アマゾナの物語 1
私はアマゾナ。最近村ではちょっとしたトラブルが起こっていた―。
朝6時―
「アマゾナさんっ!来て下さいっ!」
自分の店、『アマゾナのお宿』の食堂の開店準備をしていると、隣村に住む住人が店の中に駆け込んできた。彼女は隣村『マザーキッズ』の若き村長代理人を務めるジルだ。
「どうしたのさ、ジル」
テーブルを台拭きで拭きながら尋ねるとジルはハアハア息を切らせながら言う。
「ジル、あんたまさか走ってここまでやって来たのかい?」
「いいえ、途中まで村の住人に乗せてもらいました。彼女は畑に行く途中だったので」
この『アルト』の村から『マザーキッズ』の村までの距離は約3Km。村の中間地点に彼女たちの畑があるのだ。
「まさか、そこから走ってきたのかい?」
「いえ、走ってきたのは村に入ってからです。それまでは歩いてきましたよ」
「そうかい。とりあえず水でも飲みなよ」
コップに水をくんでジルの前に置いてやった。
「ありがとうございます」
ジルは余程喉が乾いていたのか、コップを握りしめると一気飲みした。そしてダンッと勢いづけて空になったコップをテーブルの上に置く。
「何だい?いつも温厚なジルにしては随分苛ついているじゃないか?」
「ええ。そうなんですよっ!聞いて下さい!新しく住人としてやってきた人の話ですよ!」
「あぁ…あの女か…」
腕組して私はその女の事を思い浮かべた。今から約半月ほど前にボロボロで泥まみれの男か女かも分からない人物が靴も履かずにふらりとこの村に現れたのだ。
当然この村の住人たちは気味悪がり、私の元に報告にやってきたのだ…。
****
その人物は広場の真ん中で倒れていた。
「見て下さい、アマゾナ。この小汚い身なりの人間を」
「フラフラと村の入り口から入ってきたところで突然バタリと倒れたんですよ」
「見るからに不審人物でしょう?」
「気持ち悪いし、臭いしでたまったもんじゃない」
私をここへ連れてきた男衆達が次々に鼻をつまみながら文句を言ってくる。確かにここに立っているだけで強烈な匂いを放っている。私は鼻をつまみながらその人物に近づき、手頃な棒きれを拾い上げるとボサボサに伸びた長い髪の毛を棒ですくい上げて顔を確認してみた。
「何だい?これは女じゃないか?」
「ええ?!女ですか?!この小汚いのがっ?!」
「ああ、そうだよ。まずはこの臭い匂いを何とかしないといけないね。お前達、台車と女達を呼んできてくれ。ついでに新しい着替えもいるね」
「アマゾナ、どうするつもりですか?」
「まずはこの女を露天風呂に連れて行くよ」
すると男衆は談笑を始めた。
「ああ、あの『ドラゴンの湯』ですね?」
「本当にあの旅人たちには感謝しかないな」
「ああ、彼らのお陰で『露天風呂』なるものを知って観光名所になったしな」
「お陰で村が潤ったよ」
うん、まさにレベッカとミラージュ、そしてついでサミュエル皇子には感謝しか無い。この村がここまで発展出来たのは彼女たちのお陰だ。
「それじゃすぐに準備しますよ!」
男衆はバラバラと散っていった―。
「これが例の女ですか?」
「それにしても臭すぎるわ…」
「早いとこさっぱりさせないと」
「目を覚まさないかしら…」
集まってきた女達が遠巻きに倒れている女を見ている。そこで私は先程拾っておいた棒で女の身体をつついてみた。
すると…
「う〜ん…」
うめき声がして、女がムクリと起き上がった。
「あ…ここは…?」
女はキョロキョロ辺りを見渡した。
「気付いたかい?ここは『アルト』って村さ。あんた、名前は何て言うんだい?」
すると女は臭い匂いを撒き散らしながら立ち上がった。
「私?私の名前はリーゼロッテよ」
その態度は随分高飛車だった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます