第26話 どっちが多く稼げるか

 バルトルトは馬車に乗りブスーとしていた。

 向かいに座るバプティスト様に私達は依頼を受けた街に行く途中なのだが…。


「教会で病の人達を治療すればいいんですよね?」

 と私が確認すると


「ええ、そうです。ヨハンナ様の魔力量はまだ測ってないですが、教会に行けばわかるでしょう。それに貴方は悪人の性格まで変えることができるので相当な魔力量かと」

 と先日のロイ先生やバルトルトの変わり様を見たバプティスト様はそう推測した。


「人を悪人呼ばわりするな!!」

 とバルトルトが不貞腐れる。


「バルトルト様にもお仕事ありますよー?一応」

 とバプティスト様が言うと


「何だと!?早く言え!」


「ふふ、すみません!ヨハンナ様が治療に行っている間暇でしょう?実は町の近くの墓地に悪霊が出て騒いでいて中々墓地の掃除ができないと管理者が騒いでおりましてね。バルトルト様にはそちらの悪霊を鎮めていただきたいのです」


「ふ!そんなもの容易いな!!」

 とバルトルトが調子に乗る。


「でもヨハンナ様より報酬は少ないかもしれませんし?」


「な、何いいい!?」


「そりゃ、生きてる人を救うヨハンナ様の方が報酬はいいでしょう?」


「な、な…他に依頼は?」


「う、うーん?街の掲示板に募集があるかどうかですね!?」

 と言うのでバルトルトは私を見て


「ヨハンナ!勝負だ!!」


「はぁ?」


「どっちが多く稼いでくるかだ!!」


「ええーー!?ま、負けず嫌い!!」

 と呆れると


「男が女の稼ぎに頼るなんて情けないだろ!!絶対お前より仕事をこなして来る!!」


「でもバルトルトさん失敗ばかりじゃないですか!?大丈夫なんですかあ!?」


「たまたまだ!今回は違う!!俺の方がヨハンナより多く稼いでやる!!」


「ではこうしたらどうでしょう?家の改装が終わるまでの滞在中にどちらが多く稼げるかお二人で勝負なさり、そして勝った方に私も賭け金を上乗せし…そうですね、金貨10枚は?」

 と言うのでバルトルトは


「乗った!絶対ヨハンナには負けんからな!!」

 と言いなんか敵視された。ほんと負けず嫌いね。


 それから滞在する宿に到着する。ちゃんと食事付きでバプティスト様にお世話になる。


「何だか申し訳ないです…」

 と言うとバプティスト様は


「いえいえ!いいのですよ!お気兼ねなく!この宿は防音魔法もあり隣の部屋に声も聞こえないので思う存分お使いください!ふふふ!」

 と微笑まれ私達は照れた。


「…に、荷物を置いたら俺は直ぐ仕事に行くからな!!」

 とバルトルトはローブで顔を隠した。

 …そのローブ会った時から着てるけどよく見たら結構くたくたなのよね。洗濯しても直ぐほつれるから縫ったりしてるけど。


 私は別に勝負とかどうでも良いし、ちゃんとバルトルトが仕事をしてきたら褒めてあげて…そうだ!この街の服屋で新しいローブを仕立てて貰おう!!

 と密かに決めた。


 *

 荷物を置いて予想通り


「じゃっ!行ってくる!お前も夕方には宿に戻れよ!街は暗くなると危ない!まぁ、俺の影の魔法で危なくなったら助けるがな!」


「そんなことできるんですか?」

 と聞くとバルトルトは


「当たり前だ!お前の位置なんてお前の守護霊に聞けば一発だ!」

 と言うので驚いた!!


「えっ!?わ、私に守護霊なんかいるんですか!?」


「当たり前だ!守護霊はほとんどの奴にくっ付いてるからな。お前のは白いなんか丸い綿毛みたいなやつだな」


「ええ!?そうなんだ…?私も見たいー!」


「これは俺みたいなネクロマンサーにしか見えん。俺のは…黒い蜥蜴だがな…」

 とボソリと言った。


「と!蜥蜴!!ブフッ!」

 と笑いそうになり口を抑えた。めっちゃ睨まれた。


「じゃあ、バプティスト様のは?」


「あいつか…あいつの守護霊は…狐みたいなのだな。いかにも狡猾なあいつらしい」

 バプティスト様は狡猾なのかしら??バルトルトのイメージはよくわからない。


「もう行くぞ!お前も頑張ってこいよな!」

 と手を伸ばして背の高い私にガシャガシャと頭を撫でバルトルトはささっと影に潜って移動したようだ。普通に街歩けば良いのに流石人嫌いである。


 私も支度をし教会へ出かけることにした。


 *

 教会にたどり着くと中では多くの病人が列を作り待っていた。沢山の聖属性を使える神官達や修道女達が聖魔法で回復をしている。一人一人にかける時間は長くて20分ほどかけてようやく治療が終わり次の人と言う感じである。


 依頼を受けた私は教会にいた神官長様に会いに行き話を聞いた。


 神官長は優しそうな少しダンディな髭を持つおじさまである。


「貴方が助っ人で来てくれたお方ですか?聖属性魔法を使えるようで」


「あ、はい!ヨハンナと申します。私は貴族の出ですが、今は家を出たので…。まぁ、その辺りはいろいろとありまして。ともかく、私実は子供の頃魔力測定しようとして暴走してしまったので正確な魔力量を測定してないんです。今まで封印しておりました。


