殴りマジ? いいえ、ゼロ距離魔法使いです。

夢・風魔

バージョン0.00

第1話:マジ、キャラメイクをNPC任せにする。

 終業式当日。そして新作VRMMO『Imagination Fantasia Online』オープンベータテスト当日。

 終業式を終えて急いで帰宅後、両親がネット通販で買ってくれた最新型のVR専用ギアの箱を持って自室に入る。

 包装紙を破り捨て、丸めてゴミ箱に投げるが――入らない。

 いつもの事だ。

 とりあえず今はこっちが先だ。


 パソコンに接続したVRギア。公式サイトからログインし、それから――

 モニター前にリクライニング式の大きめ座椅子を置いて深く腰を掛け、ギア装着っと。

 電源をONにすると、そこは――






『【Imagination Fantasia Online】《イマジネーション ファンタジア オンライン》の世界へようこそ』


 サーバーが少し混雑していたが、なんとか受付ロビーには一発で入れたようだ。


 ロビーというよりは、西部劇なんかで見るバーのような造りの室内って感じだな。

 L字形のカウンターがあって、その奥には白黒のメイド服を着た女性が一人、ぽつんと立っていた。

 青い髪に青い目。既にここはゲーム仕様なんだろうな。女性と言っても現実に存在するようなのじゃなく、アニメのキャラクターだ。

 それにしても、随分と表情の動かない奴だな。


『現在はオープンベータテストに先駆けたキャラクター作成、及びチュートリアルのみを先行で行っております。キャラクター作成を行いますか?』

「しないといったらどうするんだ?」

『……キャラクター作成を行わない場合、無意味に電力を消費し続けることになります。それでもよろしいのですか?』


 ……そうきたか。

 最初の間は考え中なんだろうけど、まさかこういう回答をするとはな。しかも無表情は相変らずだし。

 ま、NPCをからかう為にログインしたわけじゃないから、サクっとキャラクターを作ってしまうか。


 事前情報だとキャラの外見だけ決めて、ステータスや技能なんかはチュートリアル後でもいいってなってたな。

 実際にあれこれ技能をセットさせてくれて、どんなものかある程度試してから決定させてくれるって事だし、サバオープンまでまだ三時間あるからあれこれやってみるかな。


「キャラメイクを頼む。ステや技能は実際にあれこれ試してから考えたい」

『了解いたしました。それではアバターの作成に入ります。まずは基本となるフェイスパターンからお選びください』


 と言われてもなぁ。

 この『Imagination Fantasia Online』は、CGアニメ風の現実離れしたグラフィックが売りになっているVRMMOだからな。

 お袋曰く「昔の綺麗な3Dグラフィックだった頃のMMO風だねぇ。でもこっちのほうが断然動きが滑らかで凄いけど」らしい。

 つまり――

 キャラメイクも自分をスキャニングしてそれをベースってのが無く、いちから完全に作らなきゃならないパターンなんだよ。

 あんまり時間は掛けたくないし、だからってデフォルトのままだと個性がない。

 とはいえ、何をどう弄ればいいのか……こういうのはセンスの問題なんだろうけど、苦手だな。


「な、なぁ。キャラメイクのお勧めとかって、ないか?」

『お勧めでございますか?』

「あぁ。自分で作成すると、上手い具合にキャラを作れるか自信なくって。だからそっちで自動作成とか……無い?」

『ワタクシにお任せする――という事でしょうか? 一応そういったご相談にも対応させて頂いております。こちらの質問にお答え頂く形で、アバターを決定させて頂く方法ですが。よろしいですか?』

