2章
【スキル封印・小】①
ダンジョン、
「突きが来るぞ! メリナとココルは走れ!」
敵が錫杖をゆるやかに回すのを見て、俺は叫んだ。
直後、中ボスである象の頭を持った巨人――――デザート・ガネーシャが、深い刺突を放ってくる。ダメージ判定もある衝撃波により、周囲の砂が舞い上がった。
本来ならば後衛まで届く、パーティーの崩壊を招きかねない危険な攻撃だ。
実際、この中ボス戦で一番苦戦するポイントらしい。
だが、どうやら俺たちはうまく対処できたようだった。
ココルとメリナは退避済み。俺とテトは衝撃波でわずかにHPが減ったが、その程度だ。
ボス部屋の外から俺たちの様子をうかがっていた他の冒険者たちが、何やらざわついている。
「おい……マジかよ」
「『
「なんで今の躱せるんだ……?」
なんでも何も、事前に聞いていたからだ。
面倒がって下調べを怠る冒険者は多いが、俺は調べられる情報はできるかぎり調べておくようにしていた。
格下の中ボス相手だろうとそれは変わらない。
その時、ガネーシャが上体をかがめた。
ここから来るのは、鼻の振り回し。威力は大したことないが、砂が撒き散らされて視界が悪くなる、少々面倒な攻撃だ。
だが、その長い鼻が振り下ろされる瞬間。
テトの投剣が飛翔し、その首元に突き立った。
激しい
テトが笑いながら言った。
「おっ、やったねー。また引けたよ」
ギャラリーがさらにざわつく。
「まただ……あの盗賊おかしくないか? 投剣なんて大したダメージソースにならないのに、どうしてあんなに
「ガネーシャの弱点部位って、額の宝石だったよな。首なんかに当てて、なんで……」
部外者にとってはさぞ不思議だろう。理由は三つほどある。
まず、テトの投剣が、深層の宝箱から拾ってきた高威力のものだということ。
それから、テトは毎回、
最後に……おそらくだが、あの象の頭と人間の首との境目部分も、ガネーシャの弱点部位なのだ。
誰も気づかないようなポイントだろうと、テトにはそれがわかる。
特大ダメージによりヘイトが蓄積したのか、ガネーシャの目がメリナへ向けられる。錫杖を支えに立ち上がりながら、小柄な魔導士へと怨嗟の一歩を踏み出す。
だが直後、今度は光属性魔法の光球が頭部に着弾。それでダメージが閾値を超えたようで、再び
杖を下ろしたメリナがふと隣へ顔を向け、何気なく言う。
「あら、ありがとう」
言われたココルは、少し得意げに胸を張って答えた。
「いえ。神官なら当然です!」
ギャラリーがまたざわついている。
「やるな、あの魔導士。
「……まさか詠唱時間を計算して、ギリギリ間に合う範囲で一番威力の出る魔法を撃ったのか? だが、普通はそこまで器用なこと……」
「そ、それよりあの神官やばいですよ! 二発目の時、魔導士が詠唱開始してからすぐに属性強化バフを光に切り替えてたんです! あの人たぶん魔導士の使う呪文まで覚えてて、起句を聞いた時点で判断したんですよ! 普通あんなことできませんて!」
まあ、メリナもココルも、それくらいはやるだろうという感じだ。
魔法職のことは詳しくないが、二人とも並みの冒険者とは言えない実力を持っている。
「もう少しね……アルヴィン! あとは頼んだわ!」
「やっちゃってよ、アルヴィン!」
「アルヴィンさん!」
言われる前に、俺はすでに走り出していた。
ガネーシャの攻撃パターンが変化してから、相当時間が経つ。
敵のHPも残りわずかのはずだ。次で終わる。
「別に、自分でキルを取ることにこだわりはないが……っ」
剣を引き絞る。
使うのは、【剣術】スキルの一つ、“強撃”だ。
これはたった一撃のみではあるが、大幅に威力を上げる効果がある。
「取れるなら、取っておくかっ!」
俺は強く地を蹴り、跳躍。
そして――――弱点部位である額に嵌まった宝石に、強く剣を突き入れた。
『ブ……モゥ……』
象頭のモンスターが呻く。
そのままくずおれるように地に倒れ伏して、砂を巻き上げる。
そして次の瞬間――――
大量にドロップした宝石の中心で、歓声を上げる仲間たちへと手を振り返しながら、俺は思う。
やっぱり、この瞬間は気持ちがいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。