第45話 スペイン編①

W杯が開催される前、傑がスペインにいた頃の話。


当時のスペインのサッカーファンは、サッカーへの熱が冷め始めていた。

もちろん地元のチームや応援しているチームが勝てば喜ぶし、優勝すれば街中であろうと見ている人たちは歓声をあげる。


しかし、勝ち負けだけではない面白さがなかった。

ボールを持つだけでワクワクさせてくれる存在。

そう”ファンタジスタ”がいなかった。


以前まではアランがいたが、彼も新天地へと移籍しスペインで見ることは少なくなった。

そんな中、飢えた猛獣の中に肉を投げ込むかのように、アランがスペインに電撃帰還を発表した。2年間の期限付きの移籍だがスペインのサッカーファンは、突然放り込まれた肉に歓喜した。

そのせいもあってか、その発表と同時にあるチームが日本人を獲得したとの発表など気にもとめなかった。



「スグル、今までどこでプレーしてたんだ?」


マスフェルトでのチームメイトで、紅白戦で度肝を抜かれまくった、FWのアレクとCBのユリクとともに食事をしていた。さすがというべきか最高峰の環境ということが食事からも見えていた。アスリートに、それも選手個々に合わせたメニューだった。

傑の分も初日にも関わらず練習と紅白戦、精密な身体検査によって食事内容を決められていた。


「昨日まではサッカー自体してなかったよ」

「は?」

「まあ、全くの初心者ではないけどな。5年前かな最後にまともにプレーしたのは・・・」

「「いやいやいや、それであれ!?」」


傑の話を聞いた二人は、顔の前で手を振りながら笑っていた。

5年間ボールにすら触らなかった奴がほんの少し感覚を確かめただけであんなこと出来るわけがないと常識的に判断していた。


「・・・・マジで言ってる??」

「マジで言ってる」


アレクからの問いに素直に答えた。


「マジかー・・・・・。本物の天才だー」


半ば諦めの境地に達したかのように天を仰いだ。

その後も紅白戦での傑のプレーについて三人は話し合った。

アレクたちはアランという同世代では飛び抜けた選手を見てきたが、彼を超えるセンスを持つ選手とのサッカー談義に終始興奮していた。



「よし、全員食べ終わったな。じゃあ、早速今日からこのチームで預かることになったやつを紹介する」


そう言ってダーナ監督は傑を隣に立たせた。

この場にいるほとんどが紅白戦に参加、または観戦していた人たちなので日本人だからと驚かれることもない。

どちらかというと歓迎ムードだ。


「紅白戦を見てなかったスタッフもいるから自己紹介を頼む」

「はい。三条傑です。監督との縁もあってこのチームでプレーすることになりました。紅白戦である程度はどんなやつか知ってもらえたと思いますが、よろしく」


すでに身をもって知ったものたちからは拍手で迎えられた。


世間がアラン=ハートの電撃移籍に興奮と戸惑いを隠せない中、その原因を作り出した男の新たなサッカー人生が始まった。







遅くなってすみません!

ようやく時間を取れるようになったので、少しづつ再開していきます!






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