5回応募しても落選した場合

第19話  『分析』しないと上達しない

■前提として

さて、この章からは『5回応募しても落選してしまった』方々向けの記事となります。


なぜ『5回』なのか?

別に3回でも8回でもいいのですが、おおよそ5回前後に陥るだろう、

『物書きとしての壁』を突破するために、この章を設けました。


まず、小説を書くとき、はじめのうちはモチベーションは高いものです。

生まれて始めて書いた作品、それは自分の理想を詰め込んだ理想の物語になっていると思われます。


少なくとも、キャラ、ストーリー、世界観、設定のどれかは、理想に近いものを詰め込んだと思います。

私もそうでした。


ただ、それを繰り返し、新人賞やウェブに投稿していくうちに、壁が立ちはだかります。

『良い結果が出ない』ことです。


新人賞なら一次選考落選が繰り返される、ウェブ小説ならブックマークや★、評価がつかない。感想もなかなかもらえない。

「自分の小説は面白くないのかな?」「つまらないのかな?」

と、自信を失う時期かと思います。


そう思い始める時期が、おおよそ『3~8回』くらいだと思うので、中間の『5回』と致しました。


この章は、『知識』はあるけれど結果が出ない、そんな方に向けての記事となります。



じつは、小説には『セオリー』や『慣習』などがあり、受賞する作品にはそれなりの法則があります。

本章にはそれを伝え、どのようにして習得していけば良いのかを明記していきます。


その第一弾として、『分析』の話になります。



■分析ってなに?

前回、インプットとアウトプットは重要、ということを記しました。


それに加え、今回は『アナライズ』も重要ということを明記しておきます。


日本語に訳せば『分析』ですね。これこそ、小説を書く上である意味最も重要なことであり、分析をしない物書きは面白い作品を生み出すことは出来ません。


たくさんの作品を読んで(インプット)して、多くの物語を書いて(アウトプット)多くの作品を作り出す。


それはとても大事なことです。

しかし合間合間に、『分析』――アナライズしないと、いつまで経っても腕は上達しません。


私を事例に挙げて説明しましょう。


デビュー前、私はとにかく『バトルものが書きたい!』、強くて格好良い主人公が凄い技をバンバン使って超人的なバトルを繰り広げる、いわゆる厨二系バトルものを強く書きたいと思っていました。


例えば、神話や伝説の英雄たちが現実に存在して、その子孫たちが学園の中でバトルしたり。

あるいは聖剣、魔剣、霊剣、多種多様な強力な剣を持った英雄たちが、サバイバルゲームに興じたり。


とにかく舞台設定からキャラクターの言動、ストーリーに至る前、『バトルありき』の構成にしていました。


――で、見事に新人賞は落選しまくりでした。


まあ、当然ですよね。

『バトルが書きたい!』という自分の自己満足だけで構成された作品は、ウケません。

書いた本人は面白く感じ、また欠点も軽く見てしまって、『自分の書きたいこと』ばかり目に入る。意識してしまう。


これまでの記事の中でも、何度か書いてきたと思いますが、ようは『自己陶酔』です。

作者の自己満足。


これは、意外と物語を書いている方は陥りやすいものです。

実際いくつかのウェブ小説を読むと、「ああ、これ面白くないけど、作者は好きなんだな……」と思うようなものはいくつもありました。


プロの作品でもたまにあります。

なんだかよくわからない独自言語や、癖の強いキャラクター、「おいなんでそこでそんな行動!?」と首をかしげるような内容のストーリーだったりします。


自分の作品を客観的に見て、面白いか、そうでないか――


これを見極めるのはプロでも難しいです。

デビューした物書きというのは、一種の『成功体験』を得ているため、『自分の書くものは面白い』、あるいは『自分は正しいんだ!』と、錯覚してしまうことが多々あります。


けれど客観的に見て微妙、というのはよくある話です。


物書きにとっては職業病みたいなもので、完全に消し去ることはほぼ不可能と思います。


あるプロ作家さんの場合、一度書いた作品を一ヶ月くらい『寝かせて』、それから推敲に入る、という方もいます。

それくらい、自分の作品を客観的に見るのは難しい。


ですが、それが小説を面白くするための第3の鍵とも言えます。

それが『分析』、アナライズです。



では、分析はどうすればいいのか。


やることはシンプルです。

『自分が面白いと思った作品を思い浮かべる』

そして『なぜそれが面白いのか?』を考えることです。


たぶん、読者の方々には「これ面白い!」と思った作品はいくつもあると思います。

例えば、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『86』、『ようこそ実力至上主義の教室へ』、『無職転生』、『盾の勇者の成り上がり』、『この素晴らしい世界に祝福を!』……数え上げればきりがないと思います。


ではなぜその作品が面白いのか? それを考えたことがあるでしょうか。


――キャラクターが可愛いから?

――ストーリーが面白いから?

――文章力が素晴らしいから?


いくつか理由があると思います。


では、『なぜ?』の部分をもっと詳しく考えてみてください。


例えば『このすば』。

主人公のカズマは、クズマさんと呼ばれるほどゲスな行動をして、ぱっと見は小物なのになぜか笑えてしまう、なぜか許せてしまう。見ていて愛嬌のある主人公です。


ではそれは、『なぜ』か?

