【完結済】チートな番を伴侶にする奔走物語〜雄だらけの世界で見つけた、俺の番は……。

嵐華子@【稀代の悪女】重版&4巻まで発売

1.邂逅

「……だれ、か……あいつら………たす、け……」


 仲間を助けたくて、呻く。


 視界の端には、魔獣が多く住む魔の森が映る。

ここは、そんな危険地帯に程近い、少し開けた場所。 


 周囲には、むせるような、俺と仲間達の血の臭いが漂う。


 わかってるんだ……皆……もう……。


 それでも願わずには、いられない。


 血溜まりの中で横たわる俺。

手足が千切れているはずなのに……もう、痛みも感じない…………寒い。


 目の前が、暗く塗り潰されていく感覚に、意識が沈みそうになる。


「大丈夫?」


 不意に、幼く高い声がした。


 意識が少しだけ浮上して、閉じかけた瞼を何とか開ける。


 視界がぼやけていて、影のような何かしか映らない。


 それでも目をこらしていると、少しずつはっきりしてくる。


 …………少年?


 月明かりに照らされ、ほんのり浮かび上がる顔は、黒目の可愛らしい、小柄な少年だ。


長い黒髪を耳にかけながら、かがんで俺を見下ろしていた。


 顔色は、青白い。

幽霊がいたら、こんな感じだろうか?

お迎えというやつかと思いながらも、恐ろしさは全くない。


「ねぇ、おじさん。

名前は?

右手と左足が向こうにぶっ飛んでるけど、痛くない?」


 耳に心地よい、穏やかそうな声音。

いつまでも、聞き入っていたくなる。


 俺の手足がぶっ飛んでいるような、仲間の体も、かなり損傷している、凄惨な光景のはずだった。


 なのに少年の反応は、そんな光景にそぐわない。


 恐れも、驚きもなく、淡々としている。


 違和感を覚えて戸惑っているからなのか、それとも失血が酷くて、頭がぼうっとしているからなのか。


 少年の質問を理解するのに、時間がかかる。


少年は、聞こえていないと思ったのだろうか?


 今度は隣にしゃがみこんで、体を揺すってきた。


 なんならどさくさ紛れに、俺の頭上にある、丸みのある耳にも、軽く触れてきた。


「ねえ、おじさん。

名前は?」

「····グ····ラン····」


 ようやっと、掠れる声で名を告げた。


 けれど、それだけで残りの体力を持っていかれたのか、寒気と眠気が一気に襲ってくる。


「グランさん。

次に目覚めたら、僕のお手伝いしてくれる?

そしたら他の人達は、亡くなってて無理だけど、グランさんは助けてあげる。

でも遺品くらいなら、持ち帰るよ?」


 遠くの方で聞こえる少年の声にも、もう答えられない。

再び瞼が下がり、意識が薄れていく。


 あいつらの遺品。

せめてを家族の元に……。


 藁にもすがる思いで、何とか首を縦に振った。


「約束、ね」


 閉じた瞼の向こうで、金色の光が見えた気がした。


 すると温かい何かに体が包まれたのを感じ、少しだけ温かくなる。


 そこで意識が完全に、闇にのまれた。


 この時の俺は、まだ知らなかった。

俺が少年だと思っていた可愛らしいこの子が、顔に似合わず、しれっとえげつない性格を発揮する事を。

を、どんどん振り回してくれる事を。


 そして、とんでもない秘密を抱えた、哀しい俺の…………つがいだった事を。


 これはチートで、むちゃくちゃ可愛らしい俺の番を、俺が血反吐を吐きながら、何とか伴侶にするまでの、俺の奔走物語だ。

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