顔から火が出る俺

 黄色い星がいくつか散りばめられた、可愛いカーテン。ぬいぐるみが三個。狼と兎と猫。この部屋の中は自分の部屋とは違う、少し甘い匂いがする。

 女の子二人が手を振り、配信のスイッチが押された。


「こんにちは! この子はミツキ、ボクの友達ななみんのお姉さんなんだ」

「お姉ちゃんのミツキをよろしくね!」

「ミツキです。参加させてもらう事になりました。よろしくにゃーん」


 挨拶をするとコメントがたくさん飛んできた。


『可愛いー!』

『うぉぉぉ、猫ぉぉお』

『ななみんの姉……だと!』

『ミツキちゃぁぁぁぁん、ここにも降臨!?』


 どうやら俺のチャンネル登録者っぽいのもいたらしい。


「これからボク、可愛い女の子二人に囲まれて、ふふふ、とても楽しくなりそうだ。もっと、いっぱい可愛い女の子ナンパしてこなくちゃだね」

「まあ、人数多くなると、私が足引っ張ってしまうから気が引けるなぁ」

「あぁ、ごめんよ、ななみん。ボク、気をつけるね」


 目の前で繰り広げられる、謎の女子のいちゃつき。いや、画面では男女カップルなんだけど。

 うらやまし、――いやいやいや。

 じーっと、二人を見ていると、マキちゃんがにやっと笑ってからこちらに歩いてきた。


「ミツキちゃんも、今日からボクの可愛い猫ちゃんだよ」


 顔が近づいてくる。は、えっと? 何だ?

 こんな時、どうしたらいいのかわからない!

 俺はぎゅっと、目をつぶると顔の横をすっといい匂いのする髪がでた。


「可愛いね、ミツキちゃん」


 クスクスと笑いながら、マキちゃんの声が離れていく。


「か、かわっ?!」


 マキちゃんの変わりっぷりにドキドキしながら、俺は頬を押さえた。

 頬に触れた、彼女の吐息が、まだそこに残っている気がして。


「それじゃあ、ゲーム部始めようか!」


 ゲームする場所がかわったのに、またしても無限地獄が始まった。


 ◇


「お疲れ様ー!」

「お疲れ!」

「おつかれにゃーーーん……」


 やっぱりナミは全力です。全力で敵に突撃して以下略。本当に疲れる。

 画面にも沢山のお疲れコメントや拍手が。ありがとう、俺、頑張ったよ。というか、そろそろナミ、何とかならないか? これ。

 すっと、マキちゃんが立ち上がると、ゲーム機を下に置きナミに近付いていく。


「今日も頑張ったね」


 なでなでと頭をこね回す。そして、ある程度なでなでしたあと、その手と体がこちらをむいた。心なしか、獲物を見つめる猛獣のような気配がする……。


「ミツキちゃんも、よく頑張りました」


 近づくとマキちゃんは、俺の頭にそっと両手をのせ、なで始めた。俺、されるがまま。どういう状況なんだ?

 年下幼なじみの女の子に(画面上はイケメン狼耳男の子)なでなでされる、俺(画面上は猫耳女の子)。

 逆だろ?! いや、逆だろーー?!


 けど、その手があまりに気持ち良くて俺はたぶん顔を赤らめながら、撫で終わるまで口をぎゅっと変な形に結び座り込んでいた。

 ナミはすぐ終わっていたのに、俺はかなり長い間そうされていた気がする。


「おにいぃ」


 いつの間にか、配信を切ったナミがニヤニヤしながら俺達を観察している。

 俺は急いで立ち上がると、何も言わないまま一礼し、自分の家、自分の部屋に走った。


「うぉぉぉぉ」


 たぶん、これが顔から火が出るというヤツなのだろう。

 本当に顔が熱かった。

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