第3話
今度は言葉でビビアンを詰ってやろうと思ったグラントだったが、既の所で思い留まった。
以前、ビビアンを口撃した時に手酷いカウンターを食らったことを思い出したのだ。
『やっかましいわぁ! この色ボケエロ親父がぁ! 入婿の分際で正当後継者であるアタシにデケえ口叩いてんじゃねぇ! ほっぽり出されてぇのかぁ? ああん? てめえなんざアタシが家を継ぐまでのツナギでしかねぇんだ! そこんとこちゃんと分かってんのか? ああん? てめえが愛人とその娘を引っ張り込んで平気な顔してデケえ面できてんのは、全てアタシの温情に過ぎねぇってことを、その腐った脳ミソにしっかりと刻み込んでおけやぁ! 分かったかぁ! このチンカス野郎がぁ! 今度デケえ口叩きやがったら、愛人親娘ともどもこの家からおん出してやるからなぁ! 覚悟しやがれ!』
あれは堪えた...しばらく立ち直れなかった...実の娘にそこまで言われて傷付かない父親はいないだろう。
もっとも言われて当然ではあるのだが。なにせグラントは今までビビアンに対し、父親らしいことを何一つとしてやって来なかったのだから。
ビビアンの言った通りグラントは入婿であり、伯爵家の血を受け継ぐ者、つまり正当後継者はビビアンの母親であった。
二人の婚姻は政略目的であり、そこに愛は無かった。グラントはビビアンが産まれる前から外に愛人を作って浮気をしていた。
元々体の弱かったビビアンの母親は、ビビアンを産んでから次第に病気がちになって行った。そうなるとグラントはますます愛人にのめり込み、家庭を全く省みなくなって行った。
グラントの立場はあくまでもビビアンが伯爵家を継ぐまでの間の代官に過ぎない。
それなのに愛人を作ったり、実の娘と一歳しか違わない妹を産ませたりと好き放題やっていられたのは、なんのことはない、ビビアンの母親が寛大だっただけだ。
体が弱くて夫を満足させられない負い目があったからか、あるいはいずれ家督をビビアンに継がせることになれば、グラントはこの家に居辛くなるだろう。
だから、今の内にグラント自身のセカンドライフを計画しておいてもいいと思ったのか、真意の程は今となっては不明である。
そんな妻の思いを知ってか知らずか、やがてビビアンの母親が儚くなると、グラントは喜び勇んで愛人を妻に迎え娘を認知した。
まだ喪も明けていない葬儀後一ヶ月も経たない内にである。ビビアンはいきなり義母と義妹をグラントから紹介された。
ビビアンが10歳の時である。
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