2-82.挑発

「風見さんのバトル、見ました。どの戦いも圧勝で、見事だと思います」


「『闘王』狙いなら、6回戦なんかまだ準備運動やで」


 綾の言葉から伝わる余裕に、のぞみは素直に感心した。


「風見さんは、本当に凄い実力者だと思いますし、間違いなくA組のエースです。だから……そんな風見さんと、こんなに早く手合わせすることになるなんて思いませんでした」


「うちも最初はそう思ってた。でも、気が変わったわ」


「どう変わったんですか?」


「模擬テストの三戦と、午前中から今までの五つの戦い、しっかり見させてもらったで。今日の四回戦。あんたはロキンヘルウヌスカレッジC組のラウコルを、ステージから押し出したよな。巨人オーガ級の心苗を相手にしても、あんたは上手く知恵を働かせて戦術で勝った」


 綾はその戦いを思い出す。のぞみはラウコルの猛烈な攻撃が、ステージのアウトラインに近付くよう誘いだす。そして相手が決め技を打ち出す瞬間に、ラウコルの裏側に飛び移り、彼のつちふまずを刀で思い切り振り払い、ステージから押し出したのだった。


「一ヶ月前のあんたと比べれば、別人のような伸びやで。せやからうちは、あんたと手合わせしたいと思うようになった。こんな早ように実現するとは、神さんがおるなら感謝したいくらいやで」


 虎のようにキラリと光る綾の目からは、のぞみと戦える喜びが伝わってくる。


「風見さんにそこまで評価していただいているなんて、恐縮です」


「あんたの事情は聞いたで。大変なこともあるやろけど、今のこのバトルには関係ないからな。身につけた技すべてを思い切り出して、うちに挑んでや」


 そう言って、綾は鞘から刀を抜いた。その刀は、柄も鍔も、刃と一体になった、75センチの太刀だ。のぞみの刀と比べると、刃はやや幅広で、茎も太い。綾が源気を注ぐと、刃を青い光が纏った。しっかりと両手で握ると、額の前に掲げ、正面の霞の構えを取る。暴風のように猛烈な源気が立ち上り、のぞみは気を引き締める。


「風見さんの期待を裏切らないように、尽力します!」


 のぞみも金の刀を翳し、バトル開始前に『ルビススフェーアゾーン』を展開する。審判が「用意!」と大声を上げ、続けて笛を吹いた。


 バトルが始まると、綾は直ちに剣気の衝撃波を放ち、放ったそばから床を蹴って飛び出した。

『ルビススフェーアゾーン』は、先に直撃した斬撃波を受けて効果を半分以下まで削られた。相手のスピードを抑える効果が薄くなったところに、綾が快刀を鋭く斬り払う。


 それでも、のぞみは綾の攻撃を一本、一本、確実に受け止めていく。

 チャン、チャン、チャン、と刀が擦れ合う金属音が五回響いた。そして六回目の鍔迫り合いに持ち込んだ綾が、瞬時に湧き出させた気配に、のぞみは気圧される。何とか足で踏みとどまると、体制を整え、刀を翳した。手を痺れさせながら、のぞみは綾を見る。


(何て重い剣筋……。怒濤の波のように、一本、一本が重く押し寄せて斬ってくる。油断したら剣に注いだ力だけで押し飛ばされるかも……)


「あんた、手加減しててうちに勝てると思ってるんか?」


「風見さん」


 綾には、のぞみが身に纏う源気が全力のものではないと分かっていた。対人戦で手加減する癖は治っていないらしいと思いつつ、綾はこの程度では物足りない。コミルと手合わせた時のようなのぞみを引き出すために、挑発的に笑ってみせた。


「それがホンマにあんたの実力なら、闘士ウォーリアの嫁としては失格やな」

「……なぜですか?」


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