第20話  明日、幸せになりましょう


そこは、都会とは違う透明感の高い空気に包まれた、銀杏の並木道の黄金色が高い青空に映えるとても美しい場所だった。

駅から続く大通りを進み、街中を抜けた後、横道にそれると今度はカラマツの街路樹が森らしさをたたええて現れる。

木々の間から零れる光がキラキラとタクシーのフロントガラスに反射して光っている。

暫く行くと、ポツン、ポツンと別荘や邸宅が、かなりゆったりとした間隔をあけて建ち並んでいる。


「もう5分程で着きますよ。」

タクシーの運転手が国道から左に曲がりながら、にこやかに後ろの二人に告げた。

軽井沢の駅からタクシーに乗った途端に無口になった遥子の手を、土門が励ますように包んだ。


そう、遥子は長谷部との約束を果たす為に、軽井沢に住まいを構える江上と美月を訪ねにやって来ていた。

東京から新幹線なら一時間で来れる軽井沢は、交通の便も良く、尚且つ都会の喧騒からはかけ離れた豊かな自然に囲まれた場所だった。


二人に会うのは、あれから実に三年半振りだろうか?いや、それ以上か?

事務所を立ち上げて二年。

昨年一年かけて書き溜めたエッセイ、取材記事、写真などをまとめ、この春にようやく、出版にこぎ着けたのだった。

何かの切っ掛けが欲しかったのと、元気でいるというメッセージの代わりに二人には本を贈っていた。

そして、それを機に、長谷部にお願いをして江上に連絡をとって貰った。

なので、今日訪れることは、江上から美月にも伝えられているはずだ。


緊張しないと言えば、嘘になる。

美月とは、あの、頬を引っ叩かれ泣かれた時が最後となっていたし、江上とは、あの事件後、事の真相を話し謝罪をする為に訪ねたのが最後だった。

何を言えばいいのだろう……

どんな顔で会えばいいのだろう……

緊張と不安感で深いため息をつくと、土門が肩を抱いてくれた。

「大丈夫、僕がいるよ。遥子は遥子のままで会えばいいさ。」

「……そうよね……」

何があっても、どんな時でも、“ 大丈夫 ”そう言って優しく背中を押してくれる頼もしい夫の顔を遥子は見た。

二人は昨年末、結婚した。

事務所の皆の企画案を元に暇を見つけては取材に走り回った。

そして、傍らにはいつも土門がカメラを持って同行してくれた。

そう、彼は宣言通り、最強のパートナーになった。

そして、全ての取材が終わった時、人生のパートナーになったのだ。


タクシーが、奥まった邸宅に続く緩やかな坂の入り口で止まった。

「ここからは、私道になるのでここで宜しいですか?」

「はい、ありがとうございました!」

土門が陽気にお礼を言い、料金を払うと二人は邸宅へ続く道の入り口に立った。

奥には東京の江上邸よりもこじんまりした家が見える。

「さぁ、行こうか?」

土門が差し出した手に緊張して僅かに汗ばんだ手を委ねる。

しっかりと手を繋ぎ、歩き始めると、徐々に邸宅が姿を現した。

大きな天然木の柱と石造りの壁との組み合わせの家は、ログハウスとも違う独特のモダンな造りになっていて、大きな深いエンジ色の屋根が印象的だった。

