第381話 始まりへの決着

「ッ、それは…………」

「ワリーな、地上にも似た技があり、俺も似たような技を使えるんでな」


 ニートに対抗するためにも、俺も開発したばかりの俺なりの魔導兵装を見せつける。

 驚いた表情のニートは俺に対して……


「いや、そうじゃなくて……不良も技にイチイチ名前つけるんすね」

「……………………」

「でも、俺も相当恥ずかしいぐらい自分の技叫ぶんで、よろしく」


 もう慣れたと思っていたのに、指摘されるとハズいが、集中。

 魔力と螺旋。それぞれの衣を纏って、むき出しにする心。


「ああ、来いよ」


 そのぶつかり合いは、時には言葉以上のものが伝わり合うというのは、何となくこれまでの人生で実感した。

 そういうの、されるのは嫌いだった。「この熱血野郎ウザイ」とすら思った。

 それを、まさか俺自身からやることになるとは思ってもいなかった。


「螺旋テンションマックス!」


 言葉はあまりにも冷め切っているが、この溢れるエネルギーはガチだと分かる。

 ニートの全身を纏うエネルギーが渦巻き、収束され、そしてその形はひとつの巨大な螺旋を作り上げる。


「な、なんというエネルギー!」

「バカな、あれは我ら螺旋五槍を遥かに上回る生命エネルギー!」

「なぜ、あんな駄作があれだけの力を!」

「螺旋のエネルギーが形を変え、ニート・ドロップ自身を巨大なドリルと化したか」

「あんなの、私でも初めて見ます! これが、ニート君の本気………」

「へ~、付け焼刃の紋章眼は関係なく~、これがニート君自身の力」


 ああ、確かに巨大なエネルギーだよ。

 これが、ハーフだ駄作だ根暗だ紋章眼だ、そんなもの関係ない。ニート自身の魂。


「くはははは、ニートがついに社会復帰したかのように、随分と気合入れてるじゃねえか」


 上空に浮かび上がり、巨大なドリルとなってその刃先を俺に向ける。

 一回転する事にその風切り音が、突風のように地下世界に吹き荒れる。

 既に、誰もニートを半端物とは見ていない。ただ、自分たちの想像を遥かに超えた存在であると言葉を失っている。


「さて、それじゃあ俺は………どうすっかな?」


 俺も魔導兵装を纏っているが、ここからどうするか?

 正直、ニート自身の纏うエネルギーそのものを、ふわふわキャストオフで無理やり引き剥がすという手もある。

 だが、それは面白くねえ。ガラにもなく俺がベタな青春ドラマみたいな役をしてやってんだ。

 一度演じたからには最後まで演じてやらねえと、最後が締まらねえ。

 でも、そうなると俺には? ユズリハとの合体はKY過ぎる。レーザー警棒じゃ防げねえ。レーザービームはドリルの回転に弾かれる可能性もある。

 結局俺にできるのは、ふわふわ技を使った………ん?


