記憶が頼りにならない、俺
顔を見て驚いた。マリヤによく似ている。その男、マサユキはマリヤの前に立ち、番犬のように彼女を庇う。あまりにイケメンすぎた。
いや、あれは女子ならイチコロだろ。理想の美少女の男バージョン。きれいすぎる顔の男。校章の色は青。俺やマリヤと同じ学年だ。
「確か、マリヤさんのお兄さん……」
菊谷はそう言うとぶつぶつと小声になる。さすがに好きな人の兄が出てくるとは思っていなかったようで菊谷の目が泳ぎ出した。
って、お兄さん? 同い年の? じゃあ俺が一緒に遊んだり風呂に入ったのってこっちのお話では?
名前だってマサユキ。うん、マーはこっちだろ!?
「マリヤ、行くぞ」
有無を言わさずマサユキはマリヤの手を引いてこちらに向かってくる。
「お兄さん、僕は!!」
「お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはない」
マサユキはカッコよく言い捨てる。どこぞの娘を持つお父さんのようなセリフを。
って、やばい。こっちにくる。
俺は必死に隠れる場所を探す。隠れていた扉から中に滑り込んだ。良かった、鍵が開いてて。
そのまますーっと通りすぎていく気配に胸を撫で下ろしながら俺はその場で少しだけやりすごした。
あ、鞄がまだ教室だった。だけど、菊谷もまた鞄があそこにあるだろう。
俺はもう少しだけこの
◇
『樹君もですか?』
マキちゃんに今日は配信に行けないとメッセージを送るとこんな返事がきた。
たぶん、マリヤはあんなことがあったから行けないとか連絡をしたのかもしれない。その意味の“も”なのだろう。
『ごめん、あと確認したいことがあるんだ』
俺は鞄を掴み外に向かう。
『なんですか?』
『川井マリヤの双子のこと』
『あ、会いましたか?』
マキちゃんは普通に返事をくれた。いや、まあそうだよな。聞いてないのに答えてなんてくれないよな。わざわざ兄妹のことなんて。だから別に隠してたってわけでもないんだよな。
『会った。すげーカッコいいの。なんだあれ。チートか?』
『……あの、もしかして樹君、そういう趣味が』
『は? ないないっ! ないから!』
彼女から変な意味で取られたのか、俺は必死に否定する。
『俺が遊んでたマーは、あっちだったんだよな?』
さっきまで即返しだったメッセージが止まった。
あのー? マキちゃん?
『いえ、皆で一緒に遊んでたメンバーはマリヤですよ?』
ずるりと危なくバナナで滑るくらい華麗に足がすべるところだった。
あれぇ!?
俺は必死に思い出そうとする。でも、双子で見たなんてそれこそ覚えがない。それにマサユキは髪が黒かった。また俺は困り果てる。お前は誰だよ、マサユキー!?
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