワナー夫妻と王ラージャサナガラと妻、そしてその娘。東には叔母のラージャデーウィー夫婦、娘インドゥデーウィーと夫ラージャサワルダナが住んでいました。ところがラージャサナガラ王が死亡すると、東西王宮の抗争が激化するようになり、明朝に東西それぞれが朝貢するといった事態になりました。

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★「海の街道」と「奥座敷」

 マレー半島とスマトラ島に挟まれたマラッカ海峡は、古代から海の交易路の要衝であった。半年ごとに東西に風向きが変わるモンスーンを利用して、中国、アラビア、ペルシャ、インドなどの帆船が行き交い、「海の街道」沿いのスマトラ島東岸、ジャワ島北岸には多くの港が発達した。

 港には市街地(港市)ができ、やがて港市国家と呼ばれる都市国家が現れた。港市国家は、王と商人からなる商業社会である。王は、通商を通じて覇権を拡大し、多様な民族が集まる街には競争と合理主義の交易文化が発達した。港市国家の代表格が、スマトラ島南部のパレンバンを拠点に7世紀から14世紀まで続いたシュリーヴィジャヤ王国である。

 一方、ジャワ島の内陸部と東隣のバリ島は、火山灰の肥沃な土地に水田が広がる「奥座敷」であった。ここには、王と農民からなる農業社会が発達した。王は、治水によって地域を統一し、農民は協調と助け合いの農耕文化を育んだ。13世紀末にジャワ東部に建てられたマジャパヒト王国は、内陸農業国家の典型例である。

 マジャパヒト王国は、14世紀にはシュリーヴィジャヤ王国を攻め滅ぼすまでに拡大した。だが、16世紀はじめにはジャワ島北岸に興った港市国家に征服されてしまった。「海の街道」と「奥座敷」を舞台に、港市国家と農業国家のせめぎ合いが続いたのである。

★香辛料を求めて

ヨーロッパでは、香料は同量の金と交換されるほど珍重された。

 モルッカ諸島(現マルク諸島)は、古くから香料諸島として知られていた。「海の街道」の港市国家は、香料の集積地、中継地でもあった。香料諸島が産する三大香料の一つは胡椒こしょうである。だが、胡椒はインドにもあった。香料諸島でしか手に入らなかったのは丁子ちょうじ「クローヴ」と肉豆蔲にくずくである。

 丁子は、丁の形をした花のつぼみのガクの部分で、日に干すと強い甘い匂いがする。ハルマヘラ島の西側に縦に並ぶテルナテ、ティドレ、マレ、モティ、マキャンという五つの小島でしか採れなかった。テルナテの王は一時はスラウェシ島まで支配する勢力を誇った。

 肉豆蔲にくずくは、梅のような青い実を割ると、種がナツメグ、種を包む真紅の種皮がメイスというスパイスになる。こちらはバンダ海のバンダ島にしか原生しなかった。

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