第63話 星暦551年 赤の月 9日 呪と再会
時折、裏からの依頼で俺はちょっとしたバイトをしている。
魔術の場合もあるし、呪術の場合もある。
流石に術でない完全な呪いはちょっと手に余るんだけどさ。
術として構築されたモノっていうのは手を加えてその構造を崩すと術が壊れるから、実は解除しやすい。
その代わり解除するまでの威力も高いんだけどね。
これが呪いだと・・・。
難しい。
呪いとは、誰かの怒りとか恨みとかが何かに染み付き、変質して悪影響を周りにもたらすようになったモノだ。構造も何も無く、単なる『呪ってやる』という想いのみ・・の力。
だからこそ、これを解除しようと思ったらその想いを払い除けなければならず・・・これには魔術ではない異種の才能が必要だと思う。
呪いも呪術も魔術も、人を害する様な術は当然違法だ。
なので基本的に裏社会経由で依頼する事になる。すると解除も出来ると思うらしく、そちらの依頼も時折
少なくとも俺は呪いを掛ける依頼は受けないが、呪術や魔術の
呪いは俺の手には負えないが、それ以外の不都合な魔術や呪術を解除するのは俺に合った技術で、中々割りのいいバイトにもなる。それ程需要は無いけどね。
(ちなみに、呪術って魔術じゃない、物理的でない力を使った術のことを指す。大抵は古代文明の術のことが多い。西の方の別大陸の術のことも呪術と呼ばれているけど。)
で、どうして物に
防犯か、八つ当たりかといったところかな。
大切な家具とか絵画とか装飾品に『盗んだ人間の健康障害を起こす』とか『手の感覚が遠くなり、物を落としやすくなる』といった術をかけることもある。そう言う術がかかっていると分かっていたらその家のモノを態々盗まないだろう。
ま、これをやるのはかなり変わりモノの金持ちだね。
八つ当たりは魔術師が多いかな。
何かの理由で破産したり、経済状態が悪化して自分の大切にしていたモノを売らなければならなくなったりした時に、『XXのせいだ』って人のせいにするタイプの人間が、自分の手元を離れるモノに悪意の籠った術をかける訳。
はっきり言って、幼稚だ。
とは言っても防犯だったら変な
性格破綻した魔術師って裏社会の違法な依頼を断らない事が多いんで、意外と経済的には破綻しないんだよね。
だから術が掛けられる事ってあまりないと思う。
とは言え。
こういう術って悪意を向けられた人間の生体エネルギーとかを使って術の魔力を補充するタイプが多いから、一度かけられたら誰かが解除しない限り効果を発揮し続けるんだよね。
しかも大抵かける対象ってそれなりに価値のあるモノであることが多いから、破棄されることが少ない。だってさ、折角買った宝石がそれをつけるようになってから具合が悪くなって社交界に出歩けなくなったとしても、その宝石を捨てるよりは誰かにあげるか、売るでしょ?