坂の途中に四台は停められる駐車場があり、見覚えのあるセダン車と赤いミニの車が並んで停められていた。坂を上りきると広い石畳の玄関ポーチがあった。

そのポーチから小さな影がこちらに向かって走り出して来た。


「遥子さんー!!!!」

美月が悲鳴に近い声で自分の名を呼びながら、全速力で走ってくる。

遥子は、思わず土門の手を離して両手を拡げた。

「遥子さん!!遥子さん!!遥子さんーー!!」

遥子は拡げた腕の中に飛び込んで来た美月の小さな体を受け止めた。

遥子に全力で抱きついた美月は、すでに泣いていた。

「……美月ちゃん……」

遥子の瞳からも涙が溢れた。

最後の時も、こうして抱き合って泣いた場面がまざまざと甦り、余計に泣けてくる。

「……遥子さん……会いたかった……」

「……うん、うん、……会いたかった……」

ドラマチックな二人の抱擁と涙を、土門は微笑ましい思いで見守った。

冷静で凛とした遥子が、こんな風に泣く姿を見せるのは自分の前だけだと思っていただけに、ちょっと感動的でもあった。


三年半もの時間が流れていたが、多くの言葉はいらない遥子と美月だった。

少し遅れて江上が慌てて出てきた。

心配そうに美月を追いかけている風にも見えたが、遥子の腕の中で泣きじゃくっている姿を見て歩みを止めた。

土門は少し離れたところで立ち止まった江上に、無言でお辞儀をした。

江上も微笑みながら軽く頭を下げてくれた。

ひとしきり泣いて、落ち着いた美月が、今度は満面の笑顔で遥子を嬉しそうに見上げる。

「遥子さん、相変わらず美人ですね!全然変わってない!」

「ありがとう、美月ちゃんもあの頃よりも綺麗になったわね……幸せな証拠ね?」

そこで、江上が声をかけた。

「美月、中に入ってもらいなさい。そこでは冷えるだろう?」

「あ!そうでした!ごめんなさい、どうぞ?」

そこで初めて土門の存在に気づいた美月だった。

「……あ、失礼しました!こんにちは、えーと……」

土門の顔を見て、少し驚いた様に思わず江上の顔と見比べる美月だった。

「似てるでしょ?私の旦那様と美月ちゃんの旦那様……」

遥子がいたずらっぽく笑うと、美月はまたまた驚いた。

「……旦那様!?遥子さん!まぁ!!」

遥子の側で微笑む男性が夫だと教えられ、美月の顔は喜びに崩れた。

「はじめまして……」

土門は丁寧に頭を下げたが、名乗ることを少しばかり躊躇した。

かつて、一年半前に取材だと嘘をついて江上邸を訪れたからだ。

その時、江上が近づいて来て、声を掛けてくれた。

「やぁ、いらっしゃい。……本当に久しぶりだね…」

江上は、なんとも言えない表情で遥子に微笑みかけた。

「……江上先生……ご無沙汰しておりました…」

遥子は、感慨深げに江上を見つめた後、深々と頭を下げた。


取り敢えずの挨拶を終えた後、家の中に通された。

二階建てではあったが、玄関から入ってすぐの広々としたリビングは、吹き抜けになっていて、天然木の太い梁が中央を堂々と渡っている。

真ん中に配置されたゆったりとしたソファとテーブルがメインではあるが、大きな暖炉が有り、ウッドデッキに続く大きなガラスドアの側には向かい合う椅子が置かれ、外の風景を楽しめるようになっている。

