2-89.守り抜く意志
第1グループの心苗たちがスタートラインに集まった。ラインの三メートルほど前に、光の幕が降りている。
レイニは自分の立っている台から、十数個の球体カメラを射出した。ドローンのようにあちこちに浮遊して待機する球体カメラは、実況映像のための必須道具だ。
「第1グループの皆さんがマークに着きました。それでは学院長、スタートのシグナルをお願いします!」
心得たというように、鶴見学院長は手を挙げた。そして、自身の前に投影されている丸いボタンを押す。スタートのブザーが鳴り響き、500名の心苗たちが一斉に飛び出した。光の幕を通り抜けた時、タイマーが動き始める。
「第1グループ、物凄い勢いで飛び出しました!春季『身体能力フィットネステスト』!今大会で最も速い心苗は、一体誰なのでしょうか?優勝者は最後まで分かりません、予測不能の大会が、遂に始まりました!」
心苗たちは、ヌーの群れのように、全力で走っている。平らな道を抜け、坂道を上り、その先の崖を跳ぶ。建物の屋根、道路、木々、そして魔獣の頭の上を、心苗たちは走った。先導の先輩に追いつかんと、彼らはそれぞれが一瞬のうちに選んだ進路を進んでいく。中には武器で魔獣を斬り捨て、討ち取りながら進む者もいた。
道幅は最大で500クル、狭いところでは10クルしかない場所もある。屋外エリアでは、高さ100クルまでと制限されており、その中で心苗たちは自分の信じる道を走り抜ける。実に広々としたコースの中で、彼らは自分の身体能力を十分に活かすことができた。
空飛ぶ球体カメラが、修二たちの姿を撮影している。一部は監視のため、固定で広域映像を撮っており、リアルタイムで機関に送られている。
つまり、このイベントに注目しているのは、フェイトアンファルス連邦の民衆だけではない。イールトノンの中央情報中枢センターでも、初日から監視を続けていた。グラーズンの席は空いていたが、
「第1グループ心苗、現在第三ゲートを突破。コース、会場、異常ありません」
「この調子で監視を続けてください」
イーブイタが監視状況を報告し、蘇が頷いた。
「今日はどこかで何かが起こるはずですから」
昨日までのテストでは、大きなトラブルはなかった。だが、テスト最終日を迎え、さすがの蘇もいつものような余裕はないらしい。昨晩のうちに、メッキーから聞かされた情報が、彼を憂うつな気分にさせていた。メッキーは蘇を空中庭園に連れ出し、二人きりになって、衝撃の事実を伝えたのだ。
蘇は未だに信じられない思いだった。のぞみの事件に同じ副部長であるアーリムが関わっている可能性など、信じられるわけがなかった。
彼の配下にある捜査班の『
事件の全貌は明らかになっていないが、蘇の勘では、予言はかならず起こる。そのために、蘇は自分の範疇にある部分では、先回りで動いていた。のぞみの警護を含め、死者を出さないよう、全力を振るうつもりだ。
通常であれば、副部長同士というのは、事件解決のために互いに協力する。しかし、そこに不正が判明した場合には、権限を牽制する役割もある。たとえアーリムが相手であっても、蘇に躊躇いはない。
蘇は今回ののぞみを中心に展開している事案を重大事件として引き上げた対応を取った。9カレッジの治安隊メンバーに属する三年生をコースの拠点警備に配置し、無関係の者がコース内に侵入した場合、例外なく排除することを、それぞれの隊長に依頼している。元からのぞみの警護に当たっているリュウたちにも、テストに干渉しない範囲で、コース内を自由に動く権限を与えた。それだけ手を打っても、抜け目があるのではないかと、蘇は目を光らせる。
「神崎さんの周辺の様子は?」
イーブイタはティロンバイン闘技場の映像をズームアップする。
「彼女の所属する第6グループは、間もなく出発します。現在、闘技場内に異常ありません」
緊張だけが高まり、何も起こらない現状に、蘇は焦りに似たものを感じている。
「やはり、彼女の走行中を狙ってくるのか?」
共に映像を見ているハークストは、まだ冷静を保っているようだ。
「ソ、ずいぶん気が荒いようだね?万一、何か起きたら私がバックアップする」
「ああ、助かります」
ハークストは自らの意志で介入するつもりでいたが、グラーズンからも、蘇を応援してほしいと指示を受けていた。
闘技場では、のぞみたち第6グループのメンバーがスタートラインに立っていた。
気持ちを前方に集中させていると、とうとうスタートのブザーが聞こえた。のぞみたちは一斉に走り出す。
「第6グループ、スタートしました!」
レイニが実況した時にはもう、のぞみはティロンバインの外壁から、前方の建物を飛び越えていた。視線は学院のスカイラインを遠く見晴るかし、瞬時にルートを決断する。のぞみは建物の屋根を伝って、高く遠く、跳び進んでいく。
のぞみの少し前を進むラトゥーニは、メイスを手に、走りながら魔獣を打ち潰していく。左右をクラークと悠之助が走り、脇からやってくる魔獣たちはそれぞれの拳や足技で粉砕されていった。彼らの活躍により、後を付いていくのぞみと藍(ラン)は、まだ魔獣に手出しする必要がない。
何かしらの陣形を取っているらしい心苗たちを見て、レイニが興奮気味に実況した。
「これは凄い!遂に、連携する
彼らは陣形を乱さないよう、同じペースで進んでいく。
チーム戦術の一環であるこの戦い方は、人数によって、並び、陣形も変わる。
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