怪人ニシキの共同調理 2

 ニシキの告白前後でニノマエはだいぶ労を取った、むしろ今も進行形で取っているのだが、その過程でなにやら認識の齟齬があったのか、若干恐れを抱かれている節がある。

 身長180cmを越える長身で筋骨隆々。髪は真っ赤に染められジェルでガチガチに逆立っている。声も大きくテンションも高めな彼を誰が呼んだか怪人ニシキ。

 一方のニノマエは出るところはかなり主張が激しいものの身長140cmそこそこの小柄。黒髪をヘアバンドでぴっちりと後ろに流し、丸眼鏡の向こうに見える鋭い目は性根の生真面目さを物語っている。

 なにもかも対照的なふたりは生徒会長とは別の意味で生徒会名物となりつつある。一見軽薄そうな副会長が後輩の書記に恐れをなしている絵面はなかなかシュールだ。まあ、その辺り人間関係の妙といえよう。


「なにか、言いましたか?」


「イエ、ナンデモナイデス」


 ニシキの声がスッと小さくなりニカイドウがクスクスと笑う。


「ともあれ会議を始めよう。といっても学校関係の議題は無いのだけれども」


「無いんですか」


「無いねえ」


「じゃあ私は切りますのであとはおふたりだけでごゆっくり」


「まあまあ待ちたまえよニノマエさん。三者以上での通話を実施してレポートを提出するって先生に約束してるんだ。これはれっきとした生徒会活動だよ」


 ニカイドウが無表情にアプリを切ろうとするニノマエを制する。生徒会活動と言われてはニノマエも嫌とは言えず渋々頷いた。


「仕方ありませんね。でも本当になにをするんです?」


「まあ俺はこのままダベっててもいいけどなーどうせ暇だし」


 家でゴロゴロしてるくらいならウェブカメラ越しでも女の子と会ってたほうがまだしも有意義だ。

 しかし実際のところこうやってダベっていてもレポートが書けるとは思えない。それはニシキもわかっている。まあしかしこういうときなにも考えてこないニカイドウ生徒会長ではない。はずだ。たぶん。

 そんなちょっと願うような気持ちを込めて画面向こうのニカイドウへ視線を向けると、彼女はもちろん承知ですともとでもいわんばかりの自信満々の顔で頷いた。


「キミたち、最近飲食業界の不振で食材が余ってるって話を聞いたことがないかい?」


「あー、あるような」


「ありますね」


「その手の話はネット通販が一般的だが、市場や業務用スーパーなどを見てみると、確かに『なんとこの商品がこんなお値段で!』と思うような値段で並んでいるんだ。そこで今日は」


 どん、と机の下から大きなパックを持ち上げてカメラの前に置くニカイドウ。


「この、尾かしら付きの真鯛40cm1.6kgを調理したいと思います!」


「「なんで?」」


 期せずしてニシキとニノマエがハモった。

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