第10話……エピソード2……ハーレム生活からの逃亡

1374年9月下旬日曜日朝7時……トプカピ宮殿

 アドルフがイスタンブールに帰ってきてから1週間が過ぎた。チャンダルル家の人たちをウラマーの責任者に抜擢し、神学校の授業計画をまとめさせると特にすることもなくなった。法律の実務に関しては彼らが適任だし、任せておいても差し支えない。

 内政についてはほぼ問題ないところまで充実してきている。ビアンカの政策が功を奏しているのだろう。

 ただ軍事面で一抹の不安を覚えていた。ジェノヴァ、ヴェネティアは独立を維持しており、スペイン、イギリスの脅威もある。アドルフはそう考えると居ても立ってもいられなくなった。

 クレタ島攻略戦を仕掛けようと考えた。以前のロードス島攻略とは少し違う方法を取りたい。クレタ島は大きすぎて海上封鎖ができるだけの軍艦がないのである。セウタで注文したガレオン船は300艘すでに完成されていた。次兄のケイマンに助けを頼むことにした。12万名の兵を送ってくれるだろう。600✕400=24万名の兵力を使える。

ロードス島攻略時に兵の食料の補給路はロードス島の海上 ⇔マルマンリスを用いた。

 ロードス島攻略時の食料補給の方法を振り返ると、300艘のガレオン船をロードス島の海上封鎖に当てていたが、3交代で、ロードス島と小アジアの港マルマンリスとの間を毎日往復して、6万の兵を陸上にとどめて陸上からの砲撃に専念させるに必要な全ての物資の輸送に従事させていた。

 トルコ兵の粗食は有名だが、6万の兵を食べさせるのは大変である。もともとロードス島は、小アジアとは異なり小麦の産出が少なく、普段でも輸入の必要があった。ヒツジを主とする家畜も、ロードス島の市街に近い地域の農民は市街内に避難していたし、遠い地域には、騎士団はあらかじめ通告していて、トルコ人の攻めるに困難な山地に避難させてある。また、水も、近くの井戸や泉は、敵が利用できないようにしていた。トルコ軍は、物資を外部から運んでこなければならなかった。

 しかし、アドルフは、これもすでに見込んで作戦計画を立てていた。トルコの船は、マルマンスクまで行けば、そこには水も小麦粉も羊の肉も、砲撃に使う砲丸や火薬類のすべてを、船に積み込めば良いように用意されている。順次補充されるので不足することはなかった。小アジアは、小麦の産地としても有名であった。

 アドルフは、6万の軍勢の半数は工兵を選んだ。騎士団の砦に近づき、トンネルを掘らせたのである。

 実行はされなかったがコンスタンチノープル攻略のときに考えた方法である。時間は掛かるが確実に砦の内部にたどり着くことが出来る。実際にあと1,2日で完成という所まで来ていた。もちろん敵もトンネルを掘る音で察知し、ありとあらゆる妨害を仕掛けたが兵力にまさるトルコ軍の勝利が近づいていた。その矢先に敵が降伏したのである。

 今回はロードス島に前もって物資を送りこんで置き、クレタ島の東部に上陸した軍隊に海上から輸送しようと考えていた。アドリアンにこの案を前もって連絡しておいた。折返し返答が届いた。アドリアン「その案でやってみろ。俺も後から上陸する」と返事が帰って来た。

 アドルフも久しぶりに元気を取り戻した。ヴェネティア攻めでしばらく退屈がしのげると喜んだ。

 次回はクレタ島攻めです。

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