仕切りや壁が極力少なく、キッチンとダイニングテーブルまで全てが見渡せる空間になっていた。


美月が入れてくれたコーヒーを楽しみながら、あらためて自己紹介のような挨拶が始まった時、土門は今度こそ腹を括った。

「はじめまして、土門駿平です。」

「…え…と…土門さん…ですか…」

美月は、どこか不思議そうに首を傾げた。

何かしらの記憶を呼び起こそうとしているようで、ちょっと間黙り込んだ。

「……美月ちゃん?どうかした?」

遥子は気になって尋ねたが、なぜか隣に座る土門も、美月の隣の江上も、どこか居心地悪そうにしていた。

「……えぇと…土門さん…」

あらためて土門の顔を見ながら考えていた美月が、突然閃いたかのように声を上げた。

「そう!!土門さん!!」

美月の突拍子のない声に、遥子がぎょっとした。

「ど、どうしたの?彼を知っているの?」

「タウン情報誌の新人記者さん!うちに来られましたよね!?」

美月の問いかけに、男性陣二人が諦めたように目を閉じた。

「……タウン情報誌の新人記者?江上先生の家に来た?……駿平、どういうこと?」

遥子は、訝しげな目で土門を見た。

「……そう、たしかあの時…実は取材ではなくて……龍也さんに相談をしに来たとか……」

当時の記憶が完全に繋がった時、今度は美月が訝しげな眼差しで、江上を見た。

「龍也さん?これはどういうこと?なぜあの土門さんが遥子さんと一緒なの?」


その後、遥子は土門から、美月は江上から、本当の経緯いきさつを聞いた。

二人の男性が、それぞれの妻にこっぴどく怒られたのは、言うまでもなかった。


美月の達っての願いで、土門夫婦は一晩泊まることになった。

夕食を振る舞う!と張り切る美月を遥子も手伝い、二人は仲の良い姉妹のようにキッチンで楽しい時間を過ごした。


夕食後、江上は土門を誘って書斎で一杯やることに、美月と遥子はウッドデッキ前のチェアーで二人で三年半の時間を埋めるようにお喋りをすることにした。


「いやぁ……参ったね」

江上がスコッチグラスに、ウィスキーを注いでくれながら、うんざりとした笑みを浮かべて土門に同意を求めた。

「……はい。もう、コテンパンでした」

江上からグラスを受け取りながら、しかめっ面をして見せた。

「なぜ、私に黙って江上さんに会いに行ったの!?嘘までついてどうかしてる!!……と。」

江上も苦笑しながら

「うちは……なぜ私だけ仲間外れにしたのか?遥子さんのことは一番心配していたのを知ってて隠していた!……と。」

二人は顔を見合せながら笑うと、グラスを合わせ乾杯した。

「遅ればせながら、結婚おめでとう!」

「ありがとうございます!」

「時田さん…いや、遥子君著者の本、良かったよ。美月と感心しながら拝見させて貰った。君の写真も文章に寄り添うように素晴らしかった。」

江上の真剣な眼差しに、土門は顔を綻ばせた。

「そう言って頂くと、励みになります。あれは、彼女の、というよりチームエディットTの練り上げた企画と製作の基に出来た本なんです。」

「……そうなんだね。彼女は、良いチームを作ったんだね。」

江上が、感慨深げに微笑む。

自分を見つけ、救い出し、新たな道を教えてくれた遥子の成功を、実のところ誰よりも望んでいたのは江上だったのかもしれない。

「いつかの約束……守りましたよ。」

土門がきっぱりと笑うと、江上も頷きながら笑った。

「ありがとう。誰よりもうちの妻、美月が喜んでいると思う。私も、美月も遥子君も、君に救われたのかもしれない。」

「僕は……遥子を救いたかっただけです。ただ、それだけです。」