カズマはひどいことをすることもありますが、『仲間を気遣ったり』、『魔王軍の幹部には策で攻略する』など、【普通の主人公がすること】も要所要所で行っています。


また困っている仲間がいれば色々文句は言いますが、「しょうがねえなぁ!」と言って助けたり、時には危険な場所に行って危機を乗り越えます。

まあ、たまに死んじゃったりしますけど。


それですね。

ようは『ギャップ』です。基本、ゲスい行動が多いですが、要所でやることはやっている。たまに格好良いことをしているから、『馬鹿だけど、スケベだけど、何か許せる』キャラクターになっています。

このバランス感覚が素晴らしいから魅力的なのです。



反対に、『86(エイティシックス)』のシン。

この作品における主人公です。

基本は冷徹、味方が死んだ場合は銃でとどめを刺し、誰かから糾弾されれば無視か冷たい瞳で見返すだけ。感情が薄い、氷のような人物です。


とはいえ何も感じていないわけではなく、言動の端々にそれが見え隠れします。

また、シンが置かれた立場は『自分で戦おうとしない人間の代わりに戦う』兵士であり、紙装甲のロボットを使って多勢に無勢の戦いを勝ち残ります。


劣勢の中で諦めず戦う――いわゆる判官贔屓の要素を取り入れた、良作だと思います。

日本人は劣勢な人間を見ると応援したくなってしまう、『判官贔屓』の傾向があることを、上手く設定やキャラクター、ストーリーの中に落とし込んでいる好例であると言えます。


加えて、シンにも『ギャップ』はあります。

例えばヒロインとの恥ずかしいやり取りがあるのですが、『それがじつは通信で周りの人間にも聞こえていたり』、『平時ではズボラなところがあり脱いだ服はほったらかし』、『反応に困る出来事が起こると目をそらす』など、くすりと笑える一面がいくつかあります。


また、先程の例に戻りますが、『このすば』にも判官贔屓的な要素はあります。

そもそもカズマは強くありません。

本来は転生した日本人はチート級の武具や能力を持っているのですが、彼は転生を司る女神(アクア)を異世界に持ち込んだのでチートも何もない、よわよわ冒険者として始まります。


実際、作中では何度か死んでおり、『ボス級モンスターに首チョンパされる』、『モンスターに激突されて木から落ちて首を折る』、『魔王軍の幹部に死の魔法をくらう』など、作中で一番死んでいます。


死んでも女神が生き返らせてくれる世界観ではあるのですが、「おま! そんなことで死ぬなよ!」と思う場面もいくつかあります。


でも何だかんだで窮地は脱しますし、弱い能力だけど、使い方を工夫して有利に立つ場面もよくあります。

この辺も王道的な判官贔屓とは違いますが、亜種ともいえるものとなっています。


知恵や勇気やはったりで上手く乗り越えていく――そういう機転の良さでピンチを超えるタイプ。


これもじつは高等なテクニックが駆使されていて、『弱い者が強者を倒す』、『普段はアホでクズでスケベだけどやるときはやる』など、複数の読者のツボを押さえた、秀逸なバランス感覚のもとに生み出されたキャラクターと言えます。


映画『異世界カルテット』で、監督がインタビューで述べていたものの中に、「カズマは主人公力が強すぎて他の面々と絡むとカズマの物語になるから孤立させた」(要約)とあり、

他の作品と較べても存在感のある主人公ということが伺えます。


このように、ヒット作と言われる作品には、なにかしら面白いと感じられる『理由』があります。

それは世界観の設定だったり、ストーリーだったり、主人公の魅力だったり、様々です。

ヒット作はそれがずば抜けています。


とはいえ、それは決して才能や偶然で作り出せるものではなく、技術であり、

『分析』して獲得できるものです。


『このすば』も『86』も、作者さんがはじめて書いた小説ではありません。

はじめてではない以上、『面白くない』とされた作品が過去にあるはずです。その中には、おそらく他人には見せられないような微妙な作品もあったと思われます。


けれど、あとがきやインタビューを見る限り、努力されている。

長くなるため詳しくはここでは明記しませんが、どちらの方も非常に色々なことを考えて作品作りに尽力されています。


持って生まれた能力だけではなく、それを磨き、活かしたからこその成功があるわけですね。


■まとめ

作品を面白くするにはどうすればいいのか、何が足りないのか。

そう思ったときは、『ヒット作を分析する』と良いと思います。


なぜ、そのキャラクターは面白いのか。――ギャップ? 設定の組み合わせ?

なぜ、そのストーリーは面白いのか。――起承転結が絶妙? 斬新な設定?


分析すればするほど、『理由』が見えてくると思います。


もちろん、分析するだけでは作品は面白くなりません。

繰り返しになりますが、様々な作品を読んで『インプット』して、色々な物語を書いて『アウトプット』する。

そしてその結果出た結果に対し、『アナライズ』――分析して、ヒット作と自分の作品はどう違うのか、比べて考えてみる。


この3つを繰り返し行うことで、作品のクオリティは上がっていきます。



次回、『序盤は意外と難しい』という話になります。

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