怪人ニシキの相組逢瀬 3
「静かにっ!静かにお願いしますお客様ぁっ!!」
ニシキのトーンを落とし切った悲鳴のような静止に呻いて声を飲み込むニノマエ。
「嫌ですよなにバカなこと言ってるんですかっていうか私に彼氏がいるって生徒会長に言ったんですかこのおしゃべり派手逆毛男」
「え、いやだって特に口止め無かったし」
「ぐうううう」
「お、立派なぐうの音が」
「殴りたい」
「ごめんて」
恨みがましい目でニシキを睨んだところで後の祭りだ。気分を切り替えていこう。
「もういいです。まったく、出来れば隠しておきたかったんですが」
「え、なんで」
「先輩だって私に彼氏なんていないと思ってたでしょう?そういう女が誰かと付き合ってるなんて知れるとうっとうしい連中が湧いてくるんですよ」
神経質そうな細い眉と鋭い目付きに長い黒髪をぴっちりとヘアバンドで上げた髪型。身長140cm台とかなりの小柄ではあったが性格は見たままキツくて生真面目。
親しい友達はおらず部活にも入らず生徒会活動だけ熱心な委員長系女子に彼氏がいると知れば一目見ようと野次馬根性を出してくる人間は必ず現れる。
「あーまーわかるねー野次馬側としてはっていうか俺もニノマエちゃんの彼氏めっちゃ興味あるし」
ニノマエの目がスっと座った。手元に開いていたノートを静かに閉じる。
「そうでしょうともシネこの話はこれで終わりですデート頑張ってクタバレください」
「ところどころ本音が漏れてるっていうか待って!ごめんなさい待ってぇぇぇぇえっ!」
テキパキと荷物を片付けすっと立ち上がったニノマエは、今まで椅子に座っていた彼女に合わせて屈んでいたニシキをそのまま見下ろす。その表情はまさに
「え、えっと…あの…ですね…」
ニシキは怒りを抑え込むように組んでいる彼女の腕の上に載っているモノの圧倒的インパクトに一瞬目を奪われたが、ここで態度と言葉選びを間違うと終わる。本能がそれを感じていた。全身から嫌な汗が噴き出す。
「ごめんひとのプライベートを軽率に喋り過ぎた」
目先の怒らせた原因より元を叩こう。拝むように手を合わせて屈んだ姿勢からさらにひとつ頭を下げる。
少しの間があって、頭上で大きなため息が聞こえた。
「こんなことで怒っても仕方ないですし、とりあえず脇に置いておきましょう」
「へへえありがとうごぜぇやす恩に着ます」
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