第24話 正気で触れ合いたい

 なんでこんなことに!?

 ベッドの布団の中でぐるぐると考えた。

 矢が刺さりそれが俺の胸へ沈むところまでは覚えてるが、その後の記憶がすっぽり抜けている!


 ヨハンナの属性は聖だ。聖属性の魔法を使えるモノは世界でも少なく、その殆どが教会や神殿で働いている神官や巫女、神子等である。たまに聖女と呼ばれる者も出てきたり。


 何せ聖属性の魔法は回復を使える者が多くいて薬草要らず。癒しの魔法は風でも光でも使える者もいるが圧倒的に聖属性の回復魔法は差がある。高位魔術を覚えると…手足が無くなった者は完全に復元し戻すことも可能になり、亡くなって数分以内なら蘇生もできる魔法もあるため、教会では聖魔法…魔力の強い者はどんどん上の役職につける。


 また、攻撃方法はアンデットに対してはほぼ無敵。他にもいろいろと防御特化や、精神系の魔法を使えることもある。


 ヨハンナが…聖属性か…。

 俺とは正反対だな。

 唯一、聖魔法の使い手に闇魔法の使い手はかなり相性が悪く敵同士になることが多い。

 これは光属性にも言えることだが、光属性と闇属性は大体五分五分の差だが聖属性ともなると闇の分はかなり悪く圧倒的に負ける。


 ……聖属性の女と俺が恋人同士!?

 その証拠に俺の影はもはや役立たずで俺はヨハンナの矢を受け記憶を失っている間……あろうことか俺の性格は変わり従順で真面目になり、ヨハンナを真っ直ぐに愛する男になったとヨハンナが青ざめながら話してくれた。

 何とか胸の聖痕は手を当てて消してくれたみたいで、ヨハンナは俺の肌に直接触れた事を申し訳なく思いめちゃめちゃ腰を折り誤ってきた。


「ご、ごめんなさい!!バルトルトさんのトラウマに加わったらどうしよう!!」

 と泣きそうになっていたが、その後に俺が性格反転してる時にキスしたり甘い言葉を言ったりともかくベタベタしていて大変だったと聞き、今度は俺が青ざめる方になった。


 しかも普段と違いキラキラした満面の笑みでヨハンナに接していたとか。

 し、信じられるか?この俺が爽やかに笑うとか!自分でも気持ち悪い!


 一応一線は超えてないとヨハンナは言った。

 彼女は正直にそう言うので嘘はついてなく、しかしその他は真実であることは俺は知ってる。ヨハンナはそういう奴だし。


 しかし!俺が笑顔でヨハンナにキスとか甘い言葉とか言ってたなんて!!俺の知らない間に何してんだ!いくら魔法にかかったと言え!ヨハンナにキス…は正気の俺は一度しかしてないぞ!!?なのに魔法にかかった俺は…何度かしたと彼女は正直に言うから恥ずかしいと同時にう、羨ましい!俺が持ってない積極さを持っている俺!!


 く!!俺だって正気ならもちろんヨハンナと実はたくさんイチャイチャしたいくらいの願望はあるが恥ずかしくてとても出来ないと言うのにず、ずるい!


 せめて覚えていたら!!

 く!くううう!


 お詫びに次の日からヨハンナがせっせと家事をし俺の好物のコロッケはもちろんご馳走を出来る限り頑張ってくれた。癒しの魔法で疲れを取ってくれたり。コントロールもスイスイ出来とる!!


「で、お前…教会に行く気はないんだな?」

 と聞いてみると…


「嫌ですよ。教会なんて!結婚できないし戦争やらで傷付いた兵士の治療とかで人生終わるんでしょ?冗談じゃないですよ!それに私はここでずっとバルトルトさんといたいし」

 と言われぼっと顔が赤くなった。

 く!何故スラスラと言える!?


「……まぁ…俺もヨハンナがそう決めたならいいと思う…。それに……その力は最強…と言うか無敵に近いな。人の心を改変させてしまうなら悪人さえも浄化できるな。


 ロイ先生にもそれを使ったら…俺のことなんか忘れてくれるだろう。随分と都合のいいことだが」

 それを聞くとヨハンナもうなづき、


「そこはそうよね!?これなら私バルトルトさんを守れるし!!」

 と喜びにこにこした。

 か…わ…。

 と思いハッとした。まだ魔法が!?


 く!

 しかし…俺の心の中変だ。魔法の効果は切れたがモヤモヤする。ていうか俺自身に嫉妬するとかないだろ?


