第605話 男たちよ、たちあがれ
次から次へとゾロゾロと。
今の俺は、私生活でも女に囲まれている時は憂鬱になるというのに、勘弁してくれ。
空には無数のドラゴン。目の前には忍者のコスプレ女。いきなり現れて反則的な強さを見せる鬼に、極めつけはスライム娘? 一体何から処理していいのか分からねえ。
「みんなもやめるスラ! 海が汚れちゃうスラ!」
「わっははのは、いや~、ワリーなスララ。分かっちゃいるけどやめられねえってやつ?」
「ヤシャは嫌いスラ! 環境破壊の源スラ!」
「お~お~、おびえちゃってまあ。これだから、女しかいない『深海族』ってのは、全員ガキなんだよな~」
「ヤシャ、何やってるスラ! お前ならこんな奴ら瞬殺できるスラッ! なんでやらないスラ!」
「え~? 人に言わないで、お前らもやってみろよ。母なる海を守る、海の王者、大深海族団船長・キャプテン・スララちゃん?」
あのプルンプルンに柔らかそうなよく分からん生物には、流石にほとんどの連中が反応に困っている。
それは、イーサムも同じだった。
「随分と面妖な……珍種じゃな」
正に未確認生物。ファンタジー世界じゃ定番過ぎるドラゴンやその他諸々の怪獣たちも、今じゃ俺だってそこまで驚かねえ。
でも、この何とも言いがたい、というかなんか触ってみたい、というか柔らかそうな体にダイブしてみたいとか、よく分からん衝動にかられる。
いや、それは俺だけでないはずだ。
「す、スライムのような柔らかそうな……プルプルボディ……半透明のゼリーみたい」
「柔らかさも、弾力もありそうな………」
「む、むしゃぶりついたら……おいしいのかな?」
「むふぉおおおお、欲しいんだな! あれ、欲しいんだな! どこで売ってるんだな!」
船の上の黒服たちも、「そういう店」で仕事をしている以上、女の裸体には慣れているはずだろう。
にもかかわらず、興味がつきない、スライム娘と呼ばれた生物の体。
正直、気持ちは分からんでもなかった。
「ヤシャよ、その娘は何者じゃ?」
「ん? イーサムは知らねえのか? 半年前ぐらいに戦争あったときに、深海族も関わってたんじゃねえの?」
「なに………?」
「まあ、深海世界というより、深海世界からのはみ出し者集団だけどな。大深海賊団はな」
深海族! じゃあ、まさか、こいつが……
「やれやれ、鬼嫁様は本当に口が軽い。しかし、リモコン様も深海族を見たのは初めてのようですね」
「サルトビ……じゃあ、あのヘンテコな奴が?」
「ええ、そうです。しかし、そうなると、リモコン様はまだ、深海世界も『乙姫様』とも面識がないようで……それはそれで好都合」
「ああん? なんなんだよ、それはもう! お前らいい加減にしろよな! ただの同性愛集団じゃねえのかよ!」
「ふっ、世界の支配者があまり差別的な発言をされないことだ、リモコン様」
もういい加減にしろ。俺はついていけねえと頭抱えちまった。
そんな中で、現れたスライム娘に、男たちが興味本位で声をかけた。
「おおい、姉ちゃん、そ、その、胸を触らせてくれねえだろうか?」
「かわいいね、年齢と経験人数教えてくれる? いいバイトがあるんだけど、ちょっと話聞いてみない?」
「ちょっと、一回面接だけでも……いや、研修だけでも……」
スカウトしてんじゃねえよ! つうか、嫌だろあんなの! そりゃ、触ってみたいかもだけど、やっぱ不気味だろうが!
「ったく、あいつら……おい、フルチェンコ! 部下に少し自重しろって言えよな……って、フルチェンコ?」
「………Fカップ………90……60……85……」
「品定めしてんじゃねえよ、テメエも!」
ちくしょう、どいつもこいつも!
フルチェンコの野郎なんて、昔、クラスの女たちのスリーサイズを鑑定していた頃と同じ、集中力を極限まで高めた目をしてるし!
分かってんのか? 深海族だぞ? 半年前に世界に喧嘩売った奴らだぞ?
