短編集(恋愛)
内山 すみれ
左手の親指
この前さ、料理してたら左手の親指を包丁で切っちゃったんだよ。アボカドのタネを包丁の角の部分に突き刺して抜き取ろうと思ったら勢い余っちゃってさ。アボカドのタネってホント取りづらいよなあ。……え?そんな話今は関係ないって?いやいや、関係あるんだよこれが!むしろこれがめちゃくちゃ関係してるんだよ!だからさ、ちょっとだけ俺の話聞いてくれよ。
それでさ、左手だし利き手じゃないからまあいっかって思いながら絆創膏貼ったわけ。でも実際は全然違った。包丁で野菜切る時も左手の親指でおさえていないと切りづらいし、髪の毛洗うのも左手の親指がないと不便だった。左手の親指なしで全くできないというわけではないけど、左手の親指を知ってしまった俺には左手の親指なしでは生きていけないと悟ったんだ!
「……で?結局何が言いたいわけ?」
話を嫌々聞いていた真由美は、全て話し切ったと達成感に晴れやかな顔をした悠介に訊ねた。
「だから!俺にとっての左手の親指は真由美なんだよ!」
「はあ?」
俺にとっての左手の親指って何だ。お前には既にあるだろう。左手の親指が。そう真由美は突っ込んでしまいそうになったが、後々面倒なことになりそうなので口を噤む。
「左手の親指のようになくてはならない存在、それが真由美なんだ!だから別れるなんて言わないでくれよ!」
縋り付こうとする悠介を避ける真由美。元彼のくだらない話を聞いてやったのだ。元彼にかける情けはもう残っていない。
「バイバイ悠介。左手の親指とお幸せに!」
真由美はそう言い捨ててこの場を後にしたのだった。
Fin.
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