第16話 距離感の保ち方
うーん、これからどうしようかな。
私は食料を整理しながら考える。
まず、間違いなく…バルトルトは私の事好きだよね?
あんな抱きしめられたりしたら私でもわかるわ!!あんな綺麗な蒼の瞳で見られたら私だって照れるわ!!
でも…あの人は多分自分からはぜーーーったいに告白とかしなさそう。しても遠回しでわかりにくいやつだと思う。
しかし言葉で言わない分急に抱きしめられたりしたら私でも困るわ。私だって流石にバルトルトのことは好きだけど…。別に私だって恋愛経験豊富なわけじゃない。パーティーで素敵な殿方を見つけても背が高い私はモテないし誘われなかった。見てるだけで恋なんて終わっていくばかり。
一方でバルトルトは恋はしてなくともどうやら何人もの女やら男やらと身体の関係は多分経験済みだろう。いやトラウマレベルで無理矢理やられたからあんなに警戒心強い人嫌いになってしまったんだろうけど。
まぁ、元王子様だし、いろいろ大変よねぇ…。
しかし…私達ってそう思うと実は両想いなのよねぇ?
正直私も最初はバルトルトが顔が良くても全然口も悪いし好きじゃなかった。顔だけの口煩い奴だとしか思えなかったけど、私の手料理文句言いながらも美味しそうに食べたりするのも可愛いし、手間もかかる子供みたいなとこもあるし。
……ってお母さんかーい!!
困ったわ。これからどう接すればいいのかしら?そもそも私たちは両想いの癖に告白ができていないから恋人同士でもない。
いや、一緒に住んでいるし戻ってこいと言ったのもバルトルトだけど…「好きだから」とかは絶対あの人言わないわ!!
うーむ、やはりそうなると難しい関係になる。恋人同士でもないし、ただの家政婦とも思えないしなぁ。女が苦手ということもあり私からグイグイいくことは出来ないだろう。
バルトルトが気のむいた時にギュッとされたら身が持たないし…。何か適切な距離感はないものか?
バルトルトは先ほどから木を掘って動物を作っている。集中してるから話しかけるなオーラが凄い。
私は悩みつつも竈門でおやつのパイを焼き始めた。先日行商人からリンゴをたくさんおまけしてもらったからアップルパイにしよう。
そう言えば…あの行商人のおじさんは完全に最初から私達が夫婦だって思い込んでるからバルトルトに物凄いスケスケの下着を勧めてたわね。嫌な顔して突き返してたけど。
またトラウマ出てきたよね。
こんなんで私達は上手くやっていけるのか?まさかこのまま訳もわからない関係のまま一生いるってこと?
ええー!?それもちょっとなぁ…せめてバルトルトから告白してくれたらなー。と思っちゃうわ。私から責めたら怖がりそうだし。はぁ。
バルトルトは作業を終えて
「ふう!出来た!」
と木彫りの鹿を作っていた。…正直…微妙な出来だった。別に上手くない…。むしろ下手くそな方だ。この人…本当に不器用なのに何でこんなの作ってんだろう??
「お疲れ様。アップルパイ食べます?」
「食ってやってもいい」
というのでやはり素直じゃないなと思いつつも皿にパイを出して切り分けた。
紅茶も注ぎながら…私は話をしてみた。
「バルトルトさん」
「なんだ?」
「私達ってどういう関係なんですか?」
ガシャンとカップを落としそうになるバルトルト。
「はぁ!?」
「いや…私の事好きなんですよね?では私達は恋人同士ということですか?」
「はあああ!?いつ恋人同士になったんだ??」
「ええ?だって…私の事抱きしめたし」
と言うと赤くなりつつも
「あ、あれは!!あれは……そんな意味じゃない!!女で唯一触れられる相手だということを示しただけの方法というか…」
また訳わからんこと言い出したな。
「はぁ…。じゃあ別に私は恋人ってわけでもないなんか都合のいい女みたいな感じですか?恋人にするまでもないが、家事はしてくれるし楽ーみたいな?」
と私が言うと
「それは…ちょっと違うよな…。それは人として失礼だろうが!」
と正論を言い出したがじゃあなんなのだ私の位置は!!?
「ああ…わからない…。ほんとわからない…」
と頭を抱える私。
「まぁ……そうだな…。恋人になる前の訳わからん関係じゃないか!?俺は恋とかしたことないがお前といるとなんかホカホカする」
とか言う。
ホカホカって。
「ならいっそ恋人同士になっちゃえばいいのでは?」
「いや待て!ヨハンナ!それはどうだろうか!?そもそも俺はお前に言えてない。それをすっ飛ばして恋人になるのはおかしい!」
「ええ!?ならさっさと告白してくださいよ!私完全に待ちの体制ですよ!!別に振りませんよ?」
と言うとスッと手を前に出し静かに目を閉じた。
なんだこの人?
「……ヨハンナ…俺もな、考えてはいるが…タイミングとかあるだろ!?それにシュチュエーション?とか?ロマンスだの?知らんが。そう言うのが俺の中でかっちり噛み合わないと上手く表現しようがないと言うか…」
とうだうだ言い出した。
「なんですかそれは…私の事好きなんですよね?何で素直に「好きだ」って言えないんですか?アホなんですか?」
と言うと震えて
「何なんだよ!タイミングって言ってるだろ!!?大体お前こそよくそんなポンポン言えるな!凄えな!!いや…女は皆言えるのか…。どの女もそうだったし…」
「ちょっとおおお!他の女の人のことよく言えますね!デリカシーが足りませんよ!!バルトルトさんの過去の女の人は知りませんけど私はそんな簡単な女じゃないですからね!!とにかくバルトルトさんが『好きだ』って言わないなら!」
「言わないならなんだ?」
「………何にも出来ないじゃないですか」
とちょっとだけ涙ぐむ。
「………ヨハンナ…」
となんか切なそうな顔をされ私も困った。
わかっている。困らせてるのは。世の中には好きだとか愛してるとか簡単に言えない人だっている。
「ごめんなさい…。困らせて。もうこの話はやめましょう。さぁ、アップルパイが冷めますよ」
と私は黙々とパイを食べた。
もういいや、何もなくとも。一緒にいるだけで幸せーーってヤツでいいんだわ。何もしない清い関係のがバルトルトに辛い過去を思い出させないで済むなら。
しかしそこでガタガタとバルトルトが震えそしてバッと両手で私の手を取った!!
だから!!いきなりは辞めてー!!心臓に悪いって!!
「手!!手なら!!……毎日こうして練習すれば何とか…なる!!」
と言った。???
「だからその…俺はその…もの凄く女が苦手なんだが…」
「はぁ…知ってます」
「お前とこうしてたら過去の嫌な記憶…消えそうな気もする。軽々しく女達があの言葉を俺に言っておぞましいって…ずっと俺は思ってたんだ…。だから中々お前にその言葉を言ってやれないのが現状だ。すまん…。本当に…。
だからな、慣れたらきっと言える日が来ると思う。だから…その……こんな距離感で悪いがしばらく我慢してくれないか?」
とバルトルトはちょっと辛そうに言った。
そりゃそうだよね。彼にとって女と言う存在はおぞましいものだったのだ。出会った時の警戒心の強さは人一倍だった。
「わかりました。バルトルトさん。私待ちますよ。私は……バルトルトさんのことが大好きなので…いつまでもお待ちしておりますし、決してガッツいたりしませんよ。安全な女ですから私」
ふふふと笑うとバルトルトは安心して目を細めた。
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