2-91.絶望の一手

 15分が経った。のぞみたちは山エリアのゲートを通過し、予定通り協力者たちと合流した。陣形はさらに変化し、1―3―4―3―3となっている。先頭にラトゥーニ、すぐ後ろにメリルとのぞみ、そしてルルが付いた。その後ろがクラーク、ラン、修二、悠之助となり、後続ではヌティオスとデュクの巨人コンビがジェニファーを挟んでいる。最後尾にはティム、楓、ラーマが配置され、三人は集団全体を見ての戦況コントロールを任されている。


 彼らがダンジョンに入ると、さらに後ろから、陣形とは関係なく、ほたるとクリアが微妙な距離を空けて追ってきていた。


 エルヴィたち警護班メンバーも、テストの邪魔にならないよう、後方から尾行を続けている。


 最初の三叉路となり、ラトゥーニは左の道を選んだ。彼らの進む道を見て、クリアは右の道を選ぶ、関わりたくない気持ちが強かったのだ。蛍は立ち止まり、悩んだ末に、


「ごめん、やっぱり放っとけない」


とクリアに宣言し、左の道を選んだ。


 ラトゥーニに導かれるようにして、のぞみを含めて13人の集団は進む。道中、現れたどんな魔獣も、後衛の心苗コディセミットたちの飛び道具ですぐに倒された。無敵の急行列車のように、彼らは走る。ダンジョン内に仕掛けられたトラップでも、彼らを止まらせることはできない。のぞみは後衛にいるジェニファーに意識を向けていた。


 ラトゥーニに誘われて協力者となった彼女だが、治安風紀隊のメンバーである以上、事件に関わる理由と権限は十分にある。今、ここに彼女がいることに疑いの目を向ける者は一人もいない。今のところ同級生の中で、ジェニファーが殺し屋である真実を知っているのは、ティフニー一人だ。


 その頃、中央情報中枢センターでは、イーブイタが情報ボードを眺めていた。のぞみたちの進捗は順調で、全ては円滑に進んでいるように見える。しかし次の瞬間、彼はダンジョンの機元端ピュラルムに異常サインが出ていることに気付いた。


「ソ副部長。ダンジョンエリアの機元端がハッキングされています!これは、先日の演習授業の際に起きたパターンと同じです」


「遂に来たか……」と、も情報ボードを見た。


ハークストはまだ冷静さを失わず、


「やはりダンジョンで手を打ってきたね」と頷いている。

「今回はどんな改ざんが行われている?」

「ダミー魔獣のみならず、コースの順路サインの設定まで改ざんされている模様。彼女たちの集団はすでにコースを離脱しています」


「何!?ダンジョンエリアのシステムを再起動させることは可能か?」

「それでは他の心苗たちが混乱に陥ります。テストが一時中断になりますが……」


 イーブイタの指摘に、蘇は冷静さを取り戻す。


「彼女らだけのためにテストを中断するわけにはいかないか」


 このレベルの大イベント中にトラブルが起きた場合、コントロール可能であれば全体を続けながら、必要な部分のみ対応する。また、このイベントは闘士ウォーリアの実力を試すことを目的としているため、トラブル発生中の対応力を見る意味でも、イベント中止の即決は、通常ありえないことだ。


「どこからの攻撃か分かるか?」と蘇が訊ねる。


「調査中です」


「このままでは犯人に逃げられますね。蘇、君は現場の指揮に専念してください。ハッカーの方は私が」


「助かる」


 ハークストはスーツのボタンを押し、『念話』でロッドカーナルの生徒会、情報部に指示を出した。


「私です。ハイニオス学院内で機元端のハッキングを確認。ハッカーの位置をマークしてください。逮捕までを任務として要請します」


 投影された画面に、生徒会のメンバーリストが現れる。ハークストはミッションに当たるメンバーを指名し、すぐに出動要請を出した。


 蘇は数刻の間に自分の取るべき対応を考え、イーブイタに呼びかける。


「イーブイタ君、カンザキノゾミの走るコース内にある源気グラムグラカ反応を洗い出してくれ」

「分かりました」


 それからサーイトを振り返り、


「サーイト君、ハッカーが彼女たちをどこに連れて行こうとしているか、ルート計算は可能か?」


「了解、一分で調べます」


 イーブイタの調査が先に終わった。


「ソ副部長、彼女が行く先のエリアに源気反応は一名の心苗のみ。『章紋術ルーンクレスタ』の波長が見られます」

「すぐに『章紋術』の専門の方に調べさせなさい」

「承知しました」


 その間にサーイトの計算結果が出た。

「ソ副部長」と呼びかける、サーイトの声に緊張感が混じっている。

「このルートの先にあるのは……立ち入り禁止エリアです。この先は…… 西北の柱の間になっています」

「何だと!?」


 蘇はつい、声を荒げたが、それも無理はない。

 イトマーラの結界は、聖光学園セントフェラストアカデミー内にある九つの柱で支えられている。いずれの柱にも守護聖霊が存在し、その柱を守っているが、柱の間に入った者は事情にかかわらず、侵入者として抹殺される。


「奴は学園の守護聖霊の力を利用してカンザキを殺すつもりか!」


 事態の厳しさに気付き、蘇は声を上げる。


「リュウたちに知らせろ。一刻も早く、彼女たちを正規ルートに戻せ!」

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