どんな奴らか未知。
「ひぐっ! お、お、男スラッ! ……気持ち悪いスラッ! こんな奴らが海に入ったら、汚い出汁が出るスラッ!」
すると、集まる男たちの視線や言葉に、ゾッとした表情で体をプルルンと震え上がらせるスララは、か弱い女が抵抗するかのように、黒服たちに向かって何かを投げつけた。
「いなくなるスラッ! 汚い男は廃人になるスラッ! 必殺・トラブルスライムッ!」
スララの体から放たれたもの、それは自分の体の一部を切り離した、変幻自在のスライム。
そのスライムが黒服たちに襲い掛かり、袖や服の隙間に入り込んだ。
「ひっ、な、なんだこれは!」
「なんか入り込んだッ! 毒か? や、ヤバイ、誰か取ってくれ!」
「急いで服をッ……ひゃうっんん!」
そして、未知の生物が服の中に入り込んで、思わず顔を青ざめた黒服たちだが、途端に顔を真っ赤にして喘いだ。
「ちょっ、なんか、こ、これ、ぎゃう、くすぐっあ、じょわあああ、そ、そんなところは!」
「ぎゃああっ、くす、くすぐったきもち、ぎゃ、ちょ、うぎゃあああああああああっ!」
……なるほど……そういう技か……
「抗えない地獄の苦しみを味わうスラッ! この海を穢す男たち!」
鼻息荒くして、男たちに胸張って告げるスララ。
それは、街で起こったトラブルなどに対して体を張って処理する用心棒的な存在である屈強な黒服たちが、……気持ち悪い顔して、ビクンビクン痙攣しながら甲板の上をのたうち回ってしまう力。
なんつう恐ろしく、そしてアホらしい……
「ふっ、正にエクスタシークレイジーフェイス……リモコン様。あの技の前には、いかにあなたと言えど太刀打ちできまい」
「誰得だよ。死んでも喰らいたくねえな……」
「ならば、大人しく投降を進める。ちなみに、オレら『魔獣忍軍』にも、相手の尊厳を踏み躙る拷問がある……抵抗するなら、リモコン様にも実行することになるが?」
「ざけんじゃねえよ、このクソ女共がッ! さっきからどいつもこいつも調子に乗りやがって! ちょっと、いい加減にマジで俺も激オコだぜ?」
そして、ここまでよく分からん展開になり過ぎて、流石にそろそろ俺も限界になった。
こいつらは強い。ヤシャだって怪物だし、このサルトビも、そしてあのスララとかいう奴だって十分強い。
でも、それでも思っちまう。
「ったく……テメエら全員調子に乗りすぎだ……」
「投降されないですか……リモコン様……」
場が荒れすぎて、頭の中が状況についていけない展開が続き過ぎた。
でも、だからこそ、そうなると俺の頭はもう一つのことしか考えられねえ。
もう、こんな奴らに興味ねえ!
「くっそが、……もう、テメエら全員いい加減にしやがれ! 全員ぶっ飛ばすッ!」
全員ぶっ飛ばす。もう、細かいことはその後に考える。
「おやおや、オレたちを倒すとは、流石の自信だ、リモコン様は」
「がははのはーっ! ヴェンバイの息子といい、最近のワケーのは、口はいいね~。よっしゃ、スララ、あんたらも男をマジでイカせてやんな!」
「スラアアアア! だから、戦っちゃだめって、あううう、もう、どうなっても知らないスラー! もういいスラ! 大掃除スラ! 野郎共、いくスラーッ!」
俺の叫びに敵側が呼応するように動き出した。
こいつらはこいつらで、本気で俺たちを倒すようだ
上等だ!
「げっ、こいつら……スライム女たちが次から次へと!」
「まずいね……陛下、ロア王子、ジャレンガ王子がやられて、イーサムもあの鬼で手一杯だろうし……」
「おっほ~、……是非俺っちの店で一人は雇いたい、スライム娘……そして、尊厳を失っても、あのスライムプレイを体験してみたい……ここは、勇気を出して……」
「フルチェンコ様、ず、ずるいんだな、ぼぼ、僕だって……って、ドラゴンが来ちゃったんだなーっ! 嫌なんだな、あっち行けなんだな!」
俺は、情けないことを口にして押され気味の男たちに活を入れてやるべく、叫んだ。
「オラア! さっきから、情けねーぞ、男共! ファルガ、ロア、ジャレンガ! 寝てんじゃねえ! 女相手に恥ずかしくねえのか! 手え抜いてんじゃねえ! バーツ、シャウト、お前ら全然目立ってねえぞ! 何のために来たんだよ! フルチェンコ、キモーメン、それに黒服の連中! このクソ生意気な女たちにお仕置きしてやれ! イーサム、もし負けたら、孫ができても会わせてやらねーからな!」
「「「「「…………………」」」」」
さっきから、襲撃されて以降は全部、俺たちは受身に回っていた。
襲ってくる敵を迎え撃つスタイルで。
でも、そうじゃねえだろ? 男がいつまでも女相手に受身になっているわけにはいかねえだろうが。
だから、煽ってやった。
そもそもここで負けたら、攫われた女たちも救出できない。
つか、このままじゃ情けなさ過ぎる。
だから……
「つっ………ふん、愚弟が……まあ、確かにこのままじゃ、クソ情けねえ……」
「いたたたた……全く、その通りですね。ドラゴン、鬼魔族、深海族、妖怪……確かにこれを相手にいつまでも情けないところを見せられませんね」
「言ってくれんじゃねえか、ヴェルト」
「だね。ヴェルトはヴェルトで百合竜を一人で倒したんだ、僕たちがボヤボヤしているわけには、いかない!」
「……殺す……ころす……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! よくも、ボクをやってくれたね、鬼女! 月の果てまで飛ばされる覚悟はあるんだろうね?」
「なんと、孫を見せぬとは、なんともイジワルなことを言いおる! ならば、仕方ないの~……愛に狂った獣と化して、こやつら全員お仕置きじゃな」
だから、今度は男の力も見せてやる!
「じゃあ、いくぞごらあああああ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
反撃を決意した雄叫びと共に、全員が立ち上がった。
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