4-7

 雰囲気からするとタバナたち一行は、まだナコクに到着してないようだ。一個部隊だから、移動に時間がかかるのかな。

 皆のバテてる空気を感じる。まだ暑いもんね。現代の40℃とかいう狂った暑さじゃないけど。暑さだけじゃない、長旅の疲れもあるんだろう。

 現代みたいに車や飛行機、ないしねぇ。


 そんなことを思いながら、タバナらしき気配に向かって空を飛んでいると、平原の向こうに海が見えてきた。たゆたう、キラキラ光る鏡のような水面……。

 え?

 ナコクって、海の向こうなの?!

 驚いたけど、近付くとうっすら向こう岸があるのが見えてきた。半島? いや……これ、でっかい湖……か?

 舐められたら分かるんだけどな、幽体じゃ無理だ。匂いもない。風を感じるって思ってたけど、やっぱり実体じゃないんだなぁ。

 湖の上を飛び、向こう岸を目指す。途中に島みたいなのもあるけど、やっぱり半島なのかな。空から見る世界は大きくて果てしなくて、すごく自分がちっぽけだなぁって、逆に清々しい気持ちになる。これから、一波乱あるかも知れないのに。

 しばらく飛んだら、すぐ向こう岸が見えてきた。とはいえ海ひとつ超えた気分だ。

 まさかナコクって、韓国とか台湾とかなのかな。ってか、ここが日本なのかどうかも、まだ本当は疑わしい訳だけど……もう確認するすべがないから、日本ってことで良いかな。クニはヤマタイだし、私はヒミコだし。


 タバナが何を考えてるのか、私のことどう思ってるのかって、そわそわしてる自分がいる。そういう時の自分は嫌い。自分のことしか考えてない。

 でも嫌いなのに、ヒタオのこと悲しんでるはずなのに、やっぱりまた独りよがりループに陥ってる。私の感情じゃない、カラナの怨念だと思いたい。

 なのに、遠くにポツンとタバナたちらしき一行が見えただけで、泣きそうになるほど胸が締め付けられる。疲れきってる、重い空気。そりゃそうだ、行きたくないもの行かされてりゃ誰だって嫌だ。

 会いたかった。顔が見たかった。笑顔が見たい。

 願わくは、私に笑いかけて。

 私を好きだと言って。

 抱きしめて。


『タバナ!』

 幽体なので生の声じゃない。現代風に言うならテレパシーかな。

 気を取り直して引き締めて、業務用の顔をした。顔の判別ができるぐらいまで近づいてから、声をかけてみた。聞こえるかな。見えるかな。今の私の姿。

 タバナが、しきりに顔を動かした。

 キョロキョロしてる。

 私を探してるんだ。

 ここだよ、上だよ。

『タバナ。頭上だよ』

『ミコ様?!』

 タバナも、声のない声。頭に直接話しかけられたものだ。最初こそキョロキョロしてたけど、私がいると分かったらか、逆に前を向いちゃって、顔を上げなくなってしまった。分かったんだよね?

「タバナ様、いかがなされました?!」

 隊の人が、タバナに話しかけた。あの人には私の声も届いてないみたい。

 タバナが馬上から叫ぶ。

「何でもない! 羽虫がわずらわしかったのだ!」

 虫? え。私、虫?

『タバナ?』

 すると、やっとタバナの気配が私を向いた。とはいえ顔はこちらに向かない。前に行かないとダメかな。まとわり付いちゃうか、虫みたいに。


 タバナの空気が和らいでくれた。

『前を向いたまま話します。ミコ様のお姿は、我らに見えませぬ』

 あ、そうか。幽体だからか。

『気配を察したのは私だけかと。ですのでミコ様も、皆に気取られぬようなさいませ。ミコ様がいらっしゃると分かれば、大事おおごとです』

 そうなの? まぁ、そうか。普段、お社から出てこないんだもんね。

 私が分からないってことは、ツウリキ持ってる人はここにはいない、ってことだ。もう少し、他の皆も大なり小なりは持ってるかと思ってたけど、どうやらツウリキって、思った以上に希少価値が高い。

 ってことは多分、オサも持ってない。あんなに怯えたし。社に出入りしてくれてる女の子たちも皆、使ってるトコは見たことないから、持ってないんだろう。

 ヒタオのツウリキだって、あれは臨終直前の、命を燃やしたような使い方だった。

 タバナは使えるし、キヒリみたいな子もいたもんだから、メジャーなんだと誤解しちゃうけど。ツウリキ持ってるヒミコ様は、すごい存在なんだ。


 今さらだけど、どうして私なんかがミコ様になっちゃったのか、ものすごく疑問だ。


 特別な力とかなかったし、前世が見えたとかもない、運動音痴で、成績も中の中、あ、補習の勉強してたんじゃなかったっけ、私?

 敷いて言えば家庭環境は少しだけ特殊だったかも? だけど……再婚の連れ子だなんて、今の時代じゃ平凡すぎて、お昼のドラマにすらならない。

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