第738話 俺の……



「やれやれ、全くヒドイ話だ。目覚めたばかりの世界では、ソコソコ美しいと思ったレディが、みんなビッチだったとはね。いや……僕は信じている。僕ほど美しくなくとも、未だ穢れていない女性は居るはずだと!」


「ああ? ビッチだと? おい、待て、人の女を勝手に口説こうとして、既に人妻だと分かった瞬間に、ビッチとか……ビッチとか……」



 こんなふざけた野郎に、人の嫁をビッチ呼ばわりされては、さすがに黙ってはいられねえ。

 俺の嫁のどこがビッチ……



――ヴェルトくん、氷の使い手が寒いだけだなんて思わないでね。私のカマクラで君を蕩けさせてあげるわ!


――さあ、ヴェルト、食べてくれ! これがフォルナと私の料理! 今、帝国で流行っている、ハンバーガーからヒントを得た……プリンセスバーガーだ。上と下のパンに、お前がソーセージを挟んで、め・し・あ・が・れ♪


――ヴェルト様、私、ムサシさんから真剣白刃取りという技があることを教えて戴きました。それからヒントを得て、ヴェルト様の覇王剣を私のココで挟んで、うふふふふ♪


――ふふふ、ヴェルト、私はもう負けないわ! 覇王の后として、いざ、尋常に勝負! んほぉおぉぉぉおぉお!


――あへぇ、ムコ~、お腹がたっぷんたっぷ~ん♪ ムコ~、ミルクおかわり♪ 



「……ビッチなんかじゃ……ビッチじゃないさ、俺の嫁は! ちょっと、旺盛なだけだ!」


「「「「いや、そこは自信を持って否定しろ!」」」」」



 と、俺が少し唸っていることに対して一斉にツッコミが入った。

 しかし、俺がそんな風に戸惑っている間、俺の嫁たちに興味を無くしたルナシーが、周りをキョロキョロ見て……



「おっ、あそこの虎耳娘! あれはまるで……和風じゃないか! ああ、前世を思い出させる。懐かしい。まるで、サムライのような凛々しさもあっ―――」


「テメエええッ! ムサシはな、ムサシは俺だけのもんだ! 強くて、従順で、おっちょこちょいで、でも可愛い、俺だけのムサシだ! 誰にもやらねえ! ムサシは、俺だけのもんだ!」


「「「「「ちょっ、なんか妻より必死じゃないか!?」」」」」



 こいつがいきなり、ステージ上のムサシに目をつけたので、ふざけんなと俺は叫んだ。

 いや、ムサシはダメに決まってるだろうが。



「ぐぬぬぬぬ、全く、なんて美しくない! ん? おお、下品な格好をしているかと思えば、体つきはなかなか美しい。磨けば、僕ほどではなくとも、それなりに美しくなるだろう。なら、君が僕の妻に!」


「えっ? 私でスカイ?」


「ああ、そうだよ、マドモアゼ……ん? その口調……どこかで……?」



 そのとき、ルナシーの次のターゲットがクロニアに



「テメエ、そいつは……そい、つは……」


「「「「「……ソイツハ?」」」」」



 思わず俺はさっきと同じように叫んだが、言葉がそれ以上出なかった。


「「「「「おい、ヴェルト? (様?)(ムコ?)(クン?)」」」」」


 嫁も、非常にニッコリとした笑みを浮かべて、俺を睨んでいる。

 そう、俺は、なんて言えばいいんだ?


「ん~、あの~、ヴェルトくん、どう叫ぶつもりでスカイ? 私は君の嫁じゃナイチンゲール」


 ちょっと照れたように苦笑するクロニア。ヤバイ、俺はどう言うべきだ?

