ミラージュの物語 3
1年を通して虹を見ることが出来る小高い草原・・ここには十字架のお墓が立っている。このお墓の下に眠っているのは他でもない、私の母。
ヘレン。享年21歳
「ヘレン・・・今日も貴女に会いに来たわよ。」
レイラ様は母の十字架にそっと手を触れ、私が作ったシロツメクサの花冠を十字架に飾り、祈りを捧げた。私もレイラ様に倣って祈りを捧げる。
そしてお祈りが終わると、私はレイラ様に尋ねた。
「レイラ様。」
「何?」
「私のお母さんて・・・どんな女性だったのですか?」
するとレイラ様は一瞬大きく目を見開き・・・そしてクスリと笑った。
「どうしたの?ミラージュ・・今まで一度もそんな事尋ねてきたこと・・無かったのに・・。いいわ、見せてあげる。」
「え?見せてあげるって・・?」
思わず戸惑っていると、レイラ様が言った。
「ミラージュ・・眼を閉じて。」
「は、はい・・・。」
言われるまま目を閉じた。するとレイラ様の手が両ほほに触れ・・コツンとおでこをつけられた。
「・・?」
すると・・・突然頭の中に1人の女性が浮かび上がった。肩先まで伸びた黒髪に青い瞳の・・可愛らしい女性が愛しそうに赤子を抱いている。その赤子の頭からは・・小さなドラゴンの角が生えている。
「あ!」
私は思わず声を上げた。するとそこで・・女性は消えてしまい、私は目を開けた。
「どうだった・・?見えた?ミラージュ。」
「は、はい!見えました・・・!あの女性が・・私のお母さんですか?」
「ええ、そうよ。それに・・赤ちゃんを抱いていた姿も見えたでしょう?」
「はい、見えました。頭に角が生えていましたよね・・?」
私は自分の頭から飛び出ている小さな角に触れながら言う。
「ええ、そうよ。つまり・・・あの腕に抱かれているのは・・ミラージュ、貴女なのよ?」
レイラ様は楽しそうに言う。
「あの女の人・・・とても優しい目で私を抱いていました・・。」
私は先ほどの光景を思い出しながら言う。
「ええ、そうよ。貴女のお母さんは・・貴女を守りながら・・さ迷い歩き・・必死で祈っていたの。どうか神様、この子を助けて下さいって。そして・・普通の人なら近づけないはずの・・『エデン』があるこの空間迄たどり着いたのよ。だから私はここを開けて・・貴女のお母さんとミラージュを招き入れたのよ。」
「そう・・・だったんですか・・。」
「でも・・・貴女のお母さんは・・寿命がもう決まっていたのね・・・。ここへ辿り着いて1カ月ほどで亡くなってしまったの。」
私は黙ってレイラ様の話を聞いていた。
「私はね、普通の人間に会ったのって・・貴女のお母さんが初めてだったのよ。それで・・短い寿命の中、精一杯生きているその姿に憧れて・・もし結婚するなら人間の男の人がいいなって・・思うようになったのよ。」
「レイラ様・・・。もし・・もし、人間の男の人を好きになって・・この地を去るときは・・。」
私はそこで俯いた。
「ミラージュ?どうしたの?」
「あの・・レイラ様が、もし『エデンの園』を去るときは、私も・・私も一緒に連れて行ってもらえませんかっ?!」
すると、レイラ様はポカンとした目で私を見ていたけれども・・。
「本当?!ミラージュッ!」
不意にギュッと抱きしめて来ると言った。
「良かった・・。私達は・・いつでも一緒よ?」
「はい、勿論です。レイラ様っ!」
そして私達はお互い、離れない約束をした。とても幸せだった『エデンの園』での生活。なのに・・・あの男が現れて・・レイラ様の人生は狂ってしまった。
そして私の人生も大きく変わることになる―。
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