「あるのか! じゃあ頼む。あ、体格的な部分だけは、実際の俺の身長体重を基準にして欲しい」


 じゃないと、行動するときに違和感が出たりするかもしれないからな。


『承知いたしました。それでは身長と体重を仰ってください。多少はサバをお読みになっても構いませんよ』

「……いや、別に恥ずかしいような数字じゃないから。身長が177センチ、体重は66キロだ」

『……ではその体型で作成いたします』


 なんだその間は。サバなんか読んでないってっ。


 キャラメイクなんかより、ステや技能のほうが悩むんだよな。


「ステータスや技能について、公式で公開されてる内容以上の事をここで教えて貰ったりは出来ないのか?」

『ヘルプがございます。ご覧になられますか? それと、美麗がよろし――』

「あぁ、頼む」

『――かしこまりました。ヘルプはこちらをご覧ください』


 そういって女NPCが右手を差し出すと、掌の上に可視化されたウィンドウのような物が現れた。

 まぁ見た目はタッチモニターみたいなものかな。

 触ってみると、予想通りの仕様か。

 物質がある訳でも無いのに、モニター部分に触れるとちゃんと触感みたいなのがある。

 モニターにはいくつか項目があって、技能についてもちゃんと書かれてあった。


 この『Imagination Fantasia Online』には職業というのが特に用意されていない。

 代わりに様々な技能があって、獲得している技能によってプレイスタイルが確定していくパターンだ。

 他にもタイトルにちなんでなのか、それともシステムにちなんでこのタイトルなのか、スキルをプレイヤー自身が想像して作り出すという、ちょっと変わった内容だ。

 ただ最初からスキルを作れっていう訳じゃない。

 習得できる技能の中には最初からスキルが一つ、ないしは二つ与えられているのもある。だがそれ以上増やそうと思ったら、スキルを自分で作るしかないって事だ。

 自分だけのオンリーワンスキル。そんなのだって夢じゃないんだぜ。

 このゲームをプレイする事に決めたのも、ここに注目したからなんだが。


『――熱いのとクールなのとでは、どちらがお好きですか?』


 前衛戦士系をやりたいなら剣や斧、槍といった技能を取ればいいし、魔法使いなら魔法関係の技能を取ればいい。

 組み合わせによっては魔法戦士も可能という訳だ。

 ただしダメージ計算はステータスや武器依存なので、魔法戦士で俺TUEEEは限りなく厳しいものがある……と。


「冷たいので。夏だからな、暑いのなんてやってられない。えーっと……プレイスタイルをまずは確定させなきゃだな」


 やったことのある他のVRMMOでは、前衛火力職だった。

 当時使っていたVRギアが中古品で、僅か三ヶ月で壊れてしまったからそれしかやったことないが。正直、前衛火力ってパーティー枠が少ないんだよな。

 タンクが一人。前衛予備一人。後衛火力が三人。支援一人。

 だいたいこんな構成で、前衛職がタンク含めて三職だったし。

 効率考えて少人数パーティーとかだと、削られるのは前衛職っていう。


 だからここは――


『カラーリングはどういたしましょうか?』

「そっちの好みでやってくれ。やたらと奇天烈じゃなければなんでもいいよ」

『承知いたしました。それではアバターを完成いたします。こちらでよろしいですか?』


 魔法使いで行こう。

 技能もそっちで固めて……まぁ実際に使ってみてどうかだな。うん。


「よし。決まった。ありがとうな、お陰で助かったぜ。じゃあチュートリアルを頼む」

『承知いたしました。お気に召していただき光栄です。それでは、チュートリアルを開始いたします』


 お気に召して?

 いったい何の事だ。


 と考える間もなく、景色が一変して草原へと移動した。

 どこまでも続く草原。

 俺以外の存在は、目の前にいる女NPCだけだ。


「他のプレイヤーは居ないのか」

『ログイン受付ロビーは、ユーザー一人ひとりに与えられた専用のエリアとなっております。ここチュートリアルエリアも、ログイン受付ロビーと同じエリア内でございます』

「そうか。じゃああんたも俺専用のNPCって事に? いや、そもそもNPCなのか? 実は運営スタッフとか?」

『複数のご質問がございましたので、順にお答えします。はい。はい。いいえ。でございます』


 ……なんだこいつ。今すっごく省略しなかったか?

 ちゃんと答えにはなってるが、なってはいるけどさぁ。


 あぁもういいや。NPCだってんなら感情なんて無い訳だし、効率の良い回答方法を選んだだけってことなんだろう。

 そういう事にしておこう。


 チュートリアルといっても、ここではゲームの操作方法を教えて貰ったり、あとは技能の試し使用が出来たりするだけだ。

 アバター作成時にデフォルトで装備させられている腕時計。時計機能もあるが、これを押しながら『システム』と言えば、システムメニューが可視化されたモニターとなって出てくる仕組みになっている。

 アイテム、装備、ステータスetc……全部このメニューから動かす事になる。


『メニュー画面を省略される場合は、腕時計を押しながら『システム、インベントリ』など、続けて発音して頂ければ操作を省略できます』

「わかった。その辺りは公式サイトにもあったし、だいたい解る」

『左様でございますか。では技能をお試しになられますか?』

「そこ重要だからな。魔法職をやろうと思っているんで、まず属性魔法を全部セット……できるか?」


 魔法を使うためには技能を習得していないといけない。その技能は属性単位で用意されている。

 たぶん、習得していない属性技能の魔法は使えないって事なんだろうな。


『キャラクター作成時に選べる技能数は五つまででございますが、ここでは幾つでもセットが可能となっておりますので大丈夫です。尚、キャラクター作成時に選ばなかった技能に関しても、ゲーム内で一定条件をクリアすると習得できます。中には特定技能を持っていると習得できない、などの条件もございますが、根気さえあれば多くの技能を習得することも可能でございますので、どうぞ、挑戦なさってみてください』

