【嫉妬神の加護】④
「【嫉妬神の加護】……?」
聞いたことのないスキル名だった。
おそらくはココルの【首級の簒奪者】と同じくらい、珍しいスキルだろう。
メリナはうんざりしたように言う。
「このマイナススキルのせいで、私はパーティーなんて組めたものじゃないの。魔導士なのにソロなんてやってるのはそのせい。他の七つのスキルが魔導士向きだから今の職業を選んだけど、これなら死にスキルを作ってでもソロ向きの職にした方がよかったかもって思うわ」
「あの……それは、どういうスキルなんですか?」
ずっと静かに聞いていたココルが、やや身を乗り出すようにして訊ねた。
メリナは、同い年くらいの神官の少女へ目を向けると、少し気を抜いたように説明し始める。
「まず、自分自身とパーティー登録したメンバー全員の、全てのパラメーターが10%上昇するわ」
「10%!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
「は、破格すぎるだろ……。しかもパラメーター全てだなんて」
パーティーの他のメンバーのステータスを上昇させるスキルというのは、数こそ少ないがいくつか存在する。
しかし、全てのパラメーターを10%というのは聞いたことがないほどの効果だ。
たとえば、
「一体それのどこがマイナスなんだ?」
「もちろんこれだけじゃないわ。自分を含むパーティーメンバーがモンスターをキルしたら、その人のパラメーター全てが3%減少するの。ちなみにこの効果は
「……え?」
俺は、今度は呆けたような声を上げてしまった。
デバフとしては、《全ステータス減少・小》よりも小さな効果しかない。
だが……重複する?
「えっと、それじゃあ……」
「三体キルした時点で上昇分がほぼなくなるわね。四体目からはマイナスよ」
「……」
普通一回の冒険で倒すモンスターの数は、十数体から数十体といったところだ。ダンジョンやパーティーの方針によっては、百体を超えることも珍しくない。
となると、上昇効果の恩恵はすぐになくなって、あっという間にステータスは元の数値を割ってしまうことになる。
いや、それどころか。
「まさか一人で四十体くらい倒すと、
「……いえ、そもそもゼロにはならないわ。減少率の3%は元の数値じゃなくて現在値を参照するから、パラメーターが下がったらその分減少率も下がるのよ。四十体キルしても、せいぜい七割減くらいじゃないかしら」
「そ、そうか」
「それに、デバフだから時間経過で消えるしね」
だったら、そこまでひどいマイナススキルではないのかもしれない。
メリナも、それを肯定するようにうなずく。
「実際のところ、パラメーターの減少自体はそんなに問題にならないわ。戦闘に支障が出るほどステータスが下がることはまれだから」
「それなら……」
「でも結局、このスキルはパーティーをダメにするの」
押し黙る俺たちに、メリナは続ける。
「このスキルには三つ目の効果があるのよ。それはキルした人から、経験値のキルボーナスを没収すること」
「ぼ、没収? 経験値が消えてなくなるのか?」
「いいえ、なくならないわ。没収された分は、他のパーティーメンバーへ均等に分配されるの。ある意味、没収されるよりもたちが悪いわね」
「……!」
「これが二つ目の効果と合わさると、どうなると思う? 私のいるパーティーのメンバーは、誰も積極的にモンスターをキルしようとしなくなるのよ。当然よね、キルボーナスが他人に渡るうえに、ステータスまで下がるんだから」
「……」
「これはすごく危険なことなの。他人にキルさせるためにモンスターへとどめを刺さないような真似が横行して、絶対に事故に繋がる。私は所詮後衛だから、いくらステータス減少覚悟でキル数を重ねても、前衛の補助まではできないわ。パーティー崩壊の危機は何度も経験した。最終的に追い出されたこともあったし、メンバーが険悪な雰囲気になって自分から出て行ったこともあった。……これは、そういうスキルなのよ」
メリナの話を聞きながら――――俺は頭の隅に、引っかかるものがあることを感じていた。
キルボーナスが、他のパーティーメンバーへ分配される?
それなら、ひょっとすると……。
「わかった? 私はパーティーを組むべき人間じゃないの。自分もパーティーの仲間も、危ない目に遭うことになる。パーティーを組んでいないと発動しないスキルだから、ボスを倒すまではこのままソロで……」
「メ、メリナさんっ!!」
突然ココルが、メリナへと大きく身を乗り出した。
目を白黒させる魔導士の少女に、神官の少女は今までの流れを完全に無視して告げる。
「わたしたちとパーティーを組んでくれませんか!?」
――――――――――――――――――
【嫉妬神の加護】
パーティー全体の全ステータスを10%上昇させる。
自分を含むパーティーメンバーがモンスターをキルした場合、その者の全ステータスが3%減少し、経験値ボーナスがその者を除くパーティーメンバー全員に均等に分配される。
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