 先日その……解いてみて少し調べてみて自分は聖属性が使えるとわかりまして」

 と言うと神官長ギニアス・ロペス・ハイマー様は


「ほほう、先日ですか…。それではまだそんなに慣れてらっしゃらないですかね?」


「まぁ、回復魔法くらいなら直ぐ使えますよ?」

 と言うので驚く。


「ほう、普通はそんなに早く使えるようにならないのですが…そうですか、ともかく魔力量を測ってみましょうか」

 と神官を呼び出し道具を持って来させられる。

 丸い水晶玉程の大きさでそこに手を添えてと言われた。


 私はそれに手を置いて見たら…魔道具がガタガタ揺れ始め


『測定値…300…500…700………1000………計測できません!計測できません!!』

 と声が鳴り皆驚く。


 ええっ!?

 そして煙を立て魔道具が壊れた!!



「うわーーー!!!こ、壊れちゃった!!ど!どうしよう!お金ないよぉ!!」

 バルトルトに怒られる!?

 と言うと


「大丈夫です。気になさらないで。…ふーむ。もしや計測できない魔力をお持ちとは…。おいっ」


「はっ!」

 とナイフで少し指先を切る神官長。

 えっ!?


「ハイマー神官長様!?」


「私の傷を治してみてください」

 と指を差し出す。

 私はそれに手をかざし


「この者の傷に癒しを!」

 と言うと直ぐ様傷は塞がる!!

 それを見た若い神官は


「何と!1分もかからないとは!!…信じられない!!」

 えっ!?普通何分かかるの?


「……ふーむ。ともかくこれなら治療も直ぐ終わりそうですな。皆さんを手伝っていただいてもよろしいかな?」


「もちろんです!その為に来ましたから!」

 と言い、私は病人達の所に行き、何人もの人をさっさと直して行く。


「凄い!!俺の腕治った!!」

「一瞬だったぞ!!」

「お姉ちゃんありがとう!」

「凄え!聖女様みたいだ!!」

「足が…治った!!」

 と人々は感動を口にする。

 他の神官たちはもはやポカンとしている。

 ようやく最後の人を終えて流石に


「ふえーー、終わったー!」

 と言い、座る。

 ハイマー神官長が


「お疲れ様です。ヨハンナ様!今日の診療は終わりです!いや、見事!これほどまでに早く終わるとは!!凄い魔力量とお力だ!」


「まるで伝説の聖女のようだ!!」

 と側使えの方にも拍手された。


「これは約束の報酬です!」

 と何と金貨が10枚!!


「え!?ええっ!?お、多すぎません!?」

 これめちゃくちゃバルトルトに勝つよ!!こんなの!!たった1日でバプティスト様の掛け金と同じくらいの褒美だ!ど、どうしよう!!

 こんなの貰えないよう!バルトルトが知ったらプライドズタボロじゃない!!


「そんなことございません!貴方はそれだけの働きをしたし…良かったら教会で一生保護して聖女様となられてもいいかと!!」

 と神官長も側仕えのシストさんも目を輝かせている!!

 ヤバイ!


「ごっ!ごめんなさい!!わ、私その結婚を約束してる恋人もいますし!!む、無理です!!」

 と言うとシューンとされた。


「まぁ…そうですか。ならば仕方がありません。明日もまた手伝ってくださるかな?」


「あ、あのいいですけど、この今日の報酬分だけでいいんで!!私その、今日この金貨1枚だけ持って帰っていいですか?」

 と焦る。


「え!?そんな…割にあいませんよ?」


「じゅ!充分合います!金貨1枚なんて大金です!あのその…恋人もびっくりするだろうしその…ー」

 と言いにくくしていると


「成る程…大体わかりました。では金貨1枚で申し訳ありませんがどうぞお待ち下さい」

 と渡された。

 はぁ。何とかとりあえずはこれでいいかな。これでも大金だろうし。


 *

「シスト…どう思いますか?彼女を」


「もちろん、彼女は逸材です!!是非神殿へとお招きし聖女様となられるのが良いと思います!!大神官様にも伝えるべきことかと!!」

 とシストは興奮する。


「そうだな。何十年に一人かの逸材だ!あんな魔力量に聖属性の回復力の速さ!!異常だ!才能の塊だ!!…結婚など…とんでもない!!彼女は神殿で神に仕えるべきだ!」

 とギニアス神官長も目をキラキラさせる!


「でも恋人のことはどうするのです?結婚する気でいるんでしょう?ヨハンナ様は」


「ふむ……。別れさせるしかあるまい?どうせ大した男でないだろうよ?所詮平民の男なら…。金を積んで別れさせるか、そうだな…どうせなら神子様と結婚させるのはどうだろう?あのお方は神々しくまさしく神そのもの!」


「確かに!!神子様と聖女様が結婚すれば!無敵だ!!」

 とシストもうなづいた。


「よし!男の方をとりあえず調べておけ!!」

 とギニアス神官長はニヤリとした。

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