争いの煙(4)

 ノキルは馬に乗り、並木道を駆ける。


その後ろを小隊が馬に乗り、続く。


太い幹の木々は、若葉を広げて、並木道に影を作る。


太陽の光が当たる若葉は、薄緑色に透き通っている。


その枝葉は柔らかな風に揺れ、ひらひらと木漏れ日を魅せる。


風は、花の甘い香りを運んでいる。


その香りは、身に付ける鎧の隙間に入り込む。


長きに渡る、鎧に染み付いた戦いの匂いが、仄かに芳しい香りになる。


小鳥は、まるで背伸びをするかのように、気持ち良く、さえずる。


兎は、道で頭を掻いている。


虫の音が、自然の豊かさを教えてくれる。


穏やかな時を動物達は過ごしていた。


その平穏を雷鳴の如く、駆け抜けていく。


兎は木陰に隠れ、ノキル達を見送る。


小鳥は、翼を素早く羽ばたかせて、一つ奥の木へ飛んでいく。


飛行する体を左右に傾けて、若葉と若葉の隙間を器用にすり抜ける。


一本の枝を両足で掴むと、翼をたたみ、とまった。


 目的の村までの距離か半分になる頃、ノキルの鼻がいち早く異変を感知した。


花の甘い香りに焦げた臭いが混ざり始めた。


ノキルは、馬の綱を引き、止まった。


小隊もノキルの後ろで止まる。


地面に伝わる振動。


不規則に微振動している。


その振動は段々と近づいてくる。


ノキル達に迫ってきていた。


ノキルは前方を見る。


小隊は武器を持ち、戦闘態勢になった。


前方から一匹の兎が現れた。


ノキルを見て、立ち止まる。


止まる事のない地鳴り。


くんくんと二回嗅ぎ、鼻を動かす。


再び、兎はノキル達へ向かって走り始めた。


その時、私達は驚愕した。


兎を先頭に、鹿や鼠などのあらゆる動物達が、ノキル達へ走ってきていた。


動物達は、ノキル達を気にせずに走り去っていく。


馬の足と足の間もすり抜ける。


その異様な光景から、馬は不安で背を向けようとする。


ノキル達は、それを何とか静止させる。


鳩、雀などの鳥も枝葉をすり抜けて、飛び去っていく。


ひとしきり、動物達は通り過ぎると、地鳴りも静まった。


動物達の声が全く聞こえない。


今となっては、木漏れ日も、鬱蒼とした林を妖しげに映すだけだった。


砂埃の臭いが立ち込む。


その時だった。


ひりゅりゅと音を鳴らして、並木道に一本の火矢が放たれた。


着弾した周囲を延焼させる。


複数の火矢が放たれ、並木道は瞬く間に燃え広がった。


「皆、走り抜けるぞ」


ノキルは小隊に言う。


「はい!」


小隊は忠誠を示す。


並木道は、もはや炎のトンネルだった。


時折、燃え朽ちる木々の枝が折れて、傷口から炎を吹く。


その炎を浴びながら、先へ向かう。


ノキルは考えていた。


一方から一定の間隔で、火矢を放っている。


間違いなく一人が火を放っている。


しかし、火矢を放つ間隔が短い。


熟練でも、火矢を扱うのは難しい。


やはり、ミーアを攻撃した射手か。


対峙を覚悟した。


どうしてだろうか。


胸騒ぎがする。


そもそも、どうして、並木道に火を放つ?


退路を断つ為か。


それとも、救援を断つ為か。


こちらが囮で、王宮への攻撃が目的か。


そうだとしても、王宮へ攻撃するには、相当な軍勢が必要だ。


密偵から、そのような情報は無い。


炎に飲まれつつある木の根元に、一人の男性が、もたれかかっていた。


その男性の服装から、あの村の人だとわかる。

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