消滅した町 §9 メガリスの円環にて

 船旅5日目。

 艀町バージュヴィーユの周辺と違って、周囲の風景が大きく変わってきていた。

 おおむね平地だった地形が、なだらかな丘陵に、そして深く生い茂った森林に変わっていた。


 遠くは見渡せない。


 森の木陰から襲撃されると、かなり不利な状況に陥いるかもしれない。

 感覚を研ぎ澄まし、視覚、聴覚、嗅覚を用いて周囲を警戒する。


 エレンディエル・ディングルン・タナンサの心は踊っていた。

 懐かしき哉、我等がウリューンの町!

 もうすぐ帰れる!


「そろそろ着きますぞ」ドトンタ翁の声掛け。


 ファァアああっと喜びの輝きに満ちたお嬢の顔。


 森の木陰の狭間から石造りの船着場の遺構が見えてくる。

 近づくエーテル奔流船。

 階段状の部分に接岸する。

 エルザ、ジョナサン、ノリリンタ、サラディオールの4人が先行して上陸する。


「ざっと見渡した感じでは無人ね。生き物の気配は多いけど」とエルザ。


 続いて上陸する一行。

 目を輝かすエレンディエル。


 探索組にエレンディエルとクラリスが加わり、付近を調査する。

 他はドトンタ翁の指揮で荷下ろしを始める。


 船着場の面影を辿る。

 人足や漁師で賑わっていた食堂跡。

 交易商たちの怒号が響いていた交易所跡。

 勇敢な衛兵たちの城外詰所跡。

 半世紀も経って木材は朽ち果てていたけれど、石材は昔の面影を保っていた。


「ちょっとお嬢!そんなに急がないで!」エルザの制止。

「わたしも行くわよー」便乗するノリリンタ。

 肩をすくめるジェスチャーの後、無言で付き従うサラディオール。

 心の中で何かツッコミを入れているジョナサン。


 なだらかな起伏を避け、つづら折りに進む石畳の舗装道路。


 もうすぐ!


 その丘を越えればウリューンの町の城門がある。


 ほら!


 愕然とするエレンディエル。

 脚が止まる。


 町があったはずの場所。

 そこにあるはずの町はありません。

 森の中の開けた土地。

 樹木の生えぬ大地。

 円形に幾重にも連なる巨石列柱群メガリス


「こんなの無かったわ」


 エレンディエルの嘆息。

 今にも溢れ出しそうな瞳。

 打ち震える身体。


「これが消滅した町かよ」とジョナサンの失言。


 わっと泣き崩れるお嬢。

 慌てふためくジョナサン。


「ちょっと男子ぃ!」怒れる女性陣。


「ジョナサンを連れて付近の探索行ってくるので、お嬢の事頼みます」

 付近の探索という名目でジョナサンを引き剥がしておくサラディオール。


 巨石列柱群メガリスの中へ入っていった。


***************************


「おーい加減引きずるのやめてくんない?」


「………」


「悪かったって!迂闊だったよ!でも悪気は無かったんだって!」


「………」


「ちょっと…サラディオールの兄さん?聞いてます?」


「これぐらい離れれば良いだろう」


 ジョナサンを離すサラディオール。


「聞こえてましたよね?」


 特に頷く事なく、話を進めるサラディオール。


「しばらくクールダウンな。あと今日中に謝っとけ。女性陣のいるうちにな」


「あ、うん」


「本人は、怒ってない…と思う。ただすごく悲しくなったんだよ」


 お嬢を泣かせてしまって、俺もなんか悲しくなってきてるんだが、気を取り直していこう。


「それで探索するの?この石の柱の中、入って良かったん?」


「ああ、これは大丈夫。今まで何度か調査隊は入っててな、その当時の報告通りだ」


「やばい魔法とか無いの?」


「特に発見されてない。魔力感知にも反応してない」


 魔力感知いつの間にしたんだよ。つか、魔力感知出来たの?兄さんレンジャーだよね?


「じゃあ始めようか」


「始めるって何を?」


「俺は一つ一つ痕跡を探すから、お前は一つ一つ罠やギミック類を探してくれ」


「……一つ一つ…ですか?」


「一つ一つだぞ」


 そもそも罠あるの?ただのでっかい石だよ。

 ギミックって隠し扉とかあると思うかい?


「向こうが落ち着いたら戻るぞ」


 あー、うん、そう言う事ね。

 でも、すごい人材の無駄遣いしてませんか?

 あ!俺のせいか!ホントごめんなさい。

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