【首級の簒奪者】④

「あの、本当にいいんでしょうか?」


 俺の後ろをついてくるココルが、心配そうに言う。


 あの後俺は、渋るココルに頼み込み、なんとかパーティーを組んでもらった。

 そして今は、セーフポイントを出てモンスターを探しているところだ。


 ココルはなおも言う。


「さっきも言いましたけど、わたしとパーティーを組んでいると経験値のキルボーナスは絶対にもらえなくなっちゃうんですよ? それに、モンスターを倒すと発動するスキルだって……」

「いいんだ」


 俺は目だけで振り返り、ココルに答える。


「経験値なんて気にしない。ちょっと試してみたいことがあるから、今だけでも付き合ってくれないか?」

「はあ。それは構いませんけど……」

「もちろん、あんたがどうしても嫌だというのなら仕方ないが」

「嫌なんてことは……」

「ならよかった。あんたよりレベルは全然低いが、前衛は任せてくれ」

「……わかりました。後ろを警戒しておきますね。支援効果バフは必要ですか? MPには余裕がありますけど」

「いや。まだ中階層でも浅い方だし、なくても大丈夫だ」


 答えながら、俺は少し感動する。


 ああ、これだよ。やっぱりパーティーはいいな……。

 頼りにできる仲間がいるのといないのとでは安心感が違う。

 パーティーを追い出されるたび一人ソロに落ちぶれてただけに、身に沁みた。


「あっ」


 その時、後ろでココルが声を上げた。

 前方に現れた敵に、俺も目を向ける。


 黄色く丸い不定形の体。

 麻痺毒を吐くパラライズスライムだ。


 俺は大きく踏み込んで……そしてあえて、足を止めた。

 予想通りに飛びかかってきたスライムに、俺はタイミングを合わせるようにして剣を振るう。

 その剣線は、弱点部位である核にあっさりと届いた。


 HPを一撃でゼロにされたスライムが、エフェクトと共に四散する。


「わっ、上手いですね!」


 後ろでココルが声を上げた。


 雑魚モンスターと思われがちなスライムだが、弱点部位である核を叩くには意外とコツがいる。

 俺は、このように一度跳躍させる方法をよく使っていた。

 こうすると避けられないうえに、体が長く伸びて核を守る部分が薄くなる。

 まあ、できるだけパーティーの戦力になろうと編み出した工夫の一つだ。


 だが、今はそんなことどうでもよかった。


 俺は、スライムが消えた後に残ったコインやアイテムたちを呆然と眺める。


「このスライム、けっこうお金落としますよね。あ、『パラライズスライムの核石』ですよ! ラッキーでしたね」

「……いや、まだだ。まだわからない」

「ええ、何がですか?」


 頭を振って歩みを進める俺の後ろを、ココルが困惑したようについてくる。


 俺だって普通にドロップすることはある。

 これだけじゃまだ……。


 次に遭遇したのはイエローゴブリンだった。

 一匹だけだったので、滑るように距離を詰め、盾を構えられる前に首を刺し貫く。


 四散したイエローゴブリンは、またもや大量のコインやアイテムをドロップした。


「……!」

「へぇ、『イエローゴブリンの解毒薬』ですって。こんなの落とすんですね。麻痺解除用のポーションと効果は同じみたいですけど、わたし初めて見ました。珍しい」

「……い、いやまだ、もう一回……」

「アルヴィンさん? どうしたんですかぁ?」


 次に遭遇したのは、エレキスパイダーだった。

 痺れ糸を撒かれると面倒なので、これはとにかくすばやく倒す。


 小さなクモ型モンスターは、これまで以上にたくさんのアイテムをドロップした。


「ええっ、『雷玉』がありますよ!? エレキスパイダーでも落とすんですね~」


 ココルが驚いたように言った。


「ラッキーですね! アルヴィンさんって、もしかしてドロップ運いい方ですか?」

「……お、俺は……ドロップ運が、よかったのか……」

「え?」

「知らなかったんだ……俺は、今までほとんど、アイテムドロップに恵まれることがなかったから……」

「はい?」

「……ココルさん!」


 俺は思わずココルに詰め寄る。


「ひゃっ!? な、なんですか?」

「俺とパーティーを組んでくれないか!?」

「く、組んでるじゃないですか、今……」

「そうだった。なら……頼む! これからも、ずっと一緒にいてくれ!」

「……へっ?」

「あんたなしで、俺はこの先生きていける自信がないんだ」

「なっ、ななな何を言っているんですかアルヴィンさん!?」


 ココルが後ずさって目を逸らす。


「わ、わたしたちまだその、知り合ったばかりですし……」

「関係ない。あんたは俺に、すべてをさらけ出してくれたじゃないか」

「そうでしたっけ!?」

「ああ。確信をもって言える。あんたと俺の相性は最高だ。この出会いは運命だったに違いない」

「そ、そこまで言いますか!?」

「当然だ」


 俺はうなずく。

 しかし、ココルの方はというともじもじするばかりでいまいちいい反応がない。


「で、でもぉ……わたしまだ、アルヴィンさんのことよく知りませんし……」

「はっ……そうか」


 そう言えば大事なことを言い忘れていた。


「実は、俺もマイナススキル持ちなんだ」

「……へっ? そうなんですか?」

「ああ。【ドロップ率減少・特】という。あんたのと違って、あまり珍しくもないスキルだが」

「ええっ、珍しいですよ! 確かに【ドロップ率減少】系スキルはよくあるマイナススキルですけど、【小】や【中】ならともかく【特】なんて聞いたことありません! よく冒険者になりましたね!?」

「大変だったよ」


 俺は今までの苦労をかいつまんで話す。

 つい最近パーティーから追い出されたくだりを、ココルは辛そうな表情で聞いていた。


「というわけだ。こんなダンジョンに一人で潜っていたのも、結局はココルさんと同じ理由だったんだ」

「そうだったんですか、アルヴィンさんも……えへへ、お互い苦労してますね」

「本当にな」

「ん? あれ、でも……」


 と、そこで、ココルが首をかしげる。


「そんなスキルを持っている割りには、さっき普通にドロップしてませんでした?」

「そう、それなんだ。俺一人なら、アイテムどころかコインすら落とさないことの方が多い。さっきのドロップは……あんたのおかげなんだよ。ココルさん」

「え、わたしの?」

「あんたのマイナススキル【首級の簒奪者】は、パーティーメンバーがキルしたモンスターを、あんたがキルしたものとみなす。そうだったよな?」

「ええ」

「だからキルボーナスはすべてあんたに入るし……パーティーメンバーの持つ、【経験値上昇】や【ドロップ率上昇】のような、モンスターをキルした際に効果を発揮するスキルも、発動しなくなってしまう」

「はい。……ん? まさか……」

「ああ、そうみたいだ」


 俺は言う。


「発動しなくなるんだ――――俺の【ドロップ率減少・特】も。あんたとパーティーを組んでいれば、俺は……何のマイナスもない、普通の剣士でいられる」

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