2-56. 武家に嫁入りする覚悟
「それは……」
口ごもるのぞみの様子に、
「まさかとは思うけど、あんたそのためにハイニオスに転入してきたわけやないやろな?」
綾は勘違いであってほしいと思ったが、のぞみの答えは悪夢のようなものだった。
「はい!
嬉々として話すのぞみに、綾はしばらく唖然とした。そして、呆れたような顔になって、脱力した。
「参ったわ……。わざわざうちの学院に転入してきた目的が花嫁修業とはな……初耳や」
「同じ環境で修業を受ければ、あの人のことをもっと理解できる。それが、
綾はのぞみの理屈も理解できる。そして、ハイニオスに通う
「はっ。三年のオストルマン先輩がその流派の血筋やって聞いたことがあるけど、あんたの許嫁いうのは……?」
のぞみは首を大きく横に振った。
「違います、オストルマン先輩ではなく、光野遼介さんという方です」
「たしかに諭心流の宗家の名前やけど、聞いたことないなあ。その人、ホンマにこの学園に通う心苗なんか?」
のぞみは綾の質問を聞くと、のほほんと笑った。
「その……彼はまだ入学していないんです」
「そらそうか。そんな名家の人間が入学するなら、オストルマン先輩の時みたいに一年の間に大騒ぎになってるわな」
「そうですね」
綾はまだ見も知らぬ男よりも、目の前ののぞみのことが気になる。
「それよりあんた。この学院での評価には、人間関係も血筋も関係ない。心苗個人の問題やで」
「それはわかっています」
綾に釣られて、のぞみも真面目な表情になった。
のぞみがハイニオスに転入した目的を知った綾は、のぞみを本気にさせるように指摘する。
「いや。あんたは花嫁修業としか思ってない。そんなんじゃ覚悟が足りへんわ」
「……どうしてですか?」
綾はもっとバッサリと攻めるように言う。
「よう考えてみ。その光野さんが相当強いんやとして、花嫁修業気分で闘士の修業に来てるような許嫁が相応しい相手になれると思うか?そんな気弱な考えじゃ、足手まといになるのは目に見えてる。そんなん、闘士の嫁として失格やで」
綾のその言葉は、のぞみの心に重く打ちこまれた。のぞみは金槌で殴られたような衝撃に、しばらく声も出なかった。
凍ったような数秒が経ったあと、のぞみは不満を露わにした。
「どうしてそう言い切れるんですか?」
ハイニオスに転入してきた理由と目的がわかり、
「武術の名家に生まれた彼に待ってるのは戦だらけの未来や。あんた、サポーターとして彼を支えたいんやろ?」
「そのつもりです……」
「夫の敵は妻の敵。彼の敵のなかにはきっと、人間もおるはずや。それでもあんた、自分の敵として相手にできるんか?」
のぞみはそれを自分事として、真剣に考えてみた。そして、ゆっくりと首を振った。
「分からないです……」
のぞみは光野遼介が、生家で門番を務め、挑戦者や殺し屋と戦っているところを何度も見てきた。それを思い出すと、綾の話には説得力があった。
「そんな中途半端な気持ちで受ける修行は何にもなれへん。彼と一緒に戦いたい気持ちはあっても、あんたの弱気が彼の弱点になるやろう。はっきり言わせてもらうけど、あんた、武家の嫁になるには覚悟が足りへんで」
波状攻撃のような綾の言葉にショックを受けながらも、のぞみは強く首を振る。
「いえ……私は決して、光野さんの弱点にはなりません」
「ほう?ほな、あんた、自分の価値を証明できるんか?」
綾の煽りが効いたらしく、のぞみが言う。
「では、どうやって証明すれば認めていただけますか?」
「そやな。今度のルビス先生の格闘実戦演習授業は、中間テストと同じ形式でのバトルやろ?そこにあんたも参戦しぃや。対戦相手になるかは分からんけど、まずはその模擬テストで、あんたの根性見せてもらおか」
「分かりました。私の今使える技を活かして、全力で戦ってみせます」
真剣な色に染まるのぞみの瞳を見て、綾は嬉しげに笑った。
「期待してるで」
綾は自分の食器を回収ニンモーの、裂け目のようになった食器入れに片付けると、席を立った。
「ほな、お先に」
「分かりました。
綾が去ると、のぞみは少し俯き、眉毛をハの字にした。綾にああ言ったものの、模擬テストで実力の何割を発揮できるのかと、内心緊張が走っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます