女の子を観察する、そして見られてた俺

「むひゅぁえ、ふはぁてふはふあ」

「むぅぁーむぁい」


 何故、それで通じるんだ。彼女達はお菓子を食べながらゲームをしている。配信はまだ開始していない。今日は、俺がやっていないゲームをするそうなので、先に操作方法を教えてくれているのだ。

 イケメンが剣で無双むそうするゲーム。名前は聞いたことがある。超闘剣とうけんLOVE無双だっけか。

 似たような無双系をしたことがあるので、彼女達の説明の言葉が理解できなくてもすぐに出来そうだ。


「わぁっわ?」

「ひゅへるひょえ?」

「ごめん、正直わからないから、飲み込んでから話して。あと、これ系ならやったことあるから大丈夫」


 ごくんと飲み込む音がして、二人がごめんごめんと謝ってきた。


「お兄ちゃんは、ゲームに入ると女の子のふりとか出来ないから巻き込めないなぁ」

「その点、樹君はどこからどう見ても可愛い女の子なので」


 何か言われている。


「いいなぁ、楽しそうで。私も薫君連れてきたいなぁ」

「でも、彼はゲーム苦手なんでしょう?」

「そうなんだよね」


 どうやら、ユイさんのお兄さんはゲームが出来るが、俺のような演じ分けが出来ず、たぶん彼女の彼氏であろう相手はゲームが苦手という話だろうか。

 俺の仲間が増える道はないようだ……。


「じゃあ、起動しよっか!」

「おっけー。私のアバターって注文通りにしてくれた?」

「もっちろん」


 そう言って、マキちゃんは配信の用意を始める。

 ユイさんのアバターはキラキラした金色の髪と少し緑色の入った青色の瞳。頭に垂れた犬耳とティアラを着けたお姫様風だった。フリフリしたスカートが可愛い。すごく女の子という感じだ。


「ありがとう! 可愛い!」

「元キャラも可愛いもんね」

「そうそう。大好きな縁結びの女神ちゃんなんだ」


 どうやら、この犬耳お姫様には元キャラがいるらしい。それにしても、女子の会話は正直わからない事だらけだ。急にあちこち飛んでいる気がするが、きちんと話が繋がってくる。

 これくらいで動揺どうようしてはいけないな。究極の女の子を演じる為には、女子を観察する必要がある。そうか、これは俺のミツキちゃんを成長させるための試練。


「ミツキちゃん、はじめるよー?」

「あ、はいにゃーん」

「すごいね、本当に可愛いし、すぐキャラになりきってる。これじゃあ、わかんないね! 絶対私も騙される! 昨日のだって、女の子だとばかり、思ってたし」


 昨日の配信を見られていたのか……。


「撫でたくなる気持ちわかる」


 うんうんと、二人で頷きあう。あの、俺、男の子です――。


「私は、メイちゃんって呼んでね! 国が嫌で飛び出してきた犬耳家出姫って設定だから」


 ユイさんが、アバターの動きを確かめながら、俺に声をかけてきたのでこくりと頷いておいた。


「それじゃあ、今日もはっじめっるよー! 3,2,1スタート!」


 ナミのいない今日は、足をひっぱる人がいないものすごくスムーズな配信になった。

 ただ、受けはナミが居た方が良かったという結果だった。

 あの無限地獄の方が、いいとか何でだ?

 俺は考えた。そうか、応援したくなるんだ。失敗して、失敗して、それでも立ち向かう姿が、視聴者から受けたんだろう。

 ただただ、普通にクリアするだけでは、頑張れって言えなくなるもんな。

 そういえば、最近応援が減っていたのは確かだった。始めた頃の方が、応援してもらえていた気がする。


「ミツキちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様です」


 ちゅっとおでこにキスをされた。あいだに五ミリほどの空気の層があったけれど、画面上ではキスしている様に映される。

 そんなことより、胸だ。シャツの向こうにうっすら透ける青色の花柄。しっかりとそこにあるふくらみ。

 俺は目がそこに集中してしまう。


「マサキ君、ずるいですー! メイにもご褒美ほうび下さいよー」

「ごめん、ごめん。メイちゃんにはこれで」


 すっと離れていくいい匂いのするマキちゃんの体。

 もう少し、ここにいて欲しい。そう思いながら、俺はドキドキなりっぱなしの心臓をぎゅっとおさえた。


「姫をお守りするのは騎士のつとめ」


 ユイさんの手をとり、甲にちゅっとさっきのようなエアーサンドキスをしていた。

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