「おお、あったよ。ガラにもなく熱血的で、バカみたいな方法がな」


 俺はそれを思いついた瞬間、警棒をホルスターに収めて、ニートドリルの正面で仁王立ちした。

 その俺の行動に誰もが「何をする気だ?」と思ったかもしれないが、そう難しいことじゃねえ。


「来いよ。受け止めてやる」

「………………はい?」

「テメエが俺に風穴を開けられるかどうか………問題はそれだけだ」


 お互いの力をぶつけ合うんじゃない。

 受けてやるよ、テメェの力を。


「………………ゴミ婿?」

「ちょっ、なにをするつもりですの、ヴェルトッ!」


 何を? バカなことだよ。

 確かに失敗したら大マヌケだが、俺にはどこか自信があった。


「さあ、ビビってねえで来いよ! 引きこもりの根暗が本気出したって、努力が足りねえからあんま大したことはねえって教えてやるよ!」


 これまで外の世界で粋がってきた俺の力は、こいつの狭い世界に閉じこもっていた力には負けないだろうという。


「……俺、空気読めないんで、ほんとどうなっても知らないんで」

「くははは、他人を気遣うとは、随分と普通になったもんじゃねえかよ。ニート」

「は~~~……あんたも相当すね。じゃあ、ほんと遠慮しないんで」


 ドリルの回転が加速。正にマックススピードで全エネルギーを込めた一撃を打ち込む気だ。

 巨大なドリルが巻き上がる空気や塵の全てを切り裂き、粉砕し、俺に向かって真っ直ぐ振りおろされる。



「最終螺旋・ビッグバンドリル!」



 そのドリルを避けるでもない。流すのでもない。

 俺は受け止めなくちゃならねえ。

 すべてを包み込み、回転に逆らうように………



「ふわふわワールドメリーゴーランド!」



 俺がこの力を編み出してから数年して編み出した初歩的な技。

 相手の体を軸にしてその場で勢いよく回転させて、目を回したり意識を飛ばしたりする技。

 俺はその回転を、ニートのドリルの回転と逆方向にするようにニートにかける。


「ッ!」

「回転を止めてやるよッ!」


 ニートは半端な魔力は簡単に弾く。だからこそ、俺も半端じゃダメだ。

 回転に逆らいながら回転を止める! そのあまりにも強引すぎる作戦。

 だが、ニートの回転力は想像以上に強く、うまく勢いを殺せねえ。


「何する気か知らないけど、ヴェルトくんまずいでしょ!」

「おい、ゴミ婿! ゴミ婿ーッ!」


 遠隔操作じゃダメだ。もっと近づき、相手を俺の間合いに呼び込んで………

 

「あなたはいつもそうやって………自分一人で目的や、やるべきことを見つけ、自分だけのこだわりを持って、いつも自分ひとりで………傍にいたい、力になりたいと思う女の気持ちも考えずに………ひどいですわ………」


 その時、ユズリハたちが悲鳴のような声を上げる中で、静かに、しかしハッキリと呟くフォルナの声が聞こえた。


「それでも、あなたはアサクラリューマではなく、ヴェルト・ジーハとして存在してくださるのであれば、ワタクシはそれで構いません。だから……ヴェルト! 魅せて!」


 ああ……勝利の女神様も信じてくれているみたいだしな。

 


「ツラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」



 距離を詰めるどころじゃねえ。もう、触れてやる。

 回転するドリルを受け止めるかのように両手を伸ばして、俺はドリルに触れた。

 その瞬間、強烈な回転が一瞬で手の皮を剥ぎ、鮮血が飛び散る。

 痛く、そして熱く………でも………


「なんつう寂しい野郎だ。こんなドリルを持ってるくせに、広い世界に飛び出そうとせずに穴ぐらに閉じこもりやがって」

「……黙れ……同情されるとか、一番ウザいんで」


 色々と伝わってくる。流れ込んでくる。ニートの感情が。


「親もいない。流れる血も不浄。前も今もこれからも! 恋を信じれない、友達いない、その程度でひねくれちゃダメなのか? 閉じこもっちゃダメか? 知るかよ全部持ってる奴が言うんじゃねえ!」


 それは、ずっと蓋をしていたはずの理性に、ドリルで大きな穴が開いたように、激情が溢れ出てくる。


「それで、なんだ! お次はありきたりな、世の中にはもっと不幸な奴がいる、とかいう説教パターン? 立ち直っている奴もいる? 知るかそんなもん! 何で会った事もない奴らと比べられて見下されなくちゃいけないのか、全然分からないんで!」


