第736話 子供のすること

「いや~、コスモスちゃんは色々と教えてくれるね~。そうなると、聞きたいな~。いいかな~? おしえてくれるかな~? この世界の文化発展の立役者でもある、BLS団元代表のメロンこと……クレオ姫のこと」


「クーちゃん?」


「そう。この世界ではね、映画放映……つまり、二人の出会いから結ばれるまでの物語がすっごい人気でね。是非ともそのアフターストーリーを……夫婦になった二人は、コスモスちゃんの目から見ても仲良しか教えてくれるかな~?」



 司会がいきなり、俺とクレオの話題に持っていきやがった。

 その瞬間、嫁たちがムッとした表情を見せ、クレオだけは嬉しそうに呟く。


「ふふ、そう、私とヴェルトのラブストーリーの続きがそんなに気になるのかしら? うふふふふ、さあ、コスモス、私たちがいかに仲良しか教えてあげなさい!」


 何とも恥ずかしいことを! 正直、俺はいたたまれずに、今すぐにでも止めたくて駆け出したかったが、嫁たちに包囲されて身動きがとれねえ。

 御願いだ、コスモス。あんまり余計なことは……


「クーちゃんとパッパ……よくわかんない」

「えっ?」


 仲良しか? という質問に対して、コスモスは分からないと答えた。

 その意外な回答に、会場がざわつき出し、クレオも不安そうな顔を浮かべた。

 すると、


「あのね、ちょっと前ね、えっと……クーちゃんとはじめましてのときなんだけどね……」

「初めまして? ああ、クレオ姫とコスモスちゃんが初めて会った時かな?」

「うん。そのときね、おトイレでね、パッパがクーちゃんを裸で抱っこしてたの」


 ―――――ッ!!??


「あのね、コスモスはパッパに抱っこされたら嬉しいけど、クーちゃんそのとき、痛そうに泣いてたの。パッパに抱っこされてるのに……嫌ってことは、パッパとクーちゃん、仲悪いのかな~? でも、泣いてるのに、クーちゃんすっごいうれしそうなんだよ? コスモス分かんないよ~」


 トイレで、裸で抱き合って、女は涙を流していた。

 その言葉を聞けば、誰もがとんでもないことを想像をするだろう。



「「「「「ブボおおおおおおおおおおッ!!??」」」」」


「ちょっ、映像切り替えて! ピー音、ピー音! え~、ただいま大変お見苦しい点がございました。心よりお詫び申し上げます」



 司会の男が慌てて右往左往して指示を出す。

 コスモスは状況が分からずキョトンと首を傾げている。


「ヴェルト……クレオ……お前たち……」

「ウソ……と、トイレで……しかも、こ、子供に見られて……」

「やっぱ、サイテーだっつーの、このDQN不良」

「エルちゃん、い、いいんでしゅか!? コスモスの前で、そんなことする人を伴侶にして!?」

「ふんだ、ヴェルトくんのバーカ……私だって、タイミングさえあえば……やっぱり、エロスヴィッチ様にもらったこの薬使って、私も既成事実……」


 これまで色々と「お前何をやってんだ」とツッコミ入れられてきたが、「それはシャレにならん」という青ざめた目で皆が俺を見る。

 当然、元ラブ&ピースや、スカーレッドたちもそうだ。


「あっ、でも、クーちゃんはユズちゃんと仲いーんだよ? 二人でいっつもお話して……えっと、ひ、ひんぬーどうめい? っていうんだって」

「えっと、あ~……うん、なるほど、映画、『推しりの子』の二人の主人公は、その後、トイレで一つになったと……いや~、ありがとう、コスモスちゃん! また御願いね~!」


 しかもヤバイ、これ、レッド復活祭というこの世界でも歴史的大イベントだから、この会場だけじゃなく、多分神族世界全土に同時放映されているはず。

 これは、放送事故じゃ済まねーぞ!?



