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雨乞いという一大イベントが終わったら、また元の日々だ。あれで水は足りたのか、お呼びはかからず済んでいる。
ただ、祈祷前と変わったのは、タバナの訪問が増えたことだった。どうやら洞窟でのツウリキと雨乞いの祈祷、続けて成功させたおかげで、オサの私に対する態度が軟化したみたい?
タバナが言う。
「私はミコ様の、いや、カラナの言葉を、ムラに伝える取り次ぎ役でもあります」
つまりタバナを私に会わせないと困るのは、オサのほうだってことだ。伝えた言葉を鵜呑みにするのかは別の話だけど、少なくとも出入りはさせないと周囲の目もあるから……ってことらしい。
「占いかぁ。なるほどね」
うん、なんか卑弥呼って、そんなことする人だって教科書に書いてあった気がするわ。
とはいえ占いの仕方も分からないし、どんな言葉を出せば良いのやら? 求められているものが分からないけど。
現代で占いって言ったら、将来のこととか結婚運、金銭運……お祭とかで占うなら、今年は豊作か、みたいな?
「ミコ様は朝夕となく受託なさりました」
タバナの訪問自体は午後がデフォルトだけど、朝いきなり呼び出されることもあったとか? カラナ、自由だな。
普段のカラナは、ヒタオたちから受ける朝の沐浴と朝ご飯が済んだら、祭壇に座ってジッとしているんだとか。特に儀式らしきものは何もなく、ただ『降りて』来るのを待つのだとか? 受託つーか、ご神託つーか。
しかも毎日ではなく、受託があれば伝えるってだけで、法則性はない。まったく受託がないと数日とか平気で空くそうで、それは、そういうもんだと認識されているらしい。
何かミコ様、めっちゃ楽な暮らしだな。
毎日、雨乞いレベルの集中しないといけないのかと思ったわ。とはいえ、あまりにも受託がないと、またオサから"役立たず"レッテル貼られて、洞窟に放り込まれるのかも知れないけど。
雨乞いが終わってから何日も経ったけど、受託とやらは来そうにない。
タバナの教育は、今も続けてくれている。段々知識が深く広くなってくから、ついて行けない時があるけど。日本史とか嫌いだったもん。
でも今のところは面白い。自分の生活に直結してるからだね。いざとなったら、私が戦争の指揮を執らなきゃいけないとか言われたら、他人事じゃいられない。
このヤマタイは、
そんなの統治しろって言われたら、そりゃ逃げたくもなるかもな。
他国に攻め入られる場合もある。
「ヤマタイだけが国ではありません。周囲にはシナノハラ、ナコク、トバヤナイと各面々がクニを成しており、領土、物資と取り合う
タバナから説明を受けている時だった。
「あ」
他国の名前を聞いた途端に、自分の何かが弾けた。カラナの記憶が刺激された。
脳内に名前が浮かんだのだ。
「キヒリ……」
不思議な名前だ。絶対、現代で聞いたヤツじゃない。
カラナの記憶から出てきた名前だ。多分。
でも、どこの誰なのか、さっぱり分からない。
私の呟きを聴いたタバナにも心当たりはないらしく、怪訝な顔をしている。
「それは……ご神託で?」
「だとしても、どうしようもないよね」
思わず苦笑した。こんな言葉ひとつ持ち帰っても、タバナの立場もないんじゃないか。あの嫌味顔に叱られそうだ。
「違うと思う。落ちてきたってより、思い出したって感じだったから。他のクニの名前を聞いて思い出したから、どっか、その辺のヤツじゃないかな」
私が喋るのに合わせて、タバナが段々眉間にしわを寄せた。一緒に考えこんでくれたのかと思ったら、そうじゃなかった。
「ミコ様たる御方の話しぶりとして、感心できぬ口ぶりですぞ」
そっち?!
私は口を尖らせた。
「皆の前では、きちんとやるよ。でもタバナとヒタオにだけは、素でいさせてよ」
疲れるもん。
ヒタオは、私を受け入れて甘やかしてくれるもんねーだ。
タバナがため息をついた。
「有事の際ほど、普段の行ないが現われてしまいます。常日頃よりミコ様たる立ち居振る舞いをなさって頂くことが、ひいてはミコ様のためでもあられるかと」
はいはい。
「ではタバナ、今しがた
「……御意に」
タバナは何か言いたそうな、不満げな顔をしたけど、もう知らん。これが精一杯です。
命じた内容は思いつきだったけど、結構いい線ついてるんじゃないかな。もしかしたら「キヒリ」が、カラナが消えたことと関係があるのかも知れないし、それをオサが知っているとなれば、他国の名前を知ってるなんて、きな臭いことありそうだもんね。
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