第38話 鬼頭との決着

 4人の不良がワゴン車から降りてきた時、俺はすぐにスマホを取り出した。

 その画面には、先程連絡先を交換したばかりの極悪院先輩の連絡先が表示されており、ワンタッチで電話が掛けられる状態となっていたのだ。


「スマホをしまえ! サツには絶対通報すんなよ! さもねえと……分かってんな……?」


「1、鬼頭に従い、スマホをしまう(警察への通報不可)」


 災厄覚悟で通報することも考えたが、さらに状況を悪化させる恐れがある。

 警察への通報は、あきらめるしかなかった。


 しかも、ひまりが人質に取られている以上、俺は抵抗することができない。

 つまり第三者による助けが必要不可欠な状態であった。

 俺は極悪院先輩に望みをかけ、通話をタッチし、スマホをポケットにしまう。


 選択肢の条件は、「スマホをしまうことと、警察への通報不可」のみだ。通話自体をするなとは言われていないので、災厄は発動しない。



「分かった……お前達の車に乗ろう。黒いワゴン車にな」


「……悪かったな、鬼頭と4名の不良さん方。……ところでこの車は、どこに向かっているんだ?」

「三隅埠頭だ。そこにウチの倉庫がある」


「グレーの壁に緑の屋根……黒字で鬼頭埠頭倉庫と書いてあるな……本当にお前んちのものなのか」



 極悪院先輩が聞いてくれていると想定し、警察がすぐ駆けつけてくれるよう、情報を伝えた。

 だがまさか、先輩自身が駆けつけてくれるとは……! 危険なことに巻き込んでしまって申し訳ない。



「待ってろ颯真! 今すぐこいつ等を皆殺しにしてやるけえのお!」

「先輩! 俺も戦います! ロープを!」


「がはははは! よく言った颯真! それでこそ、男よ! ――フンッ!」


 先輩は手刀で俺のロープを切り裂いた。すげえ……。



「んだあ? このデカブツはぁ?」

「や、やべえ……! あの人はマジやべえっすよ!」


 鬼頭はガタガタと震えている。


「ワシは毛輝毛路須高校番長! 極悪院真雪じゃあ! きさんらのようなクズを叩き殺す、正義の漢よ!」


 番長!? ウチみたいな進学校に、番長がいるのかよ!?


「やべー、マジかよ……聞いたことあるぞ極悪院って名前……」

「ああ、関東を代表する5人の番長の一人だぜ……」


 マジで……? 凄い人だとは思っていたが、それほどだったとは……。


「将吾ちゃん、本気ださねーと俺等やべーわ。あれ出して」

「は、はい!」


 鬼頭は背中から拳銃を一丁取り出し、不良のリーダーに渡した。

 おいおい、マジかよ……!? 完全に殺す気マンマンじゃねえか!


「うし! これで俺等の勝ち確っしょ!」

「がはははは! そんな豆鉄砲で、このワシを殺せるか!」


「はいはい、強がりはいいから死んでね」


 パンッ!

 不良のリーダーは、突っ込んで来た極悪院先輩に、ためらいなく発砲した。


 命中! ――が、先輩は止まらない。


 ボコォッ!

 リーダーは顔面を殴られ、壁に叩きつけられる。


「ぐ……が……」


 リーダーはずるりと床に崩れ落ちた。


「先輩! 大丈夫ですか!?」

「おう! 肩で受け止めたわい!」


 なるほど。筋肉の厚い部分で受けたのか。

 しかも、半身で突っ込むことにより、急所への直撃を避けている。

 こんな戦い方をできるとは……実に末恐ろしい高校生だ。



「ひ、ひい!」


 不良たちは完全に怯んでいる。チャンスだ!


「さあ、いくぞ颯真!」

「はい!」


 俺と先輩は、残った不良2人をパンチでノックアウトする。


 残りは鬼頭1人。



「た、助けてくれ! こ、降参だ!」


 鬼頭はナイフを捨て、両手を挙げた。


「ダメだ。お前は絶対に許さない」

「許してくれ! もう二度とこんなことはしねーから!」


 俺は黙って鬼頭に近付く。


「颯真――」

「分かっています。俺に決着をつけさせてください」


「そうか。ヌシの武者ぶり、しかと見届けさせてもらうとしよう!」


 俺はさらに鬼頭に近付く。

 もう少しで、俺のパンチが届く距離となる。


「へ……へへ……まさか、無抵抗の俺を痛めつけたりしねえよな……? なあ、おい……?」

「本当に無抵抗ならな」


 俺はさらに一歩を踏み出す。


「――ちくしょう! 死にやがれ!」


 鬼頭はショルダーホルスターから拳銃を抜こうとしたが、その前に俺のストレートが奴のアゴを撃ちぬいた。

 奴はバタリとその場に倒れ込む。


「見事な早撃ちじゃったのう! ヌシは真の漢じゃ!」

「極悪院先輩。危険を顧みず助けていただき、本当にありがとうございます!」


 俺は深々と頭を下げる。

 真の漢とは極悪院先輩だ。俺はひまりを危険に晒してしまった。むしろ男失格である。



「ひまり、今縄を解くからな」

「八神……絶対助けてくれるって信じてたよ……」

「うむ! 愛……愛じゃのう……!」


 なんだか照れ臭くなり、上手く縄がほどけない。

 そうこうしている内に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。


「ようやく来たようじゃ! やっぱりワシが突入して正解だったのう!」


 ひまりの縄が解けた。


「八神……ありがとう!」


 ひまりは俺に抱き着いてきた。



「警察だ! 君達、両手を挙げなさい!」


 警察が倉庫内に突入してきた。

 それでもひまりは離れない。


「ひまり、手を挙げないと」

「やだ! 絶対放さないから!」


 俺達は国家権力に逆らい、警察のライトに照らされながら抱きしめ合った。





 その後、鬼頭は少年院行き、不良たちは他の余罪も合わせての刑務所行きが決まる。

 鬼頭の所持していた拳銃は、父親が密輸したものであることも判明し、鬼頭の父親も逮捕された。


 なんちゃって不良の鬼頭は、少年院の真のワルたちに相当に虐められたらしい。

 面会に来た母親に「頼むから、ここからさっさと出してくれ!」と何度も泣き喚いたそうだ。

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