 誰の声も届かない暗闇の世界で一人で閉じこもり、諦め、ただ息をするだけの人生。


「生まれ変わったら、今度こそ普通になりたいと……でも、なんでいつも俺は……俺だって、もっと……色んなものが欲しかった……」


 助けを求めたくても求めずに、傍にいてくれた人を信じたくても信じきれず、誰とも繋がろうとしなかった。



「……見事だ……ヴェルト・ジーハ……そして、ニート・ドロップもだ」



 ピイトの賞賛の声だけが響き、そして決した。



「そんな……うそでしょ、あんたどうなってんの?」



 刃先が正に俺の顔面に突き刺さる寸前。しかしそこからドリルは一歩も進まず、一回転もせず、俺の眼前で停止した。

 回転しようとするニートの力と逆回転しようとする俺の力がうまく相殺され、回転を完全に停止させた。

 停止したドリルの中からニートの震える声が聞こえ、俺は言った。



「ニート……ちょっと引きこもりが本気出したって……リア充にひがんでるだけじゃ……何も変わらねえよ」


「………………ッ………」


「テメェも少しは外に出て、人に誇れるぐらい充実したリアルを掴み取って、過ごしてみるんだなッ!」



 鮮血にまみれた手を力強く握り締め、ドリルとまではいかなくても乱回転させた気流をまとい、俺は停止したドリルを力いっぱいぶん殴ってやった。

 形状を維持しきれなくなったドリルは粉々に砕け散り、ニートは高らかに宙に舞う。

 あの高さから落ちれば、無事じゃすまねえな。だが、俺が手を貸すまでもなく………



「ニート君ッ!」



 泣いてばかりの妖精が、ただニートを助けるために飛んだ。


「ニート君、ニート君! ニート君ッ! わ、た、わたしは………ッ!」


 自分より何倍もの大きさのある質量を必死に掴みながらゆっくりと降りてくる妖精とニート。

 

「あ……体がバラバラに砕けそう……」


 ニートにうまく言葉を伝えられなくても、ただ必死に呼びかける妖精に、ニートは小さく答えた。


「……いっつ……リア充に説教されて、殴られて……負けて……へこむ……」

「ニート君……」

「生まれ変わって本気出しても、何も変わらないんだ、ほんと……でも……こんな本気出したの、生まれて初めてかも」


 妖精の放つ治癒のような光の力に包まれて表情がどこか穏やかになっていくニート。

 優しく妖精に体を地面に横にされながら、ニートはただ上を見上げて呟いた。


「……なんで……あんた、もっと楽に勝てたのに……こんな面倒なマネを?」

「ああ」


 今にも意識が途絶えそうになりながらも、それでも俺に問いかけるニートの言葉に、俺は自然と答えていた。



「俺は、自分はリア充なんかじゃないと勘違いしていた時期があった。俺も、スタートラインはイタイ考えをしていたからな。不良学生だった頃も。農民の息子として生まれた時も」


「………………?」


「でもさ、いざ、惚れた女が手の届かない所に行ったり………親バカな両親の愛情を素直に受け取れないまま永遠に会えなくなったりして………悲しかったがその分、これからは後悔しないようにと思うようになった。まあ、それでも後悔は何度もするけどさ」


「それってどうゆう………」


「いや、俺も口ではうまく説明できないんだけどな、ニート……テメェの素直になれねえ、ひねくれた意地の張り方を見てるとよ、なんか他人に思えなくてよ……つい、かまっちまったんだよ。それだけだ」



 戦う前に感じた。俺はひょっとしたらこいつになっていたかもしれないという思い。

 それはニートにとっては信じられないことかもしれないが、それを聞いたニートは、小さくため息を吐いて全身の力を抜き、そして体を大の字に広げていた。


「リア充じゃないと勘違いしていた時期……じゃあ、今はリア充だって認めるんだ」

「ん? くははははは、そりゃーそうだろ。ダチも多いし、そもそも、俺に嫁が何人居ると思ってんだ? しかも全員普通にしてればスゲー美人だし♪ 子供は可愛いしな」

「……惚れた女は? 不良学生が好きになった女はどうすんだ?」

「ん? さあ? 地底世界ではどうかは知らねーけど、地上じゃこういう言葉があるんだよ。『それはそれ。これはこれ』ってな」

「………ふひ………………」


 その時だった。


「はは、ぷくく、あはははは………あ~、あんたには本当、女に刺されて痴情のもつれで不幸になって欲しいもんだな」


 皮肉をいいながらも、ニートは笑った。

 自嘲するような笑みでも、他者を嘲笑うような笑みでもなく、純粋に笑っていた。

 俺もそれを見て、気づいたら笑っていた。





――あとがき――

ビックリ! 下記のカクヨムコン短編賞に投げた作品が、週間総合5位でした。自分で皆さんに「読んでください」と言いながらビックリです。ありがとうございます。せっかくですので、まだ見ていない方々いましたら是非に下記リンクからどうぞ。



『白馬に乗った最強お姫様は意中の男の子を抱っこしたい』

https://kakuyomu.jp/works/16816700429486752761



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