第22話

 ここ最近、学園ではこんな噂が流れるようになっていた。


 曰く「ビビアンが婚約者であるバレットを蔑ろにして、ライオス王子と浮気を重ねている」曰く「バレットを気の毒に思って慰めていたアマンダを、ビビアンが嫉妬して虐めている」曰く「ビビアンはバレットとライオス王子の二股を掛けている尻軽女、悪女である」などなど。


 最初の一つ以外、ビビアンには全く心当たりがないことなので、周りでコソコソと噂される度にビビアンは戸惑うばかりだった。


 そんな噂を誰が流しているのか不明だが、噂のせいでビビアンに近付く者は誰も居なくなってしまった。ビビアンは常に教室で一人寂しく過ごしていた。


 とは言っても、元々ビビアンには友達と呼べるような令嬢は一人も居なかった。


 実家で使用人以下の冷遇された扱いを受けていた頃、学園と家を往復するだけの単調な毎日を過ごしていたので、放課後に誰かと遊びに行ったりすることがなかった。


 社交も禁止されていたので、お茶会や舞踏会に参加することもなかった。そんなんで友達が出来るはずもなく、ビビアンはずっとぼっちだった。


 だからぼっちには慣れているのでそんなに苦にはならないが、謂われなき噂を流されることに関しては心を痛めていた。そんな毎日を過ごしていたある日のこと、


「今日はこのクラスに転校生がやって来たので紹介しよう。入って来なさい」


 朝のHRで担任の教師がそう言った。そして入って来たのは、


「どうも~♪ マチルダで~す♪ 皆さん、仲良くして下さいね~♪ キャピーン♪」


 ペロッと舌まで出してあざとい可愛い子アピールを決めたのは、ライオスの妹であり第2王女でもあるマチルダだった。


 ビビアンはビックリして開いた口が塞がらなかった。



◇◇◇



 HRが終わり、担任の教師が教室を出て行くと、ビビアンはマチルダがクラスのみんなに囲まれる前に、手を引いて人気の無い場所に連れ出した。


「ま、マチルダ様! な、なにやってんですか!? というか、いつこっちに戻って来られたんです!?」


「昨日よ。ビビには内緒にしてたけどね」


「な、なんで内緒にしたんですか!?」


「サプラ~イズ♪ ビックリしたでしょ?」


 ビビアンは「ハァッ...」と大きなため息を吐いた。そうだ。この王女は昔っからこんな感じだった。人を驚かせることに生き甲斐を感じるみたいな。そんなところがあった。


 ビビアンは「変わってないな」と心の中で思って、苦笑しながらもなんだか懐かしくて、それがとても嬉しいなと感じていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る