 だって、こいつは俺の嫁でも女でも飼ってるやつでもねえし……



「そ、そいつは、俺とは全然ッ関係ない縁のある恩人で、ウゼー女だから手を出すんじゃねえ」


「「「「「意味不明!!??」」」」



 結局、文法がメチャクチャになってしまった。


「っ……なら、君だ! 君は! 君は美しく可憐で純粋さが溢れ出ている! 君こそ美しき僕の妻にふさわしい!」


 とりあえず、クロニアもダメだと分かった瞬間、ルナシーがまだ懲りずに誰かに声をかけた。

 それは……


「えっ、あの、その、私ですか? ……チラッ……」


 こっちを一瞬チラっと見てきたペットだった。


「そう、君は穢れていない。そして可憐だ」

「いえ、あの、その、私……チラッ……チラッ……」

「まだ、君は男を知らないだろう。まだまだ蕾だ。その花を僕が咲かせてあげよう」

「いえ、でも、私は……チラッ……チラチラッ」

「さあ、このバラを君に。定番ではあるが、美しき愛にはバラだ」

「チラチラッ」

「美しきバラには棘がある。その棘が、君の純潔を散らすことになるだろう。しかし、それはより美しくなるための儀式」

「チラチラチラチラチラチラチラ」

「さあ、僕と、世界に一つだけのオンリーワンな愛の花を咲かせようではないか!」


 さすがに、正面から口説かれるのは、ペットも慣れていないようだ。

 さっきから俺に助けを求めるかのようにチラチラと……


「んもおおおおおお、なんで、私には何も言ってくれないの!? ヴェルトくん!」


 と、その時、半泣きになって俺に向かって、ペットがそう叫んだ。

 いや、……なんでって……


「いや、そう言われても……」

「あのね、その、もう今更だけど、私の気持ちはもう知ってるでしょ? なのに、何で助けてくれないの!?」

「で、でもよ……フッた男がさ~……フッた女を恋愛絡みで助けるとか……」

「ムサシちゃんやクロニア姫は助けたのに!?」


 そう、例えば「好きです」と告白されて「ゴメン」と断った相手。断られた相手がその後に誰とどうなろうと、もうそれは当人の問題なわけで、俺が口出しするのはどう考えても筋違いだろ?

 いや、ムサシは俺のだし。それにクロニアは……うん、まあ……ほら、何かのミラクルが起こって、将来どうなるか分からねーし……。



「いやいやいやいや、ちょっと美しくないじゃないか。まさか、君まであのお子様なチンチクリンを―――」


「お子様なチンチ……っ、大きなお世話です、ちょっと黙っててください! それに、ヴェルトくんは今、子供の姿にされたから小さいだけで、本当はもっと大きいんです! それこそ、あなたみたいなナヨナヨしている人なんかより、ずっとヴェルトくんの方が太くて大きくて逞しいに決まってるんです!」


「ッッッッ!!!???」



 いやいやいやいや、ペットさん!? ちょっ、あなた、何に対して言っている!?

 チンチクリンって、単純に背とかが小さいってことだぞ?  お前、何かと勘違いしてねーか?

 ほら、さすがにこればかりは、ルナシーもショック受けてるよ。


「ソウデース! ルナシー、その子は、私のレズフレデース! 私が――――」

「リリィさんも黙っててください! 今は、ヴェルトくんと私の問題なんです!」

「……ワカリマシタデース……」


 更には、余計な茶々を入れようとしたリリイすらも黙らせた。

 壊れペット、恐るべし……


「ふふふふふ、どちらにせよ、今のは旦那くんが悪いかな?」


 すると、そのときだった。

 俺の頭が軽くポンポンと叩かれた。


「自分を好いてくれる娘に対し、紳士ではないよ」

「オリヴィアッ!?」

「ましてや相手が……美しい相手ではないと耐えられないなどという、心の狭く醜い男なら、尚更ね」


 ヤンチャ小僧を嗜めるかのように俺の頭を叩くオリヴィア。

 爽やかに微笑みながら俺の傍らに立ち、そしてルナシーと向かい合う。


「しかし、私も美しさには少し自信があったけど、声をかけられなくて、少しショックだったかな? まあ、あなたに私が靡くことはないのだから、構わないが」


 そう言えばと、俺も不思議に思った。

 男装麗人系故、顔立ち等も含めて、オリヴィアは十分すぎるほど美しい女だ。14歳だというのはビビッたが。

 しかし、そのオリヴィアが相手をされなかったというのは確かに変だった。

 すると……



「ふふふふ、ヴァンパイア……君……さっき僕を鼻で笑っただろう?」


「……ん?」


「そして、僕がレディたちを口説いているときも、どこか見下しているようだった。まるで、醜いものを見るかのように」



 突如、ルナシーの様子が変わった。先ほどまで、少女マンガのように目をキラキラさせていたのに、急に殺気じみたものが混じった目をしてやがる。


「醜い連中が僕を馬鹿にするのは、ひがみにしか聞こえないから、それは構わない。しかし、僕に近い美しさを持つものが………僕を嘲笑うのが大嫌いでね……僕には分かる。君、自分のほうが僕より美しいと勘違いしているだろう?」


 ……なんつーか……メンドクセー奴だと、このときは誰もが思っただろう。正直、ツッコミの言葉も思い浮かばなかった。

 だが、オリヴィアは……



「ふふ、私があなたより美しいかどうかなんて興味はないよ。ただ、これだけはハッキリと言えることがあるよ」


「なに?」


「あなたが仮に美しかったとしても……私たちの旦那くんの方が、……かっこよくて、良い男だよ」


「ッ!!??」



 まさか、そこでオリヴィアが俺を口にするとは思わなかった。

 良い男だと……ハズい……







――あとがき――

進まねえ~

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