第170話 閑話 ドッキリ生存報告

 アンジェリカは普段のようなカジュアルな戦闘用の装いではなく、ピッチリとした正装でユーティリスを訪れていた。


 その目的はルーミアの墓で手を合わせることと、残されたリリスが自暴自棄になっていないか確認するため。


 アンジェリカはルーミアを気に入っていた。無邪気に慕ってくれる彼女のことをかわいい妹分のように思っていた。

 そんな彼女との思い出がもう紡がれることはないのだと思うと受け入れないない気持ちもあるが、冒険者として長く活動していると親しい者との別れも珍しいものではない。


「さて……リリスの家を聞いておくのを忘れてしまったな。魔力感知で探すか……」


 また尋ねると約束はしたものの、肝心の場所を聞くのを失念していた。そのことに気付いたアンジェリカは一度冒険者ギルドを覗いてみたいが、案の定そこにリリスの姿はなかった。


 リリスもまた親しい者を失った悲しみに暮れている真っ最中だ。仕事のことを忘れて、心を癒す時間も必要だろう。


 そう納得したアンジェリカは以前のようにリリスの魔力反応を頼りに、彼女の位置を突き止めようとした。家にいればそれでよし、そうでなくても場所さえ分かれば会いに行くことができる。


 アンジェリカは立ち止まり、魔力を練り上げて、広域に押し出すように広げていく。

 しばらくして、リリスの魔力反応は見つかった。しかし、アンジェリカのあまり動かない表情が困惑に染る。


「……なんだ、この有り得ないほどバカでかい魔力反応は……」


 リリスの魔力反応のすぐ近くに見知った魔力反応がある。それに気付いたアンジェリカは、すぐさまそこに向かって走り出した。


 ◆


 駆けること数分。

 逸る気持ちが戦闘ですらないのに、無意識で加速魔法を解禁していた。


 目的の魔力反応がある家に辿り着き、不安になったアンジェリカは再度魔力感知を行うが、そこにリリスがいることは間違いない。


「私は知らない……。こんな膨大な魔力の反応を持つ者はあいつしか知らない」


 やはり、巨大な魔力反応はそこに存在する。これほど膨大な魔力量の持ち主をアンジェリカは他に知らない。


 恐る恐る、扉を叩く。しばらくして、足音が聞こえ、扉が開くと……リリスがいた。

 しかし、アンジェリカはまたしても動揺した。リリスの頭にある二つの髪飾りと、黒いカチューシャ風のリボン。まるで形見だと言わんばかりに主張するアクセサリーが、アンジェリカの予想を裏切ったのだ。


「あ、こんにちは。こちらにいらしてたんですね」


「突然尋ねてすまない。その……大丈夫か?」


「気にかけてくださりありがとうございます。私はもう大丈夫ですよ」


 王都で見送った時とは違い、リリスの顔色もいい。痩せ我慢などではなく、本当に問題ないのだと感じられる笑顔。これにはアンジェリカもホッと胸をなでおろした。


「せっかく遠くから来ていただきましたし、よければ上がっていってください」


「あ、ああ。では、お言葉に甘えさせてもらおうか」


 言葉に迷っているうちにリリスに招かれることになったアンジェリカ。

 答え合わせの時間がやってきて緊張が走る。


「あ、アンジェさんじゃないですか。どうしたんですか?」


「……リリス。一応聞いておくがアレは本物か?」


「はい、正真正銘故人のルーミアさんですよ」


「重ねて確認だが、リリスがネクロマンサー的な何かに目覚めて蘇らせたとかではないよな?」


「勝手に蘇ってきたので私は何もしてませんよ」


「……そうか」


 居間に通されるとさも当たり前のように声をかけられる。それは、今墓の下で眠っていると思っていた少女――ルーミアだった。


 ぎこちない動きでリリスへと顔を向け、呑気にヘラヘラしているルーミアを指さして確認を取る。

 やはり、魔力反応が示していたとおり、この少女は正真正銘ルーミアだった。


 アンジェリカは大きなため息を吐くと、ルーミアへと近付く。


「お前……生きてるなら報告ぐらいしろー!!!!」


「あいたっ」


 そして、怒号と共に拳骨を落とした。

 ルーミアは悲鳴をあげて、頭を抑えて涙目になる。それを眺めていたリリスはクスクスと笑っていて、それが無性に腹立たしかったアンジェリカは、ルーミアに追撃の拳骨を落とすのだった。

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