初めてのサボタージュ
彼女との通学を始めて1週間くらいが経ったある日のことだ。あと少しで夏休みが始まろうとしていた。
改札を抜け駅の階段を降りると、ホームにはベンチが等間隔に並ぶ。彼女はいつも同じベンチに座っている。僕に気づくと手を挙げ声をかけてきた。
「おいっすー」
軽い。ただその一言につきる挨拶だった。
「おいっすー」
僕も適当に挨拶を返した。
彼女の隣に座ると僕は、ポケットから昨夜書いた手紙を差し出した。
「てんきゅー。はいコレ」
彼女は受け取ると自分が書いてきた手紙を差し出す。僕が手紙を無言で受け取ろうとすると、手紙を掴んだ手を
「親しき仲にも礼儀あり、だよ? 君はもっと私に感謝すべきだ」
なるほど、今日は高飛車な感じか。ふむ、悪くない。
「またバカなこと考えてたでしょ?」
目を細め僕を睨んできた彼女は、僕が作ったわずかな間から名探偵さながらの推理で真実を導きだした。
「な、なんのことだね。ありがとうございます」
僕は感謝を告げ、彼女から手紙をもぎ取った。
手紙を交換してしばらく他愛もない会話をしていると電車が到着する。乗り込み2人で並んで座ると彼女からあるお願いをされた。
「ねえ、肩貸してくんない? 昨日あんまり寝てなくてさ」
期末テスト悪かったのかな? 追試の勉強だったりするのだろうか。
「勉強?」
「ううん、違う。たまにあるんだよね……眠れなくなること」
急にまとった
なにか言葉をかけようと考えていると、肩に心地よい重みと温もりが伝う。言葉は存在していないのに、今僕は君をどうしようもなく愛おしく思っている。
君の陰りを感じる度、僕の胸は締め付けられる。どうすれば君の力になれるのか僕にはわからず、君のことをもっと知りたいと強く思った。
そんなことを考えながら、僕らはしばらく電車に揺られた。
次は彼女の学校がある駅だ。
だけど僕が彼女を起こすことはなかった。
[つづく]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます