それぞれに川は流れている
帆場蔵人
第1話 それぞれに川は流れている
すべての川は流れている
すべての故郷の川は流れている
耳を傾けるならその川の流れを
聴くことができるだろう
乾ききった風と砂しか入らない
窓からせせらぎが流れてくる
台所の床をひたしてあなたの
こめかみに触れてひたひた
今日の夕飯は肉じゃがを作ろうか
それともあなたが今、耳を傾けている
その川からすくいあげる故郷を
皿に盛ってくれるだろうか
もう帰ることのできない
はずの故郷の川の中州の
茂みに潜んでいる沼狸は
どんな瞳をしていたのか
深夜の排水パイプを流れる音
あれはぼくの故郷のせせらぎ
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