土門は迷いなく答えた。

「彼女は、幸せだね。あんなに幸せそうな彼女を見るのは初めてだよ。」

「当然です。僕に愛されているんですから。」

ぬけぬけと言ってのけた土門に、江上は声を立てて笑った。


暖炉で温められた部屋の窓越しから、月明かりに照らされた庭を遥子と美月は眺めていた。

「遥子さんに再会出来て……遥子さんが幸せそうで……私としては、全てが嬉しくて……」

その言葉とは裏腹な少し曇った表情の美月に、遥子は笑った。

「でも、納得いかない!でしょ?」

「私だけが、何も知らされなかったんだと思うと、なんだかちょっとモヤモヤしちゃいます。」

美月は困ったような笑みを浮かべた。

「仲間外れということなら、私だって同じよ。まさか駿平が江上さんに隠れて会いに行ってたなんて!それも美月ちゃんを騙してまでなんて!」

「ですよね!?」

ムキになる美月に大きく頷いて同意すると、遥子は優しく微笑んだ。

「……でも、江上さんは美月ちゃんを、駿平は私を、守りたかったからなんだと思うわ。すべてのネックになっていたのは、私だったから……」

「遥子さんがネックだなんて!」

美月が即座に否定した。

「ううん、私なのよ。正直に白状すると……私はずっと自分のことを、美月ちゃんや江上さんに赦されただけの犯罪者だと思い込んでいたから……」

「そんな!?犯罪者!?遥子さん……」

美月は初めて聞く遥子の告白に、ショックを受けた。

「……そんなこと言ったら、私は…私は……実行犯です……」

当時のもつれた感情が甦り、美月はとても辛そうな顔を見せた。

「違う!駄目!美月ちゃんがそんな顔しちゃ!」

遥子は身を乗り出して美月の手を握った。

「私が大馬鹿だったのよ。ずっと独りでいじけてたの。皆がちゃんと乗り越えて前を向いていたのに……」

美月の小さな手をそっと両手で包み込んだ。

「それを、ある日偶然再会した 長谷部さんが教えてくれた…」

「長谷部チーフ!?」

美月の丸くなった瞳に、微笑みかけながら、遥子は長谷部との再会、独立を決心してからもずっと彼に支えられてきた経緯を話して聞かせた。

「長谷部さんらしい……」

美月は納得顔で微笑んだあと、突然何かに気づいた。

「あ……!ほら!やっぱり私だけ仲間外れ!長谷部さんまで!」

再び拗ねた顔を見せたそのコロコロ変わる表情と、何一つ変わらない美月に、あの当時の妹に対するような愛しい感情が甦った。

「もっと……もっと早く会いに来るべきだったわ、貴女に。」


その後、土門との出会いや、彼との馴れ初め、独立した事務所のメンバーのこと、エッセイのこと……

美月にせがまれるままに、話して聞かせた。

「そうだ!美月ちゃんに聞きたいことがあったの」

「なんでもどうぞ?」

遥子は、再会の瞬間の美月を抱き止めた時にふと感じたことを口にした。

「貴女……ひょっとしたら妊娠してる?」

美月は、ちょっと驚いたあと、ニッコリ微笑んだ。

「……はい。わかりました?やっぱり私、太りました?」

「美月ちゃん!!なんて素敵なの!?あぁ!おめでとう!!」

太ったというより、独特の丸みを帯びた感覚だった。

江上の美月への執拗な気遣いも、どことなく不自然だった。

「もうすぐ、四ヶ月なんです。それも……双子らしいんです。」

照れ臭そうに、あっさり白状した美月に、遥子の瞳は感激に潤んだ。

「それで納得がいったわ。江上さんのあの神経質な心配の理由が!」

「もうねぇ……わかるんですよ、彼の心配は。わかるんですけど……あまりにうるさくて……熊さんみたいに私の周りをうろうろするんです」美月は、ちょっとうんざりと首を振る。

