第三章 その五 シロちゃん
川のほとりのベンチ、鳴神と私。そして少し離れた所に首だけの老人が並ぶ。
「早く帰りてぇんだけどなー。」
黙れ鳴神。すみません、ひょっとしてなんですけど昨日コンビニで、その、亡くなられた方ですよね?と、私は老人に問いかけた。
「・・・分からないんです。気が付いたら、身体が無くて・・・。」
老人は焦点の合わない目でふわふわと答える。私の時と似ている、自分が死んだ時の記憶が無いのか。お名前は、憶えてらっしゃいますか?
「・・・名前・・・、シロ、シロちゃん、だと思います。」
「あ?シロちゃん?」
その名に鳴神が反応した。『シロちゃん』リナッパの言葉にあった名だ。そして失踪中のコマルの祖父の名も『シロウ』。これらは同一人物でこの人の事なのだろうか。
「あと何か憶えてる事無ぇのかよ爺さん。フルネームとかよ。アンタに色々聞けたらこっちゃ明日っから楽になんだけどなぁ。」
言い方!!すみません、無礼な奴で。多分今の状況を把握するのはなかなか難しいとは思いますが、我々で力になれる事があるかもしれません。何か少しでも情報があるといいのですが。
「・・・すみません。シロちゃん、と、皆に呼ばれていたのは、何となく憶えているんですが・・・。後は、んん・・・。なんだか、そちらの方の声を聞くと、苦しくなって・・・。」
「あ?なんだジジイ、それが助けてもらおうって奴の態度か?」
と、鳴神がシロちゃんと名乗る首の老人に少し近づいた瞬間、老人の顔にまるで映りの悪いテレビ画面の様なノイズが走った。
ダメだ!死んだばかりの彼には今の鳴神のパワーは悪影響だ!下がれ鳴神!!
「あ?なんだ坂田まで・・・ってオイ!!」
言うや否や、首の老人は口をパクパクとさせながら薄くなって行き、次第にそのまま消えてしまった。何て事だ、貴重な被害者が。彼がリナッパの言うシロちゃんだったのか、そしてコマルの祖父『中田史郎』その人だったのか。状況から見て先の事件の被害者には間違い無い、そして今目の前で消滅してしまったのは鳴神の力によるものか、はたまた別の要因があったのか。
どちらにしろ人間の捜査官には決して出来ない『死んだ被害者からの事情聴取』と言う機会はあっさりと失われてしまった。
しかし私と鳴神の耳にかすかに届いた彼の最期の言葉は、悲しく、奇怪な叫びの声だった。
「つ・・・爪が、怖いよぉ。」
既に死んでいる私ですら、その声と消えゆく老人の表情に背筋が凍る思いがした。
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