「ふーん。じゃあ、習得できる範囲のもの全部を得るのに、ざっとどのくらいのプレイ時間を必要とするんだ?」

『……一日十時間のプレイ条件がございますので、日数に換算いたしますと、凡そ一五三七日でございます』


 千五……四年以上かよ! そんな根気あるわけねえだろ。


「と、とりあえず属性魔法な」

『はい。既にセット済みでございます。これより模擬戦闘を開始いたします』


 女NPCがそう言うと、彼女の横に緑色をした丸いゼリーみたいなものが現れた。

 目と口があるゼリー……これはアレだよな。


「スライムか」

残念っ・・・。コスライムでございます』

「なんでそこ強調してんだよっ。だいたいコしか違わないだろ」

『コスライムは実際のフィールドにも登場するモンスターでございます。ノンアクティブモンスターですので、プレイヤーが攻撃するまでは襲ってくる事の無い大人しいモンスターです』


 こいつサラッとスルーしやがったな。

 くそうっ。なんなんだこの敗北感は。


『属性魔法の技能がセットされておりますので、それぞれの初期魔法が使えるようになっております。射程などもございますので、スキルをご確認ください』

「あ、ああ。解った。じゃあシステムメニューを出してっと」


 システムメニューにある『スキル』を選択すると、『ファイア:LV1』『ウォーター:LV1』『ストーン:LV1』『エアカッター:LV1』『サンダー:LV1』『ヒール:LV1』『ライト:LV1』という魔法があった。


◆◇◆◇


『ファイア』

 属性:火

 効果:小さな炎で敵を攻撃。火属性ダメージ小。

 消費MP:5

 射程:15


◆◇◆◇


 射程は十五メートルって事か。


 ん。


 十五……メートル……。


「しまった……魔法って……遠距離攻撃……」

『当然で御座います。ご存知なかったのですか?』


 ご存知でした。

 でしたが、すっかり忘れていた。


 やばい。

 当たる気がしねぇ……。

 だって俺……壊滅的なまでのノーコンだもん。





**********ここからは本編とは関係ありません********************


『おはようございます、こんにちはこんばんは。ワタクシは彗星マジック様専用受付ロビーの担当をしております、サポートスタッフでございます。

ここではキャラクター作成時に選べる技能の一覧をご紹介させていただきます。

まずは初期スキルがセットになっております、戦闘系技能からご紹介いたします。

【剣術】【斧術】【槍術】【弓術】【鈍器術】【盾術】【火属性魔法】【水属性魔法】【風属性魔法】【土属性魔法】【雷属性魔法】【神聖魔法】【召喚魔法】の計十三技能となります。

これらの技能を修得すると、自動的に一つ、ないしは二つのスキルを獲得することとなります。

尚、技能を持っていないからといって、該当武器を装備できないというような事はございません。技能を持つことで、該当武器による攻撃ダメージや命中率に補正が入るとお考えください。


戦闘系技能には、初期スキルが用意されていないものもございます。

それがこちら――【格闘術】【突き】【斬撃】【ガード】【一点集中】【早口】となります。


次にステータス補正系技能をご紹介いたします。

【筋力向上】【耐久力向上】【敏捷向上】【集中力向上】【魔力向上】【体力向上】【マナ向上】でございます。体力向上はHP補正、マナ向上はMP補正となります。また減った分の回復速度や量にも影響を与えます。


最期に生産系技能をご紹介いたします。

【採取】【鑑定】【練成】【鍛冶】【裁縫】【木工】【調合】となります。


以上三十三技能から五つを、キャラクター作成時に選択して頂く事になっております。

また、三十三種のうち、ステータス補正系の技能以外はゲーム内でも修得が可能となっております。

ただゲーム内ですと、修得条件などもありますので、ボタン一つでという訳にはいきません。

早期からレベルを上げたい技能に関しては、ここでの修得をお勧めいたします。


当然の事でありますが、ゲーム内には様々な技能がご用意されております。それぞれの技能には修得条件がございますので、皆様自身で新たな技能を発見されてみてください。

より多くの技能を修得することで、冒険がもっと楽しくなるかと思われます。


それでは、またのお越しをお待ちしておりますね』

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