二人の様子が想像出来て、遥子はクスクスと笑った。

「体調は、大丈夫なの?赤ちゃんは、順調なの?」

「はい、順調です!つわりも酷くなかったし、もう抜けました。」

あの元気でがんばり屋だった美月が母になる。それも双子の母になる。

それだけで、遥子はまた泣けてきた。

ここへ来て良かったと、心底思った。二人に会いに来て、本当に良かったと。


次の日、玄関ポーチで別れを惜しむ四人がいた。

「遥子さん、また必ず遊びに来て下さいね!約束してください!絶対に……」

今にも泣きそうな美月が遥子の手をぎゅっと握った。

遥子も負けじと強く握り返して微笑んだ。

「約束!必ずね!新幹線なら一時間で来れちゃうしね。美月ちゃんも体調気をつけるのよ?」

美月はうんうんと涙を堪えながら頷くと、江上がそっと美月の肩を抱いた。

「美月のことは、私が責任を持って守るよ。」

「江上さん、お願いします。でも、過剰な心配はむしろ妊婦にとってストレスになるので、気をつけてくださいね?いいですね?」

思いがけない遥子からのアドバイスに、江上はちょっと驚いて苦笑した。

かつてのパートナーとしての堂々とした彼女を垣間見たようだった。

「江上さん、もしも執筆で資料集めなど困ったことがあれば、言ってください!出来る範囲でお手伝いしますから。」

土門がそう申し出ると、遥子も澄ました顔で微笑む。

「美月ちゃんに無理をさせないためにも、御用の際は、エディットTのご利用をお願い致します。」

江上は、二人のコンビネーションに思わず吹き出した。

「ありがとう。今書いてる作品が終わったら、出産に備えて少し休もうと思っているんだ。この人はとにかく言うことを聞いてくれないからね」

「妊娠は、病気ではありませんから!」

美月が江上を恨めしげに見上げると、江上は困ったように遥子と土門に目配せで助けを求めた。

背の高い江上を見上げる美月と、優しくすべてを受け入れるように見つめる江上……実に微笑ましい光景だった。


いつまでも手を振ってくれる美月を振り返りながら、遥子は土門と手を繋ぎながら坂を下って行く。

「良い人達だね。」

「えぇ、本当に。会いに来て良かった。」

「僕も、やっと肩の荷が降りたかな……」

安堵のため息と共に呟いた土門に、遥子は意地悪く笑った。

「私に隠し事が無くなって、でしょ?」

「……うん。でも、必要だったんだ、あの時は。」

遥子は、隣の土門を見つめた。

「わかってる。私を守るためでしょ?ちゃんと伝わってる…」

土門もニッコリ微笑む。

「さすが、僕の奥様だ!」

「私も、そろそろ欲しくなったかな…」

「……何をだい?」

「……二人の赤ちゃん……」

遥子の言葉を受けて、土門の歩みがピタリと止まった。

「……本当に!?」

「本当に。」

遥子は、繋いだ手を引っ張って土門を再び歩かせた。

「本も完成したし、事務所にもう一人か二人程人員増やしたら、可能よね?」

土門が横でうずうずと喜びを堪えているのがわかり、遥子はクスクス笑った。

「いつもみたいに、ヨッシャー!って言わないの?」

「……いや、なんていうか……ヨッシャー!じゃ足りない気がして…」

「変なの!でも、産むなら私はすでにマル高に入るから急がないとね!」

遥子の発した“ マル高 ”という言葉に、土門は突然現実に引き戻される。

「……江上さんの気持ちがわかる気がする……」

「ん?何がわかるの?」

「だって!遥子はそれこそ妊娠したって仕事続けるだろ?なんなら、臨月まで働くって言い出し兼ねないだろ?そうなると、僕が何を言っても聞かないだろ?そしたら僕の神経はもたなくなるだろ?……」

土門は、あらゆる不安要素を並び立てると、また立ち止まった。

「……江上さん…キツイだろうなぁ……」

遥子は土門の様子に、呆れた。

「ねぇ!!」

手を離し、両手を自分の腰に当てて

「いい加減にしなさい!私は、子供が欲しいって言っただけでしょ?まだ妊娠したわけでもないのに、何の心配しているの!?」

土門は、遥子に叱られて、苦笑いしながら頭を掻いた。

「……ごめん。」


「ねぇ?龍也さん、遥子さんと土門さん、なんか喧嘩してない?」

タクシーに乗り込むまではと、二人を見送っていた美月が江上を見上げた。

「なんか、遥子さんが土門さんに怒ってるみたい……」

「だろうね。まぁ、いいコンビじゃないか?自然体で、息も合ってて、お互いを想い合ってる。」

美月は大きく頷くと微笑みながら江上の腕に腕を絡めた。

「私達も負けないくらい、想い合ってるけどね!」

「負けないくらい、ではなくて、そこは僕達の方が勝ってるよ。」

しれっと言った江上に、美月はふふふと笑った。

「貴方の負けず嫌いも好きなところの一つよ!」

そして、ようやくタクシーに乗り込んだ遥子と土門に再び大きく手を振った。

「これからは、いつでも会えるわよね……いつか、ではなく…」

「……長い付き合いになるよ、きっと。」

江上と美月は、お互いを見つめ合いながら嬉しそうに微笑んだ。

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