レベッカを探せ 3 〜キング一家の旅 4 

 リーゼロッテは熊でも一瞬で寝かせる事が出来ると言われている強い睡眠薬のおかげで深い眠りについている。


「よし、こんな下着姿のリーゼロッテを抱えて歩くのは目立ちすぎる。この麻袋に入れよう」


俺はあらかじめ手配しておいたコーヒー豆を入れる麻袋を変態親父とクズ兄貴に向かって投げた。少々リーゼロッテを入れるには小さいかもしれないが、無理やり押し込めば入れられるだろう。


「え?何故私達にリーゼロッテを詰め込む仕事をやらせるのだ?」


「そうだよ、アレックス。人を麻袋にれると言う作業は思った以上に重労働なんだよ。こういう仕事はじゃんけんで公平に決めるべきだと思わないかい?」


無能なくせにいっちょ前に俺に文句を言ってくる変態親父とクズ兄貴に思わず切れそうになる。


「はぁ?ふざけるなっ!俺はなぁ、これから馬車の準備をしてこなくちゃならないんだよっ!大体お前らが言ったんだろう?『アレックスじゃなければ馬車を動かすことが出来ないんだ』って!毎回毎回、人に御者をやらせやがって…!」


忌々し気に2人を睨みつけてやった。


「まぁ…そういう事なら仕方ないね」


「う、うむ。やるしかないのぉ。これも愛しいレベッカを探す為の手段だからの」


「こらっ!変態親父っ!どさくさに紛れて俺の妻の話を持ち出すなっ!」


全くおぞましい。60過ぎの親父がまだたった17歳のレベッカに恋心を抱くとは犯罪だ!何としても俺は親父の毒牙からレベッカを守ってやらなければ!


「何が俺の妻だよ。結婚式の日に別の女とベッドにいたくせに。言っておくけど彼女に結婚指輪をはめたのは僕なんだからな?レベッカは僕が貰うよ」


「うるせぇっ!クソ兄貴っ!今の俺はレベッカ一筋だっ!お前はレベッカの姉がお似合いだっ!」


「駄目だ駄目だ!レベッカはお前たちにはやらんよ。私の妻にすると決めたのだから」


ロリコン親父が話に割って入ってくる。

こうしてまた俺たちの不毛な?親子喧嘩が勃発した。


だらしない格好で床の上に転がって眠っている色情女を放置したまま―。



****


ガラガラガラガラ…ッ!



「くそっ!くだらない親子喧嘩のせいで出発が遅れてしまっただろう?!」


手綱を握りしめ、ものすごい速さで馬を走らせながら俺は荷馬車で呑気に寝転がっている変態親父とクズ兄貴にわめいた。


「うるさいなぁ…眠れないから少し静かにしてくれないかな?」


「うむ。そうだ。年を取るとな、睡眠は重要なのだ。お前は黙って馬車を走らせていればよい。ただもう少し速度を落として走らせてもらえないかのう?揺れがひどくて眠りにくい」


2人の滅茶苦茶な言い分に軽い殺意が沸いてくる。


「…」


俺は麻袋に恐らく不自然な格好で詰め込まれているであろうリーゼロッテをチラリと見ながら考えた。


リーゼロッテを娼館で売り飛ばした後、いっそ金と馬車を持ち逃げして一人きりで旅に出るか?

いや、でも待てよ。俺だけ別行動する事よって、あの2人の結束が強まったらどうする?俺にとって不利な状況が発生するかもしれない。おまけに、もし先回りされて愛するレベッカを奴らに奪われたりしたら?


いいやっ!そんなことは絶体駄目だっ!俺はレベッカの夫だ!

妻を守るのは夫である俺の役目だ。


くそ…っ!やはり不本意ながらこいつらと旅を続けるしかないのかもしれない…!



待ってろよっ!レベッカッ!


必ず俺がお前を探し出し…今度こそ良き夫になると誓うからなっ!



そして俺は夜の暗い森の中を、ますます馬車を走らせる速度をあげた。



まずは娼館を目指して――!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る