レベッカを探せ 4 〜キング一家の旅 10

「おいっ!船長っ!何故勝手に馬と馬車を売り払ったんだっ!あ、あの馬はな…あの馬は…俺の大事な愛馬だったんだぞっ!」


そう、あの馬は俺にとって最高のパートナーだった。

デロリアン…。

あの美しい毛並みの牝馬はしなやかな身体で駆けるのは早かった。

俺とアイツはまさに一心同体の仲だったのに…っ!


「貴様ぁっ!!よ、よくも俺のデロリアンを…っ!!」


気づけば海賊船長の首を締め上げ、不本意ながら目には涙が浮かんでいた。


くそっ!何てことだ…っ!


レベッカを目の前で失ったときにすら、涙は出なかったのに…デロリアンを失ったことを聞かされただけで涙が滲んでくるとは…!


世界で一番大切な存在はレベッカだと思っていたのに、ひょっとすると俺にとってかけがえのない存在は牝馬のデロリアンだったのだろうか?!


「お、おいっ!落ち着けっ!て…え?!お、お前…まさか…泣いてるのかっ?!」


襟首を締め上げられながらも、海賊船長は俺に尋ねてきた。


「ああそうだっ!泣いて悪いかっ?!いいかっ?!よーく聞けよ!この世で俺にとって、一番大切な存在は…デロリアンなんだよ!そ、それなのに…クッ…か、勝手に…俺の愛馬を売りやがってこの野郎っ!!」


目に涙をためて船長の首を締め上げる様は傍から見れば面白いのだろうか?

周囲の船員たちは口を押させて顔を真っ赤にさせて笑いを堪えているし、よく見れば船長すら、赤くなって笑いを堪えている。


…まぁ、ひょっとしたら首を締め上げられて苦しくて赤くなっているのかも知れないが、そんな事はどうだっていい。


今は…デロリアンのことだっ!


「お、おい…アイツ。泣いてるぞ…」

「ああ、泣いてるな」

「大の大人でヤローのくせに…」

「クッ…お、面白すぎる…」


「うるせぇっ!!お前らっ!!笑いたければ笑うがいいっ!それよりも返せっ!俺のデロリアンを返せよぉっ!!」


俺は涙を流しながら吠えた。


…その時―。


背後で視線を感じて恐る恐る振り向くと、そこには冷たい…それでいてどこか嘲笑うような顔で俺を見ている変態親父とクズ兄貴の姿があった。


「…父さん。見たかい?あの無様に泣く姿を…恥ずかしいよね?」


「ああ、しかと見たぞ。まさかあのように大人になってまで、ひと目も憚らず泣くとは…情けない男だ」



「な…っ?!」


こ、こいつ等…っ!


さっきまで船酔いでぶっ倒れていたくせに、いつの間に復活していたんだっ?!

し、しかも無様に泣いている姿をよりにもよってあんな奴等に見られてしまうとは…!



「…もういい」


パッと船長の掴んでいた襟首を離し、涙を拭うとクズ兄貴と変態親父を睨みつけた。


「もう…もう、お前らとはここでお別れだーっ!!」



俺の心の叫びが青い空に響き渡った―。

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