第602話 男の気合


「ったく……まあ、いいや。テメエらが仲良いのは分かった。勝手にイチャついてろよ。でもよ、カブーキタウンの女たちはちゃんと返せよ。別にあいつらはテメエらと何の関係もねえだろうが」

「つつ…………はあ? なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないのよ。それに、悪いけど女たちは返さないよ? 私たちの目的のためにね」

「例の国造りのためってか? ふざけんなよ。女たちが自分たちの意思で行ったならまだしも、無理やり誘拐しておいて何を言ってやがる」


 倒せないと分かっていながらも、むかついたのでもう一回爆発させてやったついでに、俺は呆れながら言った。

 すると、再びくらった爆発に、余計に怒り狂うかと思った宝石竜だが、俺の言葉に対して、今度はどこか冷静そうな口調で返してきやがった。


「決まってる…………『あの方』を………『太古の王』を復活させるため。そのためには、戦力が必要なのよ。その戦力を補い、尚且つ私たちの作る国の国民としても迎え入れられる…………だから、女なのよ」

「トリバちゃん! それはまだ言ったら……」

「いいじゃない、ディズム。仮にも前世のクラスメート…………これぐらいはね」


 あの方? 太古の王? こいつ、何を? それに、戦力ってどういうことだ? 攫ったのは女たちだけだろ? しかも、カブーキタウンで水商売をしている。それが、何の戦力になるっていうんだ?


「ねえ、朝倉。半年前までは私も神族の正体を知らなかった。聖騎士や聖王の嘘も知らず、エロスヴィッチ様と共に亜人を率いて戦っていた。すべては、戦争が終わった世界の先で、ディズムと幸せに暮らすためにね。でも、世界の真実は違った。私たちは、ただ、聖王たちの都合で掌の上で転がされているだけだった。それどころか、利用されるだけ利用されて、亜人は滅ぼされるところだった」


 ………急に真面目な話をしやがって……。

 だが、そういや、こいつらは聖王たちのシナリオを知らなかったんだよな。



「朝倉。私はね、この世界で生まれて結構立つよ。前世の記憶を思い出したときは、既にエロスヴィッチ様の副将として世界を舞台に戦っていたころだった。………ディズムと………理子と再会できたのも、もう後戻りができないほどの地位や状況に居た頃だった」


「…………トリ…………つかさちゃん………」



 りこ? つかさ? それがこいつらの名前か? チラッと船でこっちを見ているフルチェンコに視線を送ると、「やっぱり」という顔で頷いている。



「でもね、世界の真実とか、私たちが騙されていたこととか、そしてあんたたちが現れて、神乃が更に登場したり…………もう、訳が分からなくなって、ディズムと一緒に深海世界で捕らえられて、ずっと心が真っ暗った…………でもね、そのときだったの。世界の真実も、未来も、聖王も、亜人も魔族も人類も、それどころか前世すらもどうでもよくなってしまう、出会いが私たちを変えてくれた!」


「……言っちゃうんだね、トリバちゃん。うん、わかった…………うん、しょうがないよね。せめて、もう私たちが、たとえ前世のクラスメートが相手でも関係ないってことを教えてあげないとね」



 出会いが変えてくれた? 変わった? つまりこいつら、変わったってことか? もともと、こういう奴らじゃなくて? いや、レズで男嫌いってのは元からなんだろうけど。



「そう、朝倉。世界は……愛さえあればそれでいいの…………私たちは、その想いと共に集い、あの方を復活させ、そして私たちの世界を作ろうとしている! それを邪魔なんてさせない!」


「それが、私たちのリリィ同盟………すべては………私たちの王様が復活するため! その邪魔はさせない! 誰にもさせない! 許さない!」



 王…………それは、どこのどいつのことを言っているんだ? 深海族の王? それとも他の亜人? 



「エロスヴィッチ様は、私たちの関係を認めてくれた! 自分も混ぜてくれとか、そういう大きな心で認めてくれた! でもね、エロスヴィッチ様以外は、同じ亜人でもやっぱり私たちを不気味そうに見る奴らがいた! そんなの関係ないって言い聞かせていたけど、法律とか常識がいつも私たちを邪魔しようとした!」


「でも、あのお方はそれだけじゃない! 認めてくれただけでなく、私たちの進むべき道を教えてくれたの! 世界を、国を創るという道を! だから、私たちは、あの方と共に行くんだから! 邪魔させない!」



 まあ、なんだかもう、マインドコントロールされているかのように一心不乱に叫びだした二匹の宝石竜は、見ていて痛々しかった。

 正直な話、イマイチ話がピンと来なかった。

 

「はあ…………まあ、いいや、細かい話はもう少し場が落ち着いてから聞くか」


 とりあえず、今の状況では話を聞いていてもよく分からんし、やっぱりまずは倒してからにしたほうが良さそうだな。

 それに、俺一人で聞くより、みんなで聞いたほうが、もう少し何かわかるかもしれないし。

 だが、同時に俺の心はめんどくさいという気持ちが改めてよぎった。

 だってそうだろう? それで、こいつらの事情なんかを聞いて、その後はどうするか?

 攫われた女たちを取り戻して、あとはこいつらをボコってそれで終わり?