つまり、価値のあるモノに掛けられた術って魔力切れを起こさない限り、かなり長い間流通し続ける訳。
だから『呪われている』って噂されている物とか、『没落したソレガシ家のナニソレ』って言うような曰くつきのものって呪術をかけられた物が意外と多いのだが、そんな術が掛けられていることに気がつかないオーナーも多い。
『最近どうも体の調子が悪い』とか、『ここのところイマイチ運が悪いなぁ』と思っている人は沢山いても、いつからその状況が起きているのかはっきり認識している人は少なく、またその頃に何か買っていたかを憶えている人は更に少ない。
まあ、露骨に怪しげなものを買っていたら思いつくのだろうけど。
魔力があれば自分の眼で術が視えるかもしれないが、大多数の人は魔術の才能なんて無い。
だから呪の解除に対する依頼って言うのはあまりない。
でも、たまにはある。
そして対象物を壊さずに解除できる人間はあまりいない。
ということで俺の出番になる。需要と供給の関係から、かなり良い報酬を貰えるんだよね。
ふふふ~。
今晩は、久しぶりに
とある貴族が少し怪しげな方法で手に入れた絵画が、『もしかしたら
一応、『違法に入手されたことが証明できちゃう物には手を出さない』と言ってあるので、多分怪しげな方法と言っても辛うじて合法的な手段で入手したものだと思う。
だが、魔術院とか魔術学院の方へ相談しなかったことを考えたらあまり表だって入手したことを発表できないモノなんだろうけど。
と言うことで、今晩は
◆◆◆
相手としては『
長としてはギルドの隠れ家に外部の人間を呼ぶなんて問題外。しかも呪がかかっているかもしれない怪しげなものを持ちこませて自分まで被害を受けても困る。
ということで、長に会いに行ったら、倉庫街へ行くように指示された。
で。
倉庫にたどり着き、いつも通り壁を登って上からそっと中を覗き・・・驚いた。
「お久しぶり・・・でもないか。最近いかがお過ごしですか?」
ドアを開けて挨拶した。
「ウィル??!」
所在無げに周りを見回していたダレン・ガイフォードが俺を見て驚いたように声を上げた。
「お前が
なんじゃそりゃ。
「解除名人って・・・。何ですか、それ」
ダレンが肩をすくめる。
「長がね。『呪の解除に関しては魔術院にも彼以上の腕を持つ人間はいない』と自慢していたんだ」
そりゃまた大きく出たもんだね。
「魔術院の人員よりも優れているなんて公言したこと有りませんよ、俺は。
術の解除は得意ですけどね。
それより、なんでここに?ガイフォード家が魔術院に持ち込めないような怪しげな買い物をするとも思いにくいんですが」
何といっても武道一筋で有名な家系だ。
例え怪しげなものを買ったとしても、魔術院に持ち込めないとすら思いつかないんじゃないのか?
「・・・はるか昔に王家を助けてガイフォード家を貴族に成らしめた総領が注文した肖像画なんだよ。
本人が術をかけさせたとしても、誰かがガイフォード家の本館に忍び込んでそんな術をかけたにせよ、あまり世間に知らせたいようなことではないからな。
らちが明かなければ魔術院に行くが、先に非公式な伝手で何とかならないか、試すことにしたんだ」
ダレンがため息をつきながら答えた。
俺が何で
世の中、思っていたよりも裏と表に繋がりがあるようだなぁ。
「何でその肖像画が怪しいと思ったんです?」
部屋の後ろの壁に立てかけてある肖像画に近づきながらダレンに尋ねた。
大きなカンバスをいっぱいに使って軍馬に乗り、戦場をかけている男性の姿が描かれている。
確かに術がかかっているのが微かに視えるが・・・普通の魔術師でもそれが普通の固定化の術ではなく呪であると分かる人間は少ないだろう。
「ガイフォード家の人間は非常に健康で、エネルギーにあふれている。
だが、怪我をしたり年をとって一線を引いた後はかなり早く死ぬ人間が多い。
不思議な事に、田舎に引き払って暮らすとそうでもない。
まあ、軍と国に身を捧げるのが俺たちの生き方だからな。それが出来なくなった時に失意で弱まるのが早いのは不思議ではないし、ある意味救いだと思って誰も気にしていなかったのだが・・・。
先日、傷を負って養生中の従兄弟が風邪をひいた。やっと風邪が治って下に降りてきたら、その絵から変な術が発現して、彼の生命力を吸い取ったように視えたんだ。
気のせいかと思ったのだがその後彼の容体が悪化してね。
もしかしたらと思って兄の友人のツテを頼ってみた訳だ」
ダレンがため息をつきながら説明した。
「その従兄弟さん、まだ弱っています?術が発現している間の方が解除しやすいんですよ」
発現していなくても、出来なくはないが必要な労力がぐっと上がる。
ダレンが頷いた。
「ガイフォード家でそんな変なことが起きていると知られたくなかったから態々ここを指定したのだが、相手が顔見知りとあっては隠してもしょうがない。
本家に戻ろう」
ガイフォード家の本家か。
従兄弟まで一緒に住んでいるとは一体どれだけの大世帯になっているのか知らないが、面白そうだ。
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