「おっ? はい……はい、準備が? 分かりました。えーー、皆さま、大変、長らくお待たせしております! どうやら、ついに冷凍解凍の準備が整ったようです!」



 そんな中、何かの連絡を受け取ったと思われる司会者が感極まったようにそう告げた。

 準備が整ったと。

 その瞬間、当然ながら、会場の空気が一瞬で一変した。


「さあ、転送装置とタッチパネルをこちらへ!」


 司会の男がそう指示すると、人一人ぐらい入れそうな透明なカプセルと、薄いタブレットがスタッフから運び込まれ、舞台のど真ん中に。



「さあ、皆さん。こちらの転送装置は監獄の冷凍カプセルと既にリンクさせております。私がこちらのタッチパネルで、レッドが収容されているカプセル番号をタイプすれば、レッドの解凍及び転送が始まります! そう、レッドの復活です!」


「「「「「ウオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」」」」」



 これまで、コスモスに送られてきた賑やかな声援ではない。ある種の狂気に包まれたような歓声。絶叫。思わず耳を塞いでしまいそうになるほど強烈なもの。


「ついに、復活だっつーの……橋口……」

「うん、長かったね、歩ちゃん」


 こればかりは、俺たちも止める理由はない。かつてのクラスメートとの再会だ。

 スカーレッドたちと俺たちの関係はどうあれ、まずは、クラスメートの復活だけは黙って見守ることにした。

 だが、その時だった。



「さあ、皆さん、準備はいいですか!? カウントダウンをします、皆さん、一斉に――――」


「わー、なにそれー、ねえねえ、コスモスにも見せて~」


 

 司会の男の手にあるタッチパネルに興味を示したコスモスが司会者の足に纏わりついた。

 そんなコスモスに苦笑しながら、司会の男は中腰になる。

 


「ん、あ~、コスモスちゃん、これは玩具じゃないんだよ? ほら、これはね、私たちの世界の神様を復活させるための道具なんだよ?」


「かみさま?」


「そう。ほら、このパネルに数字が浮かんでるでしょ? この数字を打って、エンターキーを押せば、私たちの神様が―――――」


「これを押すの? ピコピコポン」


「うん、そうやっ……えっ!?」



 ――――――――――――えっ!!!???


『番号入力完了シマシタ。囚人番号1634番、解凍及ビ転送シマス』


 ……無機質な機械の声が、タブレットから聞こえた。


「お、おい……い、今、こ、コスモスの奴……お、押さなかった?」

「お、押したように、み、見えた、わね……テキトーな番号を……」


 あ、あれ? ちょっと俺の娘、とんでもないことやっちゃったんじゃないの?

 ほら、司会者も会場も、そしてスカーレッドたちも顎が外れそうなぐらい大きな口を開けて固まってる。



「「「「「な……なあああにいいいいいいいいいいッッ!!??」」」」」



 そして、誰もがそう叫んだ。


「おいいいいい、こ、コスモスうう!?」

「コスモス、なんてことを! 今すぐ、皆さんに謝らないと、あ~、皆さん、私が母として責任を!」

「ちょ、これは何てこったい! どうなっちゃうんでスカイ!?」

「おいおい、朝倉ぁ、おま、お前の娘、何やってるんだっつーの!」

「予想外の展開だノイ」

「おいおい、これ、どないなるんや?」


 レッド復活祭りのはずが、コスモスがテキトーなボタンを押してしまったことで、全然違う奴が復活して転送されてきそうだ。

 そして、俺たちが大騒ぎしている間にも、転送装置のカプセルが、ぷしゅーって煙あげて、何かを転送したっぽいぞ!


「ん? ……お~……お~~~! これはこれは……嫌いデスガ……とても懐かしい魔力を感じマース」


 その時、リリィが口元に笑みを浮かべてそう呟いた。

 つか……魔力……?

 すると、その時だった!



「ああ……嗚呼……世界の生命たちよ……本当に済まない。今この瞬間、この世界の全ての者たちの美しさのランキングが……確実に一つ下がってしまった……僕は……僕はなんて罪なんだ!」



 転送装置のカプセルから発せられるスチームに包まれて、何やら自分に酔った男の声が聞こえてきた。

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