 最初はそれでよかったかもしれない。女を取り戻し、ヘンテコなテロ集団みたいなのを倒せばそれで終わりだと。

 でも、今はそれだけじゃ、終わりにすることができない。

 なぜなら、この二匹の雌竜が、両方ともクラスメートだと分かっちまったからだ。


「だったら、ボコって終わり……じゃあ、許してくれねえよな? そうだろ、先生…………」


 生まれ変わったクラスメート。そいつが何かを抱えて苦しんでるのなら、力になる。

 それが、めんどくさいが、先生が俺に望んでいること。

 だから、こいつらもボコることはボコるが、それで終わりじゃあ許されねえ。

 なんともめんどくさいことだ。


「ボコる? 何言ってんのよ! あんた、こんだけやっても私たちの鱗に傷一つつけられないくせに、いつまで大口叩いてんのよ!」

「見せてあげるよ、朝倉君。百合竜と呼ばれた私たちの真の力!」


 そして、俺のボコる発言に不愉快そうな表情を浮かべた二匹の宝石竜は動いた。

 巨大なサファイアドラゴンの背に乗るように、小型のダイヤモンドドラゴンが飛んだ。

 何かやる気か?


「この技は、かつて多くの魔族や人類を葬った力!」

「さよならだよ、朝倉君。私たちを恨んでもいいからね?」


 相当な自信があるようだ。多分なんかのコンビ技なんだろうけど…………


「まあ、いいや。とりあえずお前らは俺がどうにかしてやるよ。だが、その前にはまずは倒させてもらうからよ」


 その怖そうなコンビ技や力を発揮させる前に、さっさと倒しちまうことにした。


「無駄よ! あんたの攻撃力じゃ私たちを倒せない!」

「レーザーも、爆発も、全部私たちの宝石を砕くことはできなかったんだから!」

 

 そう、極太レーザーもビッグバンも、こいつらを傷つけることはできなかった。

 そんな相手をどうやって倒す? まあ、津波を起こして海の底に突き落とすとか方法はいくらでもあるが、ここはもっと力づくでいくか。

 つまり、こいつらが自信を持っているその宝石の肉体を突き破ること。



「なあ? お前ら、貫けないものを貫くときは、どうしたらいいと思う?」


「「?」」


「気合で突き刺してねじ込むんだよ」



 本日再びの天からの極太レーザー光線。だが、それではこいつらを倒すことはできない。

 だから、改良した。


「突き刺しねじ込み抉って削る! さあ、宝石を加工してやるよ!」


 レーザーの先端を、捩じって捩じって捩じりまくって、先端の尖ったレーザーと化し、更に回転させる!



「ふわふわドリルインパクトッ!」



 巨大なドリル型レーザー。

 超高密度の魔力を強烈なスクリュー回転させて相手にねじ込む。


「…………えっ…………あっ…………」

「…………うそ……………」


 そのドリルは、次の瞬間には、宝石で出来た二匹の竜の両翼を削って撃ち抜いて破壊していた。


「おお。ニートの技っぽいが、なんか普通にできたな」


 自分たちに何があったかも理解できない宝石竜二匹は、さっきまでの威勢が一瞬で消え、呆然とした状態のまま二匹そろって海に落下。


「とまあ、こんなところだ。安心しろよ、溺れないように助けてやるし、怪我だって治してやるよ」


 とまあ、そんなところだ。

 巨大な水しぶきを上げて海に落下した二匹の宝石竜に、最後にそれを伝えてやった。



「さあ、これにて――――」



 さあ、これで片付いた…………なんて甘いもんじゃねえってことぐらいわかってたけどな。


「…………変わり身?」


 二匹の竜の両翼を破壊して海に叩き落した。そう思っていた。

 だが、違う。

 海面に漂っているのは、二つの大きな丸太…………

 そして、さっきまで何も感じなかった空間に感じる、何者かの気配が、俺の直ぐ傍に。


「……どういう関係かは知らないが、侮りすぎだと存じます、百合竜様」


 そこには、見たこともない巨大な怪鳥が目の前に現れ、その背中に誰かが乗っていた。

 足元には、肌を露出した竜の角と尾を生やした二人の竜人。気を失っている。ひょっとして、その二人こそ、百合竜の人型の姿かもしれない。

 で、一方でこいつは何者だ?


「忍者の格好……ッ、誰だテメエは!」


 忍者ルックの黒頭巾! だが、船の上に現れた連中とは少し違う、白くて目立つロングコートを黒装束の上に羽織っている。

 素顔は分からないが、若い女の声が聞こえるが、尾から出ている長い尻尾。そして、頭巾から飛び出している耳は…………猿?


「…………オレは、暗殺ギルド、魔獣忍軍二代目頭領………サルトビにございます。二つ名は……乱波らっぱ猿魔えんま


 とにかく…………ツエーな………こいつ………


「リモコン様…………その首を戴きたく存じます」


 そして、その時だった。

 


「そして、後ろの連中は、『彼女』に任せよう。さすがに、武神や十勇者たちを、オレ一人では難しいので」


「あっ?」


「参られよ。…………地獄の剣闘鬼………鬼嫁様」



 目の前の忍者が誰かを呼んだ瞬間、俺の後方にあった皆の乗っている船に、巨大隕石が墜落したかのような衝撃音が響き渡った。

 

 なんか、次から次へとごっちゃりしてきやがった。

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