第33話

 ここ最近、学園ではこんな噂が流れるようになっていた。


 曰く「バレットが婚約者であるビビアンを蔑ろにして、アマンダと浮気を重ねている」曰く「ビビアンを気の毒に思って慰めていたライオス王子を、バレットが嫉妬してあること無いこと噂しまくっている」曰く「バレットはビビアンをキープしつつアマンダとの二股を掛けている最低男、クズである」などなど。


 最初の一つ以外、バレットには全く心当たりがないことなので、周りでコソコソと噂される度にバレットは戸惑うばかりだった。


 そんな噂を誰が流しているのか不明だが、噂のせいでバレットに近付く者は誰も居なくなってしまった。バレットは常に教室で一人寂しく過ごしていた。


 とは言っても、元々バレットには友達と呼べるような子息子女は一人も居なかった。筆頭公爵家としてバレットに媚びへつらうヤツらは大勢居たが、そんな連中は噂が流れた途端、潮が引くように居なくなってしまった。


 ビビアンとは相変わらず会話することさえままならない状態が続いていて、最近はビビアンの姿を遠目に見ることしか出来ていない。


 それに加えてこの噂である。これが父親の耳に入ったりしたら、またお小言を食らうだろう。それだけならまだしも、ビビアンとの婚約を解消すると言い出すかも知れない。


 バレットは噂の元を辿るべく、一人動き出した。


「やっぱり一番怪しいのはあの女だよな...」


 そう、以前流れた噂と酷似している。違うのはビビアンの所がバレットになっていることぐらいだ。


 となれば前回同様アマンダが噂を流していると見るのが妥当な線だろう。そう思ってアマンダを問い詰めようとアマンダのクラスに向かったが、


「えっ!? 休み!?」


「はい、なんでも流行り病とかで。ずっと休んでますよ。ご存知なかったんですか?」


「知らなかった...」


 そう言えば最近、アマンダがストーカーしてなかったなと思い出す。休んでいたなら当然か。


「クソッ! 一体どうなっているんだ!?」


 アマンダじゃないとしたら、噂を流している犯人の見当がつかない。バレットは頭を抱えた。


 そんなバレットの姿を物陰から覗いている人影が一つ。その人影はバレットが居なくなると、ほくそ笑みながら新しい噂を嬉々として流し始める。


 曰く「バレットはビビアンと別れてアマンダを選ぶらしい」と。


 その噂は瞬く間に学園中に広まって行った。バレットは居た堪れず学園を休むしかなくなってしまった。


 こうしてアマンダに続いてバレットまでもが学園を休むようになると、またしても新しい噂が飛び交うようになった。




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