第六話 

 幻一郎は幸と名付けられた孫の誕生を喜び溺愛した。母親である鷹ヶ浦 幸恵は物静かな性格だが、華道の家元の娘ということもあってかとても躾に厳しく、泣いている孫を父親の祐源の代わりに慰めてやることも多かった


 控えめで物静かだが芯の通った幸恵がなぜ祐源と結婚したのか、幻一郎にとっては不思議でしょうがなかった


 おじい様と呼んでくれる孫に、忙しい合間を縫って会いにいってはぬいぐるみ等をプレゼントする


(子供が生まれたというのにどこをほっつき歩いてるんだあの馬鹿息子は)


 そう思いつつも、孫が慕ってくれていることを心の底から喜んだ


 子供の頃から幸は優秀な子だった


「さすがに多すぎるんじゃないか?」


 幻一郎が思わず口に出してしまうほどの習い事の数をこなしながらも学校の成績は常に上位をキープしていた


 幸が小学校へ上がってすぐの頃、会社へと招いた事があった


 どうしても自分の会社を見てもらいたかったのだ、人生を掛けて作り上げた会社を自慢したかった


 一生懸命働いてくれている社員たちの仕事の邪魔にならないよう気を付けながら、丁寧に説明をしながら部署を案内して周る


 一通り見学を終えると社長室へと戻った


「どうだったかな?あまり面白いものではなかったかもしれないが」


 幸はにこっと微笑むと幻一郎の手を両手で包み込んだ


「私、大きくなったらおじい様のお手伝いがしたいです」


 微笑む幸の顔を見て幻一郎はある事に気が付いた


(あぁ、そうか。この子には響子の面影があるんだ)


・・・・・・


 月日が経ち


 大学生になった幸がアルバイトをしたいと申し出てきた


「いや、しかし忙しいんじゃないか?」


「週一回でもいいんです、おじい様のお手伝いをさせてください」


 溺愛する孫の頼みを断るのは難しかった、何より手伝いたいと言ってくれた事がとても喜ばしかった


 入社したばかりながら、社内でとても優秀だと評判の雪代 咲に教育係を頼む事にした


 成長を見守るうちに、幸が会社を継いくれる事が幻一郎の新しい夢となっていたからだ


「幸に持っていて欲しいものがある」


 そう言って幻一郎は机の中から小さく古びた箱を取り出し、幸へ手渡した


「風鈴が入っている。迷う事があったら鳴らしてみるといい、きっと心を落ち着けてくれるはずだ」

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