第14話 ハゲの女神(笑)は聖女(軟禁)となる③
「やはり秘密裏に囲われていたという事か……どうりで反応が早いわけだ」
「秘密……まぁ、秘密にしてほしいと言ったのは私ですね」
「それは、何か弱みを握られて? まさか人質でも取られているのか?」
物騒な事を言う王弟殿下に、慌てて否定する。
「いえいえ、そういうわけではないです。ただ私の加護の力が大勢に知られると我が家に直接話を持ってこられると思ったので、そうなったらもうお断りする事もかなわなくなりますし、それだったら家族に迷惑が掛からない方向でとそうしたんです」
そう言うと、どことなく苦い顔をする王弟殿下。
「……そう考えるのも想定の内か。誰もが欲しがる力だろう……男爵家では抗え切れまい」
誰も……というわけではないと思うが。まぁ男爵家では抗えないってのはその通りだが。
「こちら側の情報は徹底して封じるが、あちらが既に知っているという事ならこのままというわけにはいかない。実際早々に返還要求を突き付けてきている状況だ」
あー……まぁ、ハゲコミュニティの方々ははよ帰って来いと言うだろう。なんせ私ハゲの女神(笑)なので。きっと今頃次に髪を生やす予定だった人がまだかまだかとヤキモキしているんじゃないだろうか?
「我々がそれに応じない場合、聖女の再来を発表し無理やりにでも貴女をあちらへと連れていくだろう。そうなれば聖女として表舞台に立ち、宰相の言うままに力を奮う事になると思うが……」
何と言うか、もとから
いや別にハゲの女神と言うのを気に入っていたわけではないし、何なら大それ過ぎているとも思っているのだが、それとは別に特殊業務の給料も貰ってないのに降格されるとか意味がわからないと頭の隅っこで不満が出る。
と、ここまででお気づきであろうが、私は少々頭が回っていなかった。いきなり王弟殿下なんて雲上人が目の前に現れて静かにテンパっていたのだ。
だから腕を一本生やす=聖女という簡単な図式を忘れていたのも見逃していただきたい。
「わかっているのか? 聖女の再来となれば貴女は完全に籠の鳥。その力だけでなく貴女の加護を受け継ぐ子供を求められるのだぞ? いや、まさかすでにそうなのか?」
そこまで言われて、「子供」というキーワードに回っていない頭が急速に回り始めた。瞬時に王弟殿下の言葉を再生させて思考回路に再投入し、蒼褪めた。
要するに、今までハゲの改善しか出来ないと思われていた『生える』という加護が、腕を生やすというミラクルを起こした結果、かつて『戻る』という加護で聖女として祭り上げられた女性の再来、つまり聖女と呼ばれるようになりパンダ扱いされると。そしてさらに種馬のごとく有用な加護を持つ子供を産むために使われるぞ。というか、使われているのか? と言われたわけで。
とんでもない誤解に慌ててブンブン首を横に降ったら目が回って吐きそうになった。
「すまない。不躾に過ぎた。……確認するが、無体を働かれていないという事だな?」
気持ち悪さを堪えて、もちろんですと頷く。
「あの、そもそも宰相閣下も同僚も私の加護の事は知っていますが、それは髪を生やす力だと思われています」
「……髪?」
ふーと細く息を吐いて気持ち悪さをやり過ごし、ちゃんと目を開けて説明する。
「あちらでは、薄毛の事を気にされている男性が非常に多くいらっしゃいます。
同僚もその一人だったのですが、いろいろありまして見るに見かねて同僚の髪を生やしたのです。すると他の同じ悩みを持つ方々がどうやったのだと同僚を問い詰めまして……同僚も私の名を出せば無理やり髪を生やせと命じられる事はわかっていたので黙っていてくれたのですが、高位貴族の方々相手には太刀打ちできる筈もございません。やむなく私から最も貴族位の高いお相手に会わせていただき、髪を生やす代わりに私の素性を一切知らせないようにお願いしたのです」
長文を話すと、少し息切れするようで最後は肩で息をしてしまう。
王弟殿下は唖然とした顔で私を見ていたが、確認するように口を開いた。
「だとすると、今王都から貴女を返還するように言ってきている使者は」
「私、そちらの方面の方々からは不本意ながらハゲの女神などと呼ばれております」
「ハゲ……の、女神」と、呟く王弟殿下。
多分、やんごとなき御身分の王弟殿下は口にするのも初めての単語だったのだろうと思う。多分に戸惑いが含まれた呟きだった。
すみません。直接的な単語で。貴族ってもっと婉曲的な表現をする生き物なのだが、ハゲコミュニティの人たちはことこれに関してだけは何故か直球なのだ。それだけ渇望していたからだろうか? どうせなら発毛の女神とか……いや大して変わらんな。
王弟殿下はこめかみに長い指を添わせ、一度視線を下げてからもう一度「女神……?」と呟いた。
なんでそこを二度言うのでしょうか。不相応という事だろうか? 私もそうだと思いますけども。女神(笑)だと思ってますけども。人に言われるとなんかもの哀しいものですな……ははは。
内心空笑いをしていると、王弟殿下は何事も無かったかのように私に視線を戻した。
「現状、王都側——いや、宰相側は貴女が私の腕を治した事は知らない。
こちらも可能な限り情報は規制するつもりだが、いつまで隠し通せるかはわからない。その上で聞くが、貴女はあちらに戻りたいか?」
青の瞳が逸れる事なく私をじっと見つめているが……これ、質問形式だけど私に選択権ってあるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます