第31話 悲しい子供達
『あれ?俺の身体が…し、死んでる!!?そ、そんなあああ!!!』
今し方操られて自ら命を落とした者の魂が身体から出てくるところを俺は見た。
なんてことを…。
恐ろしくも美しい白髪の男はまるで自分自身を神だと思い上がっているように笑顔を崩さない。
もちろん力の差は圧倒的に奴に軍配が上がり、俺も操られてしまったらおしまいだ。どうすればいい!?それに…あの野郎の周りには…。
その時ヨハンナが
「アメリーさん…お願い…この図書館の結界を解いてください!アクセサリーを外して私があの人達を蘇生させてみます!!」
と信じられないことを言った。
「ヨハンナ!それは!!」
「そうよ!ヨハンナちゃん!そんなことをしたらあの神子様達が入ってきちゃう!!」
とアメリーも反論した。しかし
「……人の命が優先です!!この人達は望んで死んだんじゃない!!家族だってきっといる!人は一人じゃ生きられない!!人を人とも思ってない…神の化身なんて人である資格もない!そんな人の子供なんて絶対に作らない!私は操られたりなんてしない!!」
とヨハンナは倒れている人に駆け寄りアクセサリーに手をかけて叫ぶ!
「アメリーさん!結界を!!数分以内なら蘇生できるんでしょ!?まだ間に合う!!」
と言った。
「バルトルト君どうすんだよ!?」
「あいつのことは俺が守る!外せ…」
と言いヨハンナの元に駆け寄り他の街の者を影で押さえつける。
「し、知らないからね!!」
そうしてアメリーはとうとう図書館の結界を解いた!!
同時にアクセサリーを外してヨハンナは倒れている者に手を翳した。眩い光とともに浮遊していた魂が身体に戻っていく。
男は一瞬で蘇生した。傷も完治している。
「あっ、い、生きてる!?俺!生きてる!!」
と蘇生した男が手をにぎにぎとした。
「うっ…聖女様かよ…ありがとう!娘さん!!」
ともう一人も蘇生してお礼を言うが…
ツカツカととうとう白髪金目の美しい男が入ってくる。
「やっと会えた!なんて素晴らしい魔力量だ!!人も一瞬で蘇生させるとは!!さあ、神殿に行き子を成そう!」
俺は立ち上がり影で塞いで睨みつける。
「心配しなくても第一子が産まれるまでの間だよ!」
と神子が言う。
「よく言う…。お前の周り…視えてないのか?今まで何人の女を無碍に扱ってきたんだろうな?殺された女達やお腹のまだ成長しきってない子供がお前を恨み取り巻いているのが俺には視えるよ。俺はネクロマンサーだからな!」
そう言うと神子は
「ああ…そんなことか?魔力が多い者を相手した結果さ。むしろ神の代わりである僕とお近づきになれて死ねもしたから光栄に思っているだろう」
「は?聞こえなかったのか?恨んでいると言っただろう?」
『その魂よ!この者に姿を見せよ!!』
と俺は唱えて神子に魂達が視えるようにしてみたが…。
『お父さん??何で殺したの?』
「ふふ、君が選ばれなかったからだよ?」
とやんわりと返している。信じられん!こいつには人の心がない!!?
「ふふふ、人の心?そんなもの無いに決まっている。僕は人ではない!神と同等。人と同じに考えるとは愚かだね」
と言う。まさかの人の心が読めるとは!!
「おや?流石ヨハンナ…君の心が視えない…ようやくそんな者と会えた!!やはり君は僕の子を産むのに相応しい!!他の女達はダメだ。ガバガバに心が視えてしまうからね」
と言い、影に触れてボロリと俺の影達は威力を無くしてしまう。
くっ!やはりこいつには俺の力は及ばない!!
「無力だね、彼女の恋人なんだろう?悔しいかい?それなら私を信望すれば良い。君に触ったら私の言うことを聞く様になる」
と手を伸ばしかけたのを見てゾワリとした。
「おや?君…可哀想に…昔…」
と言いそうになった神子をヨハンナが横からバシンと平手打ちした!!