「そ、そのヨハンナ…」

 夜、寝る時にヨハンナはいつも手を握り悪夢防止に俺の側で何もせずに眠ってくれる。


「何ですか?」

 横たわり眠そうに目をこする。


「そ、の…俺が魔法にかかった時にいろいろとして嫌じゃなかったのか?俺は…無理矢理やられて嫌だった記憶があるからお前にも不快な思いさせたろ?」

 と言うとヨハンナはブルブルと首を振った。


「いや!私達恋人同士だから!問題ないですし!私バルトルトさんのこと好きだから逆にありがとうございます!!普段見れない姿でこれが俗に言うギャップ萌えとかでもう!!素敵というか!!」

 と思い出し赤くなるヨハンナ。それは魔法にかかった俺だ!ゆ、許せん!俺の知らない俺で盛り上がるな!俺だが俺に嫉妬する!


「おい!ヨハンナ!いつもの俺とそのキラキラした俺とどっちが好きなんだ!?」

 と睨むと


「え?どっちもバルトルトさんなら…」

 とそこで俺はヨハンナの顔に手を置き近付いた。ドキドキするの我慢して


「どっちだと聞いてる!」

 ヨハンナの目がキョロキョロし出した!


「ええと!?あの?私なんか怒らせました!?」


「怒ってない!!」


「怒ってるじゃないですか!!」

 俺はとうとう勢いでヨハンナにキスした。


「!!?」

 ヨハンナが固まる。

 赤くなりお互い見つめ合った。


「で?どっちだ?」

 と聞くと


「ふみゅ…いつものこっちのバルトルトさんがやっぱり好き…」

 と聞き俺は堪らなくなりもう一度キスした!!

 何だこれ!?

 知らんがヨハンナへの想いが溢れて止まらん!!


「はっ!…ふえ?」

 とヨハンナも驚いているし俺もこんな大胆になり正直驚いていた。


「ヨハンナ…俺は俺に嫉妬するわけわからんことになってる!」


「え!?」

 と瞬いた。その目にキスするとまた赤くなる。


「ひゃあ!?」


「魔法にかかった俺はお前にいっぱいキスしたんだろ!?ずるい!!」


「ええ!?同じバルトルトさんなのに嫉妬なんて!」


「俺覚えてないんだよ!ずるいだろ!お、俺だってお前にたくさん触れたい!正気でな!お前が嫌じゃなきゃ…その…やっぱりいっぱい触れたいし!」

 と言うとヨハンナは少しだけ笑う。


「……そんなの…いつだっていいですよ?私もです。バルトルトさんが怖くないなら…い、いつだって私は…」

 と見つめ合う。ドキドキする。

 もう一度キスをし…今度は…何というか舌を入れとても濃いものをした。昔はとても嫌で気持ち悪かったのにヨハンナのだと思うとドキドキするし続けたいと思った。

 ヨハンナが真っ赤になるのも可愛い。

 俺はヨハンナを…


「……愛してるヨハンナ!」

 そう言うとヨハンナは真っ赤になったままうなづいた。


「わ…私も!」

 と言い少し涙ぐんでいた。


「ヨハンナ…俺にまた魔法をかけてないよな?」


「かけてません!!」

 と少し怒るが


「ならいい…。その…抱いていいか?」

 と言うとヨハンナはやはり少し固まったが


「あ、ど……ど…どうぞよろしくお願いします」

 と畏まった。

 俺はこんな気持ちになったのは初めてのことだったがヨハンナとなら愛し合いたいとハッキリ思った。他の誰でもない唯一の…。


 それからはお互い夢中だった。



 *


 夜明け前になり俺はヨハンナの寝ている所を初めて見たことに気付いた!!俺いつも低血圧で昼まで寝ているからヨハンナの方が先に起きていていつも怒られるのに!


 横ですやすやと寝ているヨハンナに可愛いなと思った。普通の栗色の髪を少しだけ撫でる。


 これが…本当に真実の愛ってヤツなんだと実感した。そんなもの無いと思っていたのに…。俺にとってそれは恐ろしいものでしかなかったのに…ヨハンナと触れ合い、違うんだと感じた。


 昔俺が無理矢理抵抗も出来ずいろんな奴にやられて嫌な思いをしたこと…ヨハンナと抱き合うことで全然忘れられた!

 というか俺から求めたのなんか初めてだし全然違った!!

 俺は思わず泣いた。


「ほんとに全然違うんだな…」

 と呟いた。

 なんか妙にあったかい。

 まるで温かな羽毛に包まれているかのような気分で酷く心地良かった。俺は長いこと酷く…孤独だったんだな…。


 ヨハンナが


「んー?」

 と起き始めた。

 するとガタガタと家が揺れ始めた!?


「え!?何!?地震!!?」

 流石にヨハンナも起きた!


 俺は異変に気付いた!!なんか窓の外に光るものがある。

 バンと手を着いた変態…ロイ先生がこちらを睨みつけ見ている。ガラスに息を吹きかけフウフウと白くなるガラスに手を当て手形がくっきり付いた。


「ぎゃっ!」


「ひいい!!」

 あまりの恐怖に二人して驚いた!!

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