カウンターが発動しちゃうんです

真理亜

第1話

「やかましいっ! 俺に指図するなぁ!」


 バレットは婚約者であるビビアンの頬を平手打ちしようと腕を振り回した。だが...


 ススッ! パチーン!


「へぶぅっ!」


 バレットの平手打ちをスルッと躱し、ビビアンの見事なカウンターパンチが顎にヒットした。バレットはもんどり打ってひっくり返った。


「はわわわっ! す、すいません! バレット様! すいません! すいません!」


 ビビアンはコメツキバッタのようにペコペコとお辞儀を繰り返して謝った。


「...あぁ、分かってる分かってる...ビビアン、お前に悪気は無い...全てはカウンタースキルの発動したせいだってことだよな?」


「は、はい...」


「分かっちゃいるけど納得いかないし、痛いもんは痛い~!」


 バレットの絶叫が辺りに轟いた。



◇◇◇



 この世界に魔法は存在しない。その代わりスキルが存在する。スキルとは生まれた時に神から授かる特殊な能力のことでギフトとも呼ばれる。


 スキルは万人に発現するものではなく、限られた者にしか発現しない。よってスキル持ちはそれだけで国から優遇される。


 スキルには様々な特殊効果を発揮するものがある。一番メジャーなのが未来視。要は予知能力だ。次が千里眼。遠見の術とも呼ばれる。要は双眼鏡か望遠鏡だ。次が鑑定。これはそのものズバリ、どんなものでも鑑定してしまう能力だ。 


 そして伯爵令嬢であるビビアンのスキルはカウンター。その名の通り、受けた攻撃をそのまま跳ね返す能力である。しかもビビアンの場合は、受けた攻撃の威力を倍返しするというオマケまで付いている。


 更に元々動体視力に優れたビビアンは、先程のように相手の攻撃をスルッと躱せるので、自分にダメージは無く相手にだけ倍返しするということになるのだ。


 納得いかないと騒ぐバレットだが、そもそも婚約者である女性に学園の廊下で手を上げる方が悪い。


 騒ぎを聞き付けて集まったオーディエンスは皆そう思っていた。


「と、とにかく! いくら婚約者だからと言って、俺の交遊関係に口を挟むな! 不愉快だ!」


「で、でもでも! バレット様とアマンダ嬢との距離感はどうみても近過ぎます! まるで恋人同士のようで...」


 アマンダとはバレットが最近親しくしている男爵令嬢のことである。


「それがどうした! アマンダは転校して来たばかりでまだ友達が居ないんだ! 俺は筆頭公爵家の一員として慣れない彼女を導いてやっているだけだ! それを変に邪推するなんてこれだから身分の低い輩は! いいか! お前なんてスキルが発現してなかったら、間違っても俺の婚約者になんかなれなかったんだぞ! いい加減、分を弁えろ! 生意気な口を利くんじゃない!」


 物理攻撃はダメと見て、バレットは口撃する方にシフトしたようだ。だがバレットは知らなかった。


 カウンターは口撃にも発動するということを。


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