というか物凄く怒っている!!
「あんたあ!!いい加減にしなさいよっ!!人の過去まで暴く気!?誰にだってトラウマがあるのよ!!人じゃないならあんたは誰から産まれたのよ!!おとーさんおかーさんいたでしょおが!!それも神だって言うの?バッカじゃないの?自分が神だなんて言ってるけど…!
本物の神様は人の嫌がることはしないのよ!救いをもたらす存在!!あんたが誰を救ったって言うのよ!操って人を従わせ、反発した者には殺す!?
邪神もいいとこね!!神様がいるなら私はあんたに天罰を与えるわよ!!」
とヨハンナは手を翳した。
するとヨハンナの守護霊の毛玉がむくむくと大きくなっていく!!
俺は目を見開いた!!
「……なんだ!?あれ!?しし神竜!?嘘だろ!?ヨハンナ!!」
毛玉がまさかの神竜へと進化を遂げていた!
ヨハンナの怒りに触れヨハンナの魔力量がとんでもなく湧き出ている!ビシビシと図書館の壁にヒビが入りだした!
そして神子は笑う。
「素晴らしい!!この力!!きっと!きっと凄い次の神子が生まれる!君との子供が欲しい!!」
と手を伸ばそうとして身体が動かなくなる神子。
「ん?あれ?」
よく見ると奴に取り憑いていた霊達が必死で奴の動きを止めていた!!触れるだけで浄化されそうで実際に女達の方は直ぐに溶けてしまい、浄化していったが…まだ胎児で霊になった子供らの何人かは奴の遺伝子か何か知らんが必死になってしがみついている。
『お父さん…お父さんお父さん』
『何で殺したの?』
『産まれたかったよ』
『愛されたかったよ。会いたかったよ』
そう言って顔も判別しないのに涙まで流している。
悲しい気持ちが俺にも伝わってきて代弁するかの様に勝手に俺の目から涙が出てきた。
「やれ、ヨハンナ!!こいつの可哀想な子供達が必死で止めてる間に!!」
と俺は叫ぶと神竜の咆哮と共にヨハンナが
右手に白い気を…いや、神竜を纏い全力で奴の腹に撃ち込んだ!!
「白竜バッキバキパーーーンチ!!!」
ズドンとヨハンナの重い一撃をくらい笑いながら神子が倒れた。
「神子様がーーーー!!!」
「うわーーー!!聖女様に倒された!!」
「ど、どうする!?」
「どうって!!俺に聞くな!!」
「さっさと連れて帰りなさい!このアホを!!」
とヨハンナが怒鳴ると
「はいいいい!!」
と教会の連中は神子を担ぎ上げ撤退していった。
ヨハンナはフーフーと興奮冷めやらない。
「ヨハンナ…大丈夫か?なんか色々凄かったな…」
「バルトルトさん!!」
ヨハンナが駆け寄り抱きつく!!
街の皆もそれを見て拍手した!!
「聖女ヨハンナ様バンザーイ!!バンザーイ!!」
「教会の奴らを追い返したぞ!!」
「あいつら前から気に食わなかったんだよなー!」
それからドンチャン騒ぎになりバプティストも目を覚まし
「それはなんと!おいしい場面を見逃してしまった!!」
と嘆いていた。
ヨハンナは騒ぐ皆に向かい立ち上がり言った。
「皆さん!ごめんなさい!色々と私のせいでご迷惑をおかけしました!私…聖女になる気もありません!この力…もう一度封印しようと思います!!」
と頭を下げて皆ザワザワした。
「ヨハンナ…いいのか?お前そんな…」
と言うヨハンナの後ろにはギョロリと神竜が俺を見ている。蜥蜴の俺の守護霊が背中に隠れて震えた。
「力なんて要らないですよ。私は森でバルトルトさんと暮らしていきたいだけですから!」
「ヨハンナ…」
皆から野次が飛んだ。
「さっさと子供つくれーー!」
「その前に結婚だー!酒もってこーい!」
「キースキース!」
「こりゃあめでてえええ!」
とてんやわんやの騒ぎが